第八十五話 大暴れ、スモーデビル軍団‼
次回は四月十七日に投稿します。
(巨峰の野郎、アレをやるつもりか…。場合によっては俺が出て行く必要があるな)
天辺龍は溶接工の人が作業をする時、頭に被っている防護マスクみたいな仮面ごしにグレープ・ザ・巨峰の姿を見ていた。
かつての巨峰、キャメロット部屋のスモーナイト嵐洲浪兎は春九砲丸との対決に直接敗れ記憶の大半を失ってしまった。
今の巨峰は本能だけで戦っている状態に等しい。
だが嵐洲浪兎として永劫にも近い時をただ一人で戦い続けた巨峰の力は凄まじく春九砲丸自身も稽古で命を失いかけた経験もあった。
二代目、天辺龍こと春九砲丸はキャメロット部屋の底知れなさと彼らを全滅にまで追い込んだスモーゴッドたちオリュンポス部屋の力に恐怖を禁じえない。
そして、ここにもう一つ脅威足り得る力士が存在する。
例の戦いの後、オリュンポス部屋の親方にして至高の力士ハデス山から追放されたゼウス山が力の一部を与え鍛え上げた最恐の力士スモーデビルの存在である。
現に三角墓と名乗るスモーデビルは耐えていた。
両腕と片腕を失い、さらに内臓の幾つかを失っても土俵の上から動こうとしない。
先ほどから相撲の鬼”グレープ・ザ・巨峰”が動かないのは余裕からではない、
満身創痍の敵を攻めきれないのだ。
「スモーデビルはただでは死なぬ。グレープ・ザ・巨峰、天辺龍。お前らのいずれかを天の高みから我らを見下すハデス山のところに送ってやる…ッッ‼」
”ハデス山は冥界を根城にしているので見下ろすのではなく見上げるのでは?”という無粋な疑問を口にするヤツはここにはいなかった。…いるはずもないのだ‼
「その意気や良しッ‼」
巨峰は前進してから素早く三角墓の身体に取りついた。
三角墓は歯を食いしばり残った左脚だけで巨峰の肉体を支える。
次の瞬間、三角墓の傷口から血が溢れ出した。
三角墓は口を引き裂かんばかりに開き、左の首筋に牙を突き立てようとする。
(何という闘志。ついぞ忘れていた。純然たる命の奪い合い、これが相撲…ッ‼)
巨峰は片手を外して左側に回り込んだ。
その間、掴んだまわしを離すことは無い。
巨峰の足が土俵の砂を巻き上げながら激しい曲線を作り出す。
まんまとまわしを取られてしまった三角墓の肉体は持ち上げられ浮き上がる。
グレープ・ザ・巨峰、渾身のすくい投げだった。
このまま三角墓が地面に叩きつけられることになれば命の保証は無い。
「まだ倒れぬ」
グレープ・ザ・巨峰の剛力をもってしても投げきれない。
それは三角墓の意地だった。
「…おおッ‼」
天辺龍が思わず吼える。
それは惜しみない賞賛の声。
三角墓は片脚だけで堪えた。
五体満足の力士でも絶命を免れない大技を片脚で残ったのだ。
三角墓は吠える。
スモーデビルの意地を見ろ、とばかりに。
「スモーデビルをこんな雑な投げ方で倒せると思ったら大間違いだぞ、スモーナイトども‼俺を倒したければまずそのご大層な仮面を外して来いッ‼」
三角墓は首を反対側に反った。
そして距離を作ってから一気にグレープ・ザ・巨峰の額に向かって頭突きを食らわせる。
グレープ・ザ・巨峰はよろめきながら二、三歩後退した。
(確かに届いた。この私の魂にまで…。実に嬉しいぞ、三角墓とやら。お前の燃え盛る闘志から”奴”の存在を感じる。我が宿敵、ハデス山の存在を…ッ‼)
グレープ・ザ・巨峰は大きく左腕を引いてから張り手を打った。
そのまま全身の動作を加えて鉄砲の乱れ打ちをお見舞いした。
三角墓は顔を血まみれにしながら笑った。
「面白い!それでこそスモーデビル!倒し甲斐があるというものだ!もう小細工は無しだ。我が”渇かぬ聖泉”張り手をとくと味わうがいい‼」
「ぬおおおッ‼エジプト男子をなめるなぁぁ‼俺のピラミッドはまだ盗掘されてはいない‼されていないのだああああッッ‼‼」
グレープ・ザ・巨峰と三角墓の壮絶な張り手と頭突きの応酬合戦が始まる。
グレープ・ザ・巨峰は足一本で挑む男に容赦はしない。
あくまで一個の敵として徹底的に叩き潰すつもりだった。
そして三角墓も決して歩みを止める事は無かった。
自慢のネメス布が破けようが、顔が腫れ上がろうが無我夢中で頭突きを放った。
心の中には常に生死を共にした六つの影があった。
相撲の悪魔と罵られ、蔑まれてもスモー大元帥の配下に加わった事に微塵の後悔も無かった。
「スモーデビル、三角墓。足一本でここまで食い下がるとは、流石はあの男の弟子と褒めてやろう。何か言い残す事はあるか」
数分後、真っ赤な案山子となってしまった三角墓が立っていた。
だが闘志は衰えること無く、目は死んでいなかった。
巨峰の心は遥か過去にスモーゴッドに戦いを挑んだ己の姿を三角墓に重ねる。
見逃してやる、もしくは仲間に誘うという選択肢もある。
しかし、あの時の時分同様に三角墓もそんな事は望んでいないだろう。
二人の力士が一度、土俵に入ると出て来られるのは一人の力士のみ。
三角墓の姿に天辺龍とグレープ・ザ・巨峰は深く心を打たれた。
「ほざけ。もう勝ったつもりか。例え首だけになっても、お前たちのどちらかを倒す…。それがスモーデビル魂だ」
それは三角墓の最後の意地だった。
グレープ・ザ・巨峰は右手にガイアフォース・アルファの顕現たる赤き闘気を集める。
スモーナイト、嵐洲浪兎の最強奥義”渇かぬ聖泉張り手”を最大出力で放つ。
「まさかこの技は…‼」
この時、三角墓はグレープ・ザ・巨峰の思惑とは別の事を考えていた。
三角墓は初見であるはずの”この技”を知っている。
なぜならばこの技はあの憎きキン星山という四股名を継承する力士の使う技に似すぎていたからである。
(この勝負の収穫は…あった。キン星山とは、スモーナイトとはそういう事だったのか。伝えなければ、スモー大元帥に…。我らスモーデビルの戦いには裏があったのだ…ッ‼)
三角墓は念力で片方の眼にグレープ・ザ・巨峰との戦いを記録する。
後は失踪した三角墓を捜しに来たスモーデビルの誰かが三角墓の意志を引き継ぐだろう。
三角墓は薄れゆく意識の中で頼れる仲間たちの横顔を思い出す。
いつも不真面目だが実力者の吉野谷牛太郎。
クールで使命感の強いサスペンションX。
自信家で皮肉屋の大西洋。
見かけ通りに義に厚い山本山。
流行にうるさい歩行男。
そして神出鬼没でいつも何を考えているかわからない、暗黒洞。
(スモーデビル・セブンに栄光あれ…)
赤い光は激流となって三角墓を飲み込む。
その威力は偽りの世界を破壊し尽くし、天辺龍とグレープ・ザ・巨峰は現実世界への帰還を果たすのであった。
「…。主よ、出過ぎた真似をしてもうしわけありませんでした。私も力士の端くれゆえ、類稀なる強者を前につい力んでしまいました」
グレープ・ザ・巨峰は膝を折って頭を垂れる。
しかし、天辺龍は忠実な家臣よりも空中に現れた渦のような物を見ていた。
突如として出現した”渦”は広がり人が通れそうなほどの大きさの穴に変わる。
「やってくれたな、スモーナイトども。タダでは帰さんぞ…」
次元のトンネルの中から黒き異形の力士が姿を現す。
全身が玉虫色で顔の中央は常に渦巻いている。
腰には「事象の地平」と書かれた赤いまわしを身につけ、胸にはカタカナで「ワームホール」と書かれていた。
スモーデビル暗黒洞は瀕死の重傷を負った三角墓を胸に抱きかかえていた。
どこが鼻と口かはわからなかったが、雰囲気的に怒っているのは間違いなかった。
「ほう、まだ生きていたか。しかも仲間まで来ているとは、嬉しい誤算だぞ」
「…生憎だが、お前の敵は俺ではない。後ろの男だ」
天辺龍とグレープ・ザ・巨峰は同時に背後を見た。
激突する直前の出来事だった。
天辺龍は咄嗟に両腕を交差して防御に徹する。
対してグレープ・ザ・巨峰は全身に力を込めて受け止める姿勢を取った。
「後ろから失礼します、って密告ってンじゃねえよ」
吉野谷牛太郎は頭を下げて狂猛なる二本の角を見せる。
彼の”ぶちかまし”は初速度は早くは無いが、一度勢いを得てしまえば回避不可能な速度に達する。
当たれば必殺、全てを巻き込み粉砕するその技の名は”嵐の輪舞”ッ‼
「ぬうッ‼…強烈だな」
天辺龍は攻撃を受ける直前に後退して威力を殺した。
わずかに体勢が崩れたが軸を揺らすには至らない。
一方、グレープ・ザ・巨峰は腹に角を突き立てられ身体ごと持ち上げられていた。
鎧の隙間から血がポタポタと流れ落ちる。
そして、剣道の面っぽい防具の隙間から吉野谷牛太郎を睨みつける。
「この程度の攻撃では温すぎるぞ、スモーデビルよ。どうせなら私の心臓を突き破るくらいの事はやってみせろ」
吉野谷牛太郎は笑った。
そして巨峰の腹部に刺さった角を引き抜く。
大きな傷口は既に塞がっており、血は流れてはいなかった。
吉野谷牛太郎は左足で蹴爪よろしく土俵を掻き、グレープ・ザ・巨峰を見た。
「お望みならばいつでも地獄に送ってやるぜ、おっさん‼…俺の相棒がなあッ‼」
吉野谷牛太郎はニヤリと笑った後、頭上を見た。
ビョンッ‼ビョンッ‼
何かが物凄いスピードで飛び回っている。
ビルの隙間で跳躍を繰り返し速度と威力を上昇させているのだ。
ビョンッ‼ビョンッ‼ビョンッ‼
その男の肉体は鋼鉄にして螺旋ッ‼
如何なる衝撃も己の力に変えて敵を倒すッ‼
「俺のダチをよくも痛めつけてくれたな!スモーナイトだか何だか知らねえが、コイツを食らって死んでもらうぜ‼サスペンション・ミラージュからの…マッハスペシャル‼」
壁と壁の間で加速を続けるサスペンションXの容赦ない体当たりがグレープ・ザ・巨峰の巨体を貫いた。
グレープ・ザ・巨峰は巨体をグラつかせながらサスペンションXを捕まえようとするが動きが早過ぎて捕らえることは出来ない。
その隙を狙ってサスペンションXはビルの頂上まで移動した。
そして今度はビルの壁に体を打ちつけながら垂直に降りてきた。
「ケケケーッ‼くらえ、これが俺の奥義スパイラル・クラッシュ・エンド投げだーッ‼」




