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30 曖昧な日に僕らはタップダンスで揺れたい

 オタ芸研究に時間を費やし、そのまま部活に直行するだけで、1日は瞬く間に終わってしまう。


「美麗!」


「せっかく今日は一緒だっていうのにさ、おそいよ」


 昇降口で靴を履き替えようとしたところ、左の方に美麗の姿が見えた。部活の終了時間が同じであり、送迎の車の待機場所が校門前ではなくて駅の近くまで伸びていたために、これまでは一緒に帰れていた。


 今は、昼と夜の狭間の時間帯。沈む夕日に照らされてても、美麗は変わらず綺麗だった。横顔を見ただけでも十分ドキッとしてしまう。会う頻度が減っているせいなのだろうか。あいつに対して敏感になっている。


「お、美麗喜んでくれた」


「一緒に帰れるという事実を述べただけ。うれしいとかそういうのじゃないから」


「もっと素直になれよ」


「陸夜の前ではかなり素直な方だと思うけどな」


「すみません、何でもないです」


「もう、そんなにしゅんとしないでよ」


 嬉しくないと口走っていたものの、彼女はテンションはやけに高かった。口笛を吹きながら、タップダンスをしていた。同じフレーズを繰り返すから、僕も途中で覚えた。僕は、鼻歌美麗の口笛に重ねた。おかしかったのか、僕らはくすくすと笑いあってしまう。じゃれついているカップルにしか見えなさそうだ。


 いつしか僕も、美麗のように歩きながらタップダンスをしていた。


「ねえ、陸夜。ちょっとこのリズム真似してみて」


 美麗はローファーでアスファルトを叩く。軽やかにタップする姿は、妖精のようだった。


「こんな感じか?」


「陸夜、それちょっと違くない? タンタタンタンタじゃなくて、タンタンンタタンタだよ。ちゃんとリズムきいてた?」


「タンタがタンタンだろうが正直何がなんだか。でも、これって童心に帰ってきたみたいで

 楽しいな」


「小学生並みの感想じゃないの」


「いいじゃないか、小学生並みだって。そんでもって、小学生みたいな無邪気なことも、たまにはしてもいいんじゃないかと思ったりもする。ときには馬鹿なことをするのも必要なんだよ」


「馬鹿なこと、ね。なら明日、帰り道は私が一箇所連れていってあげる。楽しみにしていなさいよ」


「大丈夫なのか、迎えの車とか」


「そこはしっかり相談しておくから」


 それからまたタップダンスは続き、いつの間にか駅につき、別れた。


 翌日。


 相変わらずオタ芸などのダンス研究が続き、それとなく踊り方を身につけていった。曲のどんなところで似たような動きが多いのかをとにかく分析し、できるだけ王道を主軸にダンスを組み立てていく。オリジナリティは後からでよかった。


 まずは、人に見せられるようなレベルのものを作り上げることが優先事項だった。


 昨日のタップダンスが頭から離れなかったので、試しにタップダンスっぽい動きも研究したり、実演したりもした。小丸だけは、歴代のプリキラのダンスを何周も見ている。


 流れるように時間が過ぎると、次は部活の時間。


 とにかく走ることだけに専念した。タップダンスをしていたときの如く、地面と一体化するような、そんな深い感覚を意識して走った。


 地面と接続できたかのような感覚に陥った僕は、ゾーンに入っていたらしい。記録も、少しではあるが縮まっている。


 部活が終わったので、また美麗と会える。今回は美麗が連れていってくれるという話だったので、胸が弾む。美麗の方は、部活が長いらしい。


 数十分待っただろうか。長いようで短い時間が過ぎ、階段から彼女は顔を覗かせていた。


「お待たせ」


 軽く手をあげ、階段の上からにこやかに彼女はいった。


「ちょっと遅いじゃん。あれか、ちょっとミーティングが長引いたとか?」


「そう、まあそんなところ」


「ふーん」


 それから少し間を置いて、彼女はいった。


「じゃあ、いこっか」


「今日の幹事は美麗なんだからさ」


「せっかくの夏休みなんだしさ、夏っぽいことやろうよ。隣の駅まで電車でいって、そこからいくから」


「楽しみにしてるから。たとえどんなところにいっても、美麗となら楽しいから文句はないから安心してくれ」


「そんなことわざわざいわれるとちょっと気分悪い」


「グサッとくるからやめてくれ」

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