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32 夏祭りの到来

 姉の看病配信は、どうにか乗り越えた。


 あいつの変態具合が露呈しまくったことが思い出される。あれから姉は、ゲームの実況配信などで時間をうまくつぶして二四時間配信を乗り切ったのだった。


 実は、もう八月になってしまった。文化祭のための準備と部活動で潰れる日々が続く。


 そんな中で、僕らには一応しっかりとしたイベントがある。


 生徒主催の、夏祭りだ。


「もう明後日だな、夏祭り」

 オタ芸を踊りながら、明日翔がいってきた。


「お前ずっとその話しかしてないじゃんか」


「いいじゃないか、夏祭りに喜ぶような気持ちがあったって」


「あの……ダンスまだ完成してないから、もうちょっとだけ頑張ってもらえるか

 な?」


 小丸が口を挟む。


「そうだな。陸夜、話は後だ」


 前半パートのダンスの詰めをおこない、同時並行で後半の動きを考える。数々のダンス動画(主にプリキラ)を見漁った結果、だいたいダンスの王道の動きが、素人ながらに掴めてきていたのだった。


「……ワントゥースリーフォー、ボックスボックス」


 小丸の合図に合わせ、クラス全員が簡単に動きを合わせる。荒削りであるものの、形にはなってきている。


「このくらい、やればオッケー、かな。今日の練習終わり!」


 小丸がダンスに関しては完全にクラスを仕切っている。


「つかれたー」

 制服姿の美麗が、床に手をついて休憩を入れた。ダイナミックな動きが多く、制服では厳しいものがある。とはいえ、奏流高校では登校時は制服と決まっている。着替えるのが面倒くさいためにクラスのほとんどは制服で動いているのだ。



「そろそろ夏祭りの話、またしていいか」


「いいぞ」


「なんせ花火が上がるんだよ、花火。文化祭のときみたいな大掛かりなやつじゃないけど、やっぱロマンがあるだろ、ロマン」


「屋台とか巡るつもりはないの、明日翔君」


「みんながいくんだったらいくかな、くらい。本当に花火なんだよ」


「こだわるな。明日翔らしくないな」


「いいじゃない、陸夜。明日翔にだって好きなことがあるわけだし。夏祭り、みんなで行こっか」


「小丸は、賛成、かな」


「うん」


「よしっ! この流れなら陸夜もいくよな」


「もちろんいくわ。お盆前の、いわば夏休みの前半最大のイベントなわけだし」


「よっしゃ! 夏祭りー夏祭り」


「ほんと子供みたい。すごく懐かしい感じでいいんだけどさ。本当に行くなら、私浴衣でも着ていこうかな」


 美麗の浴衣か。さぞかしお高いものを着てくるのだろう。


「私も、着てみようかな」


「小丸も着るんだ! 俺楽しみにしてる、ふたりの浴衣」


 さらっといえてしまうところが、明日翔のすごいところだよ、本当。和気藹々と盛り上っていたものの、ふと彼女の存在が脳から消えていたことを思い出す。


 棚葉、あいつも誘わないと。彼女を目で追って探すが、見つけることはできなかった。

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