酔いどれ教諭の悩み
ある休日の昼、鉄騎士団直営ティーンアカデミー教員用宿舎の一室で緑髪にて左目元の黒子が特徴の尖り耳の女性が二日酔いの状態で寝転がっていた。彼女の枕元には空の酒瓶が数本転がっていた。暫くしてドアをノックする音がした。
「タチアナ、もう朝食の時間とっくに過ぎてるよ!」
サバサバした女性の声がした。タチアナはやっと目を覚まし、ふらふらしながらドアを開けると、褐色肌のオーバーティーンの女性がいた。
「…おはよう…、ルミナ…。」
寝ぼけたようにタチアナはルミナに挨拶をした。
「『おはよう』じゃないだろ!いくら今日が休みだからって酒ばっか呑んでんじゃないよ!」
ルミナはタチアナの枕元にある酒瓶を指さして激昂した。
「…もう…、今日は休みだからいいじゃない…。」
「いいわけないだろ!教員はな、学徒どもにきちんと示さないといけないんだ!二日酔いで教壇に立たれちゃ同僚のうちは勿論皆困るんだよ!」
「…今日はしっかり休むから…。」
「なあ…、話変わるけど…、あんた…、最近太ったね…。ま…、休み前の度にこんなに酒呑んでちゃ太るのも無理ないか…。」
「!…。(…えっ…、わたし…、太ってる…!?)」
同僚のルミナに自分が酒で太っている事を指摘されたタチアナは動揺した。自分で腹回りを触れてみて確かに弛んでいるのも拍車をかけた。
「とにかく食事と水持って来る。今日はおとなしく休んでな。」
「…。(…やっぱり…。)」
ルミナは部屋を後にした。
食事を摂った後、タチアナは自室のベッドで一人物思いに耽っていた。
(…ルミナ…、わたしが太ってるって…。まあ…、ここ最近小説の題材が見つからなくてついつい酒に手を出してしまうのよね…。)
タチアナは教員として教鞭を振るう傍ら、副業で小説を書いている。中には国境なき騎士団に支持されて各ガルドで出版される作品も出る程だ。しかし、国境なき騎士団の役人の為、売上は全て国境なき騎士団に印税として納め、貰える金は役人としての給与のみだ。
(…そうだわ!小説の題材が見つかったわ!題名は…、『友人に太ってると言われてダイエットしたら最強になりました!』にしましょう!)
タチアナは小説の題材を思いついて狂喜した。
一方、AU会館のトレーニングルームでは、メフレックスが指導の元、エイミーと共に赤ダンで筋力トレーニングをしているアイナはくしゃみをした。
「アイナ、大丈夫?」
エイミーはアイナを気にかけた。
「うん、平気平気…。(…まさか…、誰かがうちの噂してるのかな…?)」
アイナは気を取り直して筋力トレーニングを再開した。
話を戻してタチアナは机に向かって小説を書こうとするも、全くペンが進まなかった。
(やはり…、AU会館のトレーニングルームで実際にダイエットして経験する必要があるわね…。今日はしっかり休んで、明日勤務を終えたら行ってみましょう。)
タチアナはベッドに戻って休む事にした。そして翌日、予期せぬ出会いが待っている事を彼女は未だ知る由もなかった。




