鍛錬より大事な事
準備運動を済ませた後、赤ダンでカールを1セット15回する運びとなった。アイナとエイミーは同じ重量だが、タチアナには初めての為、小さいのを渡されたが…。
「!…熱い…。」
熱さのあまり手にする事もかなわなかった。自分の隣にいるアイナとエイミーは造作もなくこなしている。
(…どうして…、どうしてわたしは持てないの…。わたしが…、エルフだからって事なの…?エルフは火等の熱い物や岩のような重い物が苦手なのはわかっているけど…、いきなり拒絶されるなんて…。)
タチアナは何故自分が赤ダンを持てないのか疑問を抱いた。隣の二人が造作もなく扱う様も拍車をかけた。
「団長…、やはり私には…。」
タチアナはメフレックスに自分には無理だと訴えた。
「手にしただけで熱を発するのは何故だと思うかしら?」
メフレックスはタチアナに何故赤ダンが熱を発するのか尋ねてみた。
「私がエルフだからでしょうか…?」
タチアナは自分がエルフだからだと思った。エルフはドワーフと真逆で熱い物や重い物や暗い場所が苦手なかわりに風と水と明るい場所を得意とする種族だ。
「いいえ。あなた…、結構疲れているわね。人は疲れている状態だとかなりのBEを帯びるの。赤ダンが熱くなったのは火のEL粒子とBEが反応したからなの。とにかく、そんな身体で鍛錬はすべきじゃないわ。」
メフレックスはタチアナのかなりの疲労を見抜いた。
「どうして…、私が疲れているのですか?」
タチアナは自分が疲れている事に納得いかない様子だ。
「今までの自分の生活を振り返ってみなさい。」
「…。(わたしの生活で心当たりは…、まさか…、酒…?)」
メフレックスに自分の生活を振り返るよう命じられたタチアナは心当たりが休み前にかなり呑んでいた酒である事に気付いた。
「タチアナ…、教員用宿舎の用務員から休み前、あなたの部屋から酒の臭いがする挙句、翌日には起床の時間になっても起床せずという報告があったの。それに今だって酒が抜けていない。」
メフレックスはタチアナを指差し、彼女のオフでの生活態度の悪さを指摘した。
「そんな…、講義の前日は酒一滴も呑んでいませんけど…。」
タチアナは自分は講義の前日は酒を呑まないよう心掛けていると伝えた。
「納得出来ないなら、赤ダンに息を吹きかけてご覧なさい。」
メフレックスはタチアナに赤ダンに息を吹きかけてみるよう命じた。
「はい…。ふぅー…。!!…」
タチアナが赤ダンに息を吹きかけると赤ダンが一瞬炎を帯び、その炎に動揺した。
「赤ダンが炎を帯びるのは呼気に酒を帯びているからよ。わたし、大酒呑みの隊員を嫌と言う程見て来たの。大酒呑みの者がヒッタイト製の武器を手にした途端、火傷のあまり訓練どころじゃなかったの。わたしも、酒は呑まないわけじゃないわ。呑んでもグラス一杯程度なの。」
「…。」
「そうね…、今のあなたには教員として教壇に立つよりも、うちの医療棟でリハビリに勤しんで貰うわ。エイミー、アイナ、わたしと一緒に先生を医療棟に連れて行くわよ。」
「はい。タチアナ先生、失礼します。」
「うん。」
「…。」
エイミーとアイナは承諾し、メフレックスと共にタチアナを鉄騎士団医療棟に連れて行った。




