高貴な卵
昔々、さる高貴な奥方が子を孕んで、生まれるのをそれはそれは楽しみにしていました。ところが生まれたのはひと抱えもある大きな卵で、奥方の嘆きは深く産婆にそれを捨てさせることにしました。
産婆はある霊山の滝壺に卵を投げ入れて、子は死産ということにしてそれっきり忘れてしまいました。
滝壺に捨てられた卵でしたが、竜に拾われて大切に育てられました。生まれたのは玉のような赤子ですくすくと育ちましたが、ひとつだけ常人と違うところがありました。全身に鱗が生えていたのです。子は父であり母である竜に尋ねました。
「わたしはどうしてこのようにあいまいな姿なのでしょう」
竜は「このような姿に生まれたのがおまえの運命なのだ。おまえだけのさだめを探しなさい」と諭しました。竜は賢く、ときに残酷でした。
子は旅をすることにしました。
さいわい身体は丈夫で怪我や病気をすることはありませんでした。旅の中で竜の子は様々な経験をし不快な目にあうことも多くありました。
あるとき、「人魚の肉は不老不死の霊薬!」と武士の集団に襲われました。
どうやら人に化けた人魚と勘違いされたようです。竜の子は武士の集団をやっつけたあと、事情を聞き出しました。
さる高貴な奥方が呪われて重い病に苦しんでいるというのです。
竜の子は奥方に会いに行ってみることにしました。
床の中の奥方は、震えてうなされていました。
現と浮世をさまよいながら「たまごたまご……」と言うので、「卵がどうかしましたか?」と尋ねると「わたくしが産んだたまご」とぽつりと返ってきました。
そのとき、竜の子は自分の運命の始まりのありかを知りました。この哀れな女が己を産んだのです。
竜の子は言いました。
「あなたに会えてよかった。これで心置きなく竜になれる。あなたも自由になりなさい」
言うやいなや服を脱ぐように、竜の子の人の皮がぱっくり割れて、なかから神々しい白い竜が出てきました。
身の丈、6丈はありそうな立派な竜で屋敷の屋根を突き破ってそのままするすると天へのぼっていきました。
竜が去るとざあざあと雨が降り、あとにはきれいな虹が残りました。
その奥方は雨に洗い流されてひさしぶりにさっぱりとした気分で目覚めると、すぐに夫と離縁し自分の好きなことをして生きたということです。




