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穴があったら入りたい

昔々、ナガコというものがいました。

やや唐突ですが、昔々のそのまた昔から「穴があったら入りたい」という言葉があります。

ナガコは高貴な身分の姫でしたが、なにもかもふり捨ててそれを実行しました。

自分で、深い深い穴を掘って、そこに閉じこもってしまったのです。

家臣たちが毎日穴の縁にやってきては、「そのままではいけません」とか「お立場というものがあります」とかやいやいとうるさいのですが、「立場なんてクソ喰らえ!」と言いながらほんとうにクソと土を投げつけ返したので、みんな悲鳴をあげて帰ってしまいました。

穴の深さが足りないから、うるさい邪魔者がやってくるんだとナガコは考えました。

ですから、ナガコは掘って掘って、掘りまくって、そうしたら根の国につきました。

そこはいにしえの黄泉と地獄が渾然一体になったような場所でした。

決して顔を見せないえらそうな女が「まあ、生きたままここにいらっしゃるお人がいるとは」と驚いてました。

「なにか望みがおありなのですか? だれかを連れ戻すとか」

と、問われたので、ナガコは不遜な態度を隠そうともせず

「望みなんてあるわけがない。そういったいっさいから逃れようとしたら偶然ここを掘り当てたのだ」

と、答えました。


女は「まあまあまあ」と言い、「ちょうどここも、大陸の地獄というものに変わりかけているのです。でも急に地獄なんてものになってしまいましたから、獄卒が足りず困っていました」

「これもなにかの縁、ここで手を貸してはいただけませんか?」

ナガコはじっと黙って、深く考えました。流されるようにして働くのはナガコの望むところではありません。

しかし、地上にはムカつくやつらがたくさんいることはたしかです。あいつらは全員地獄に落ちるだろうとナガコは確信していました。

それまでナガコはそいつらに意にそまぬことを強要されたり、いじめられたりしていましたが、逆にそいつらをいじめることができたらなんて胸のすくことでしょう。

なんにせよ、もうナガコは地獄の入り口にいるのです。引き返すのは難しそうです。

「わかりました。お引き受けしましょう。でもお休みもちゃんともらいますし、わたしはやりたくないことはやりません」

「かまいません。よろしゅうおねがいしますね」


そういうわけで、ナガコは生きたまま破格の高待遇で地獄の獄卒として迎え入れられました。

獄卒という仕事にナガコは天賦の才があったようで、毎日高笑いしながら心底愉快に働いたそうです。 

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