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 むかし、鬼ヶ島と呼ばれる島がありました。

 そこに棲むものたちの多くは島の外から打ち棄てられるように流れてきたものたちでした。みんなどこかが欠けたり過剰だったり、尋常でないかたちや色をしているところがありました。ところがときには、ふつうのというのか……なんの変哲もない子どもが島に置いていかれるときもありました。いわゆる捨て子というやつです。

 けれども、鬼ヶ島はとてもふところの深い島ですので、そういうときは寄り合いでの話し合いの末、必ず捨て子の引き取り先が決まりました。


 その子どもは、桃色の産着に包まれて小船に乗せられて島に流れ着いたので、(とう)と名付けられました。桃を育てたのは膚が赤くて、故郷では鬼婆と呼ばれた身寄りのないおんなです。鬼婆と呼ばれていましたが、実際は婆というほどの歳ではなく、桃とは年の離れたきょうだいとも言えそうな年の差でした。

 桃は島中からもらい乳をして、すくすくと育ち、あっという間に年ごろになりました。あるときから桃は、自分の育ておやを見ると、胸の奥がギューッとなってざわめくようになりました。不快な感覚ではなく、気がつけばいつも育ておやのおんなを目で追ってしまいます。島の角の生えた長老に相談すると、「それは恋というものべさ」と教えられました。そうか、これが胸を焦がす恋というものなんだと深く腑に落ちました。

 桃は、後先考えず育ておやのおんなにそれを告げました。

 おんなは驚いて、桃から急いではなれて「ああ、なんということだ。おらはどこで間違えてしまったのだろう。桃を立派に育ててやろうということだけ考えて今までやってきたのに」と肩を震わせ身も世もなく泣きました。

 桃は反論しました。

「そんなに泣くことはないだろう。この島にはいろんなやつがいる。みんな変だしふつうだ。おれの見た目に変わったところはないが、ちょいと中身が他と変わってたっておれもふつうだ」

「だとしても、おらは桃にそんなふうに見られるようになるとは夢にも見なんだ。ああ、もう一緒に住めはしない。この家を出ていってくれ」

 おんなは育て子の恋を受け入れませんでした。

 桃は仕方なく家を出ました。しばらくは島の友の家に間借りをして暮らしていましたが、ときおり赤い膚のおんなとばったり会ってしまうのがどうにもつらく、島外に出ることにしました。


 島を出る日、見送りに来た赤い膚のおんなへ「母ちゃん……」と呼びかけましたが、言葉が続かず、押し黙ったまま小舟を一人で漕ぎ出して島の外へいってしまったのでした。離れて小さくなっていく島を背に、おれの姿かたちに変わったところがなかったのは、いつかこの島を出て行くためだったのか……と思い馳せたのでした。

  

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