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34 夏祭りは無事に済ませたい


 ◆◆◆◆◆◆


 夕方、奏流夏のSUN祭り当日。


 高校の校門前に、僕はたったひとりで立っている。もちろんみんなは誘ったのだが、到着するのが早すぎたために暇をしている。


 さて、今日の楽しみはなんといっても。


 美麗の浴衣姿である。


 幼馴染の可愛いところは、どうしてもみたいものらしい。胸の高まりを抑えながら、美麗たちを待つ。


「お待たせ〜!!」


 はじめにやってきたのは、美麗だった。


 着ているのは、ピンク色の浴衣。色の主張が激しくなく、自然と風景に溶け込んでいる。かわいい、というより綺麗と表現した方がふさわしい。


 まさに、「美麗」という名前が似合う姿だ。


「すまない、待たせたな」


 僕と明日翔は普段着で、小丸は美麗同様、浴衣姿である。こちらは水色がメインの色になっている。小柄であるせいか、高校生ではなく中学生みたいだ。


 棚葉も誘おうとは思っていたが、最近は文化祭の準備担当が違うために、疎遠気味だ。少し誘いにくかったので、断念してしまったのだ。


「みんな、揃って、よかった」


「小丸、今日はめいいっぱい楽しもうな!」


「お、明日翔テンション高いじゃん」


「なんてったって夏のSUN祭りだぜ! 年関係無く、祭りになったら盛り上がってしまうもんだろう。もっと自分に正直になれって。子供みたいにはしゃぐぞ、今日は」


 ひとりだけ夏祭りにかける思いが違っていた。


 時間にして五時を回った頃。まだ祭りも始まったばかり。


「なあ、早速屋台でもやってみるか」


 少年にかえったように、明日翔はめぼしい遊び場所を探して走り出した。


「ほんと、明日翔君ったら」


「そう思うのはわかるけどさ、せっかく祭りだから、っていう気持ちもわかるだろう」


「そうね。じゃあ、私たちも楽しまなくちゃだね」


「私も、そう、思う」


「決めた。今日はみんな童心に帰って遊び尽くすぞ」


「「「おーーーー」」」


 ◆◆◆◆◆◆


 テレビ番組を見ながら、ボクは緊張を沈める。来る時をただ待つだけ。


「光一お坊ちゃん。今日はそわそわしているけど、何かあって?」


「いいや、何でもないよ、母さん。気のせいだから気にしないでおくれ」


「何かあったら私にいってちょうだいね」


 少しずつ、息を整えていく。胸騒ぎがしてならないのさ。


 ◆◆◆◆◆◆


 王道の屋台ばかりだ。金魚すくいもやったし、焼きそばやとうもろこしも買ってみた。


 明日翔は怒涛の食欲を見せ、脅威のペースで食べ物の屋台を巡っていた。ついでにカレーや焼きイカの屋台にもいくらしい。


「明日翔くん、本当にすぐいなくなるんだから」


「まあ美麗、すぐに戻ってくるよ。小さい頃からああいうやつなんだよ、明日翔は」


「陸夜ならそういうと思ってた」


 私と小丸は、とうもろこしをちまちまと食べていた。


 少しずつ日が暮れてきて、本格的に祭りらしくなってきたところ。


 時間は、六時四五分。


 ふと、なぜ奏流に来たのかが頭をよぎる。


 椀台は、私を地獄の日々から掬い上げてくれた。まるで金魚掬いみたいに。金魚掬いに例えるのも安っぽいけど、薄い膜で、ぎりぎりのところを椀台は助けてくれた。


 私、本来は私立高校の生徒。財閥には隠しているけど。バレないって信じるしかない。でも……。今の私は、なぜか弱気だった。虫の知らせ、なのかな。


「あれ、もしかして……」


 一筋の汗が、私の頬をつたう。斜め掛けカバンの中から、スケジュール帳を取り出す。

 今日の予定は。


 ────私立高校 文化祭最終日


 ふと、カバンがバイブを鳴らした。送信主は、雨宮光一だ。



「もしもし、私だけど」


「美麗サン、文化祭は楽しんでいるかね」


「あ……ええ、もちろん。年に一回の大型行事ですから」


「へえ。僕はこれから、奏流夏のSUN祭りに向かうところなんだ。なんだろうな、電話越しに和太鼓の音がきこえてくるな。君の私立の文化祭、例年だと太鼓なんて使わなかったはずだけどな」


 盆踊りのために、太鼓が力強く叩かれている。まさかだとは思うけど、私が今奏流にいると、勘づいているのだろうか。


「まあ、例年と今年が同じとは限らないし……」


「ふーん。じゃあ僕は奏流で今年の夏を茜さんと楽しむとするよ。じゃあ、僕は学校全体を散策するとするよ」


 電話が切れた。なんとしても、この局面を乗り切らないと。鼓動が早まる。絶対に見つからないようにするしかない。


 もし、雨宮光一に私の居場所を特定していたら。考えただけでもぞっとした。

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