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第09話 ヒーロー 遭難する

第09話 ヒーロー 遭難する



 腰痛様の復活は早い。鐘の声は聞こえてこないが、「盛者必衰の理をあらはす。奢れる人も久からず、ただ春の夜の夢のごとし」である。

 腰痛の「アイアムヒア」のアピールの(ジャン)はガンガン俺の大脳辺縁系や前頭部に鳴り響いている。

 そんな訳で、俺はもう何度目になるかもしれない大クリニックへの道を歩んでいた。

 腰痛は一瞬の油断で舞い戻ってくる。今回の復活はLANケーブル配線で「場所を変え複数回床に胡座をかいた」のが原因だった。(胡座は腰痛の最大の原因である)


「んじゃ、ず~っと胡座かいて修行している禅宗の坊主はどうなのよ?」


 と思うだろうが、ヤツらは尻の下に座禅用の座布団を敷き込んでいる。


 実際、アニメの小坊主の様に、座布団なしで結跏趺坐すると、瞑想状態を意味する脳味噌からのα波の発生があんまりよろしくないらしい。確か、某国営放送の番組でそのような解説をしているのを見たような気がする。

 座禅座布団があることで、背筋が伸びて瞑想しやすくなるそうな。加えて、腰椎への負荷も劇的に減る。(いいとこずくめなので腰痛持ちは是非購入しよう。ちなみに扱いは仏具屋になる。密林で購入すると浅草の仏具店から発送されてくるぞ!)

 まぁ、LANの配線作業に座禅用の座布団を持ち歩くわけにはいかんだろう。何せアレは仏具だ。縁起が悪いと敬遠されるんじゃなかろうか?(仏具→縁起が悪い。神具→それほどでもない。という風潮らしいが、これは確実に差別。宗教迫害ではないだろうか?)


 まぁ、割とどうでもいいんだけど…。


 一般に腰痛は腹筋と広背筋を鍛えることで抑えられると言われている。というか、軽度の腰痛はこれで対応するしか手がない。

 だが、医者に通い、決して安くはない診療代払って痛みを取り除いたのに、諸悪の根源の近所に負担をかける筋トレなんぞ怖くてやれない。いつ腰痛の素が腰の近所から腰そのものに「引っ腰(上手い!)」するかも知れない。

 そんなこともあり腹筋、背筋トレーニングを行わ(え)ないのだ。で、この有様だ。うん。明日から筋トレしよう!(いつもそう思ってる)

 大クリニック最寄り電車の駅からクリニックへの道は決して遠くはない。が、そこに向かっているという時点で腰にダメージがあるわけだ。健常者は病院なんぞに用事はない。

 大して遠くはない距離なのだが、今回は特にとんでもない距離に思えてくる。そして、腰痛が酷い場合は地獄坂の前にも難関が次々と立ち塞がる。

 それらを次々にクリアし、大クリニックに向かう俺の前にラスボス(地獄坂)の前菜、幹線道路とそれを跨ぐ歩道橋様がその偉容を現す。

 交通量増加に伴い、押しボタン信号付きの横断歩道が廃止され歩道橋が新設されたらしいが、これは大変腰によろしくない。

 歩道橋も近年のものなので架設位置が高く、上り下りの階段の段数も当然多い。上りはそれほどでもないのだが問題は下りだ。体重の大部分が足先から股関節を経由して腰椎を直撃する。自転車用のスロープを使うという手もあるのだが、その場合は常に腰に負荷がかかるため大変よろしくないのだ。

 一段階段を下る都度「ううっ」とか「ああっ」とか声が出そうになるのだが、40超えたおっさんの声はアダルティな動画のおねぃさんの声と違って周囲に嫌悪感しか撒き散らさない。

 うめき声を必死でかみ殺して一段一段、階段を下るしかない。

 階段を下るには、まず上らなければならない。目の前にそびえ立つ歩道橋の階段に向かって一歩を踏み出そうとするのだが、これからの我が身に起こる痛みを考えると尻込みしてしまう。

 ため息をついて気分を切り替え、歩道橋を見上げると歩道橋を下ってくる物体が目に入ってきた。

 「物体」。もちろん人間様なのだが、アレを人類にカテゴライズしてよろしいものだろうか?端的に言うと「メガトン核爆級」のボディ(威力が若干落ちるがMK3型の原子爆弾をイメージしていただければ問題ない)を持つ老齢の女性(いわゆるBBA)がピンヒールを履いて歩道橋を下ってきていた。

 いや、マヂ危ない気がする。回転していない地球独楽がゆっさゆっさと揺れながらこっちに迫ってきている感じだ。あんな体重を支えるピンヒールは偉い!褒めてやりたい!


 いわゆるフラグだったと思い当たったのは随分あとの事だ。歩道橋の下からでも十分に聞き取れる澄んだ音が響くと物体X(便宜上、百キロBBAと呼称する)の体重をたった2本で支えていいたピンヒールの片側が折れ、支えをなくした巨大な物体が歩道橋を転げ落ちるというか、吹っ飛んできたというか…。

 とっさに避ければよかったのだが、そのときなぜか俺はこの百キロBBAを受け止めることができると判断してしまったようだ。(後で我が身に起きた諸々を勘案して、後悔したのは言うまでもない)

 両腕を広げ、中腰でBBAを受け止めたのだが、慣性の法則と運動エネルギーと重力加速度を甘く見ていたらしい。(俺的には)すさまじい勢いでBBAの巨体が俺を直撃した。

 うん、ミル・マスカラスのフライングボディアタック以上ではないかと思われる。となると、エル・カネッククラスか?受けたことないけど…

「ごりっ」とも「ぱきゃっ」とも聞こえるような音が俺の頭に響き後頭部が路面にめり込むような気配を感じた。ついでに腰の蝶番が粉砕される感覚も…うん。やった。これは終わった。と思う間もなく俺の意識は消えた。


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