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番外編 聖夜くらい、ツンデレ令嬢を甘々に溶かしたい(ツンデレ美少女令嬢SS)

 


「私と、クリスマスパーティー?」


 彼女は、ひときわ大きな声でそういった。

 大理石のテーブル、シャンデリア。広大すぎる敷地。豪邸という言葉が似合う家だ。そのリビング、黒革のソファーに、僕は腰かけている。


「だって許嫁だろ、美麗。互いに愛し合うって決めたよな」


「そんなの陸夜の勝手じゃない! 私はあんたのこと好きだなん

 て思ってないし」


「嘘つけ」


「嘘じゃないし」


「好きでもない相手と、人生棒に振る覚悟で結婚できるかよ」


「前言、撤回する……」


「ならよかった、美麗」


「でも、今日は26日だけど?」


 ***


 笹倉グループ。日本を代表するような財閥。

 数年前の母親の再婚により、美麗は笹倉グループの一員になっていた。


 今や彼女は、正真正銘のご令嬢だ。

 とはいえでも、僕ーーー沢田陸夜にとっては、美麗は"幼馴染"という印象が強い。


 中学のときにはふたりきりででかけるほど仲が良かった(異性としての意識がなかったが)。


 彼女が僕の学校に転校してきて、僕が告白してから様々なことを乗り越えて、今に至る。


 ***


「せっかくここに来てるんだからいいだろう?」


「今日は笹倉グループの案件があったから仕方なく陸夜を呼んだだけです」


 学校から、美麗のお抱え運転手、椀台《わんだい》さんによって直できているので、僕らはふたりして制服姿だ。冬服でも、美麗は映える。

 流れるようなサラサラの黒髪を伸ばし、黒縁のメガネをかけている姿は、やはり絵になると思う。

 やんちゃさとおとなしさが程よく同居している感じが、やはりたまらない。


 これまで長い丈だったはずのスカートも、少し短めになりつつある。タイツを履いているものの、短い丈は目に毒だ。


「忘れたか? クリスマスだ。恋人同士、パーっと何かやるっていうのも楽しいと思うんだが」


「それはただの陸夜の固定概念でしょ。私がきいてるのはなぜよりによって今日なのかってこと。今日クリスマス終わってます」


 そういって美麗は、テーブルに置いてあるシャンメリーをコップに注ぐ。そして、飲む。いちいちその仕草が艶かしかった。


「シャンメリー、余ってたんだ」


「まあね」


 それはそうと、クリスマス終わったが何だか、いいだろ、美麗。うるさいっていったら起こりそうだからやめておく。


「それは置いといてさ、笹倉家では昨年どんなクリスマスだったんだ?」


「陸夜ガン無視? 人の話きいてももらえるかな? 家族で、例年やっているパーティーをやっただけだよ」


「そうか。で、なぜクリスマスも終わった26日にしたかってことだけど」


「ようやく教えてくれるのね」


「すまない、25日は寝不足が祟って一日中寝てた」


 今週はサッカー部出身のイケイケ同級こと明日翔(あすと)から進められたゲームにのめり込んでしまったがために、まともに寝ることもなく三徹はしていた。


「それなのにあんたって、『恋人同士、パーっと何かやるっていうのも楽しいと思う』とかいってるわけ? ふーん。何よ今更」


「せっかく美麗に対して誘ってるのにそれはないだろう」


「私だってさ、昨日あんたとパーティーをするものだと思ってたんだけど?」


「お、もしかして誘ってもらうの待ってたのか? 自分から誘うとあれだからって」


「違う、断じて違う! そんなあんたなんかに……」


「もう結婚して夫婦になるのも遠くないからさ、いい加減折れてくれよ、一応俺のこと……」


「好きじゃないっていってるでしょ、バカ。好きじゃない、っていうのは、嘘だけど」


「はっきりしてくれよ」


「まあいいわ。一日遅れのクリスマスも、三徹の話もよくわからないけど。実はね、笹倉家のパーティーは今年だけ今日らしいの。たまたまかもしれないけどよかったわね」


「はじめからそういってくれればよかったじゃないか」


「うるさいわね」


「なんか冷たいなー」


「冷たくないから。あーもう」


 そういったタイミングで、美麗の鞄の中から着信音が鳴り響く。


「あーもしもし、はい。え? これから? はい、わかりました」


「誰からだ? 美麗」


「さっきまで笹倉家で話し合いをしてたでしょう?」


 少しだけ、財閥関連の議論に、自分も身を投じていた。それが終わり、各自自室にいたとのことだったが。


「そうだな」


「私以外、みんなして雨宮家にいくんだって」


「光一さんのお宅に?」


 ナルシストが激しくて、とにかく態度・言動すべてが自分によっていた、元美麗の婚約者。

 美麗が彼を拒否して、どうにか僕と彼女とで婚約者の関係まで持って来れたことが懐かしい。


「そう。しかも泊まりがけで。この家には、私たちしかいないって」


 男女が、聖夜(の翌日)にふたりきり。自分が理性を保っていられるかは少し怪しいものがあった。


「料理は冷蔵庫の中に入ってるから、それを温めるだけいいって」


「ああ、ああ」


 動揺しすぎて、適当な返事しか自分にはできなかった。


「ちょっと変だよ、陸夜」


 ふだんは自分の姉のように、意味深な言葉で誘惑(笑)をするはずの美麗が、なぜかこのシチュエーションで無反応だった。


 まさか、何も気づいていない?


 もう誰も帰ってこない、二人きりの夜。


「悪い、少し考え事してた」


「そっか、ならいいや。あ! ちょっと毎年やってること思い出したから一旦ソファに座って待ってて」


「了解」


 小走りに部屋を出ていった美麗を見て、ついため息をついてしまった。何かおかしい。

 美麗は、もっと僕に対して反抗的で、時にあまい面を見せてくれるだけでいい。

 今日は、明らかにあまあまだ、これでも!


 いいのか、こんなに優しくて(感覚が鈍っている)? 今日、生きて帰れるのか?


 しばらくすると、美麗は帰ってきた。ただ、衣装は制服ではない。


「んっ?」


 そう。頭にツノのカチューシャをつけ、茶色い手袋をした上に、茶色いワンピース。


「どう? 私、トナカイのコスプレしてみたんだけど、どうかな?」


「これは……」


 手をパッと開いて、キョトンとした目で首を傾ける美麗。

 僕は、天使を見てしまったらしい。


 こんなことがあっていいはずない。たとえ、それが聖夜だったとしても(なお26日)!!


 いいんだ、今日がクリスマスじゃなくたっていい。ふだん絶対みれないような可愛い姿を拝めるだけで、いいんだ。


「ごめん……なんか、泣きそう……」


「ちょっと、あんたが泣いてどうするのよ」


 トナカイが駆け寄ってくる。大きな手袋をしたまま、彼女は涙を拭いてくれた。


「違うんだよ、もう、あんまりにも美麗が可愛すぎるから」


「あ、ありがと。笹倉家って、毎年のパーティーでこうやって仮装をしながらクリスマスを過ごすらしいの」


「すごいな、さすがは一流財閥だ」


 べつにそういうことじゃない。もう美麗がここにその格好で存在してくれていることだけでよかった。


「なんか照れるな」


 なんの屈託もなく、ニコッとしてこちらを見つめる美麗。

 メガネから覗く瞳に、何の下心もなかった。


 このままだと、昇天してしまいそうな予感しかなかった。


「ああ美麗、最高……」


 やばい。三徹の疲れが。瞼が急に重くなる。体が、持たない。


 ***


 気がつけば、頭の下に、慣れない感触が。

 膝枕を期待したが、そうではなく、ただベッドの上だった。

 見渡すと、ファンシーなものばかりであたりは埋め尽くされていた。


「目、覚めた?」


「ああ、今何時だ?」


「もう夜の11時だよ」


 ここに来て、二人きりになるのが確定したのは、夜の7時。

 せっかくのクリスマス(翌日)を、4時間も潰してしまった。


「ごめんな、せっかくのクリスマスなのに」


「いいの、私は陸夜が元気なら」


「ここ、美玲の自室か?」


「そうだよ」


「いい部屋だな」


「何でも褒めればいいってもんじゃないんだけど?」


 いいじゃないか、と僕はいった。

 心からの言葉だよ、とも。


「メシは、どうした?」


「これから。もう腹ペコだよ」


「待たせて悪かったな」


「いいの。私は陸夜との再開に2年も待たせちゃったんだし」


「そういえば、そうだったな」


 僕は、ベッドの上から立ち上がる。

 少し、沈黙が続く。


 それを、切り裂くかのごとく。


「陸夜、キス」


「ん?」


「キスしたいの、あと、その先も」


『その先』というのが何をさすのかは、察しがついた。


「もし私たちの子ができても、大丈夫だし」


「冗談きついな、美麗」


「冗談じゃないから」


 じっと見つめられる。そんなことをされたら、理性なんて解けてしまいそうだった。

 今日の美麗は、何だか変だ。


 何もしていないのに、途中からあまい。下手にツンツンしなくなりつつある。そう、トナカイのコスプレしたあたりから、おかしかった。


 何が原因だ? 思い出してみる。


「そうか!!」


「何、もう、いいから、キ・ス、してぇ〜」


 いつもの美麗じゃない。もうキャラ崩壊もいいところだ。原因に気づいた僕は、急いでリビングまで戻り。


「これか」


 テーブルの上のシャンメリーをみる。

 ラベルを見れば。


 これは、シャンメリーなんかじゃない。

 シャンパンだ。


 そして、僕は悟った。


 ああ、彼女の甘さは、酒が原因だったのだと。


 たとえ彼女の手違いだったとしても、それがよくないことだとしても。


 お酒の力だろうと、彼女の甘い面が見れただけm、僕はうれしかった。


 彼女の部屋に戻ったら、なんと声をかけよう。

 またシャンパンさえ飲まなければ、あの甘い美麗をずっと見ていたい。


 遅めのクリスマスプレゼントが、やって来た気がした。

※未成年の飲酒は法律により禁じられています

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