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28 夏休みには期待したい

 僕は、姉の愛海がやってくるという想定外の出来事に遭遇した。ただ、それも慣れればなんてことはない。


 朝。今日は、夏休み前日だ。


 家に帰れば、姉が配信をしていることだろう。近くの本屋で時間を潰して帰ってきても、それをいいことにライブ放送の時間を延長するので、結局家で静かにしていないといけない。


 文句をいいたいところはやまやまだったが、姉には数万人規模のファンがいるのだ。毎日の放送を楽しみに待っている。その人たちのことを思うと、僕は口出しできない。


「姉さん、いってきます」


 布団の上で、姉はまだゴロゴロとしていた。


 クラスメイトは浮き足立っていた。なんせ、待望の夏休みだからな。


 教室につき、美麗や明日翔、棚葉たちと雑談をしているうちにHRの時間を迎えた。そこから書類配布、成績配布などがおこなわれる。


 そして、ついに。


「さあみんな。知っているとは思うが、明日からは何の日だと思うかな? 君たちにとっては野暮な質問だろうけど」


「夏休み、ですよね」


 織野がこたえる。


「半分正解、半分不正解といったところだろう。いいか、奏流高校の生徒たるもの、『ただの夏休み』を送ることは許されていない!! いいか、全員『最高の夏休み』がやってくるぞ!! 盛り上がる準備はできているか」


「「「ウェーイ!!」」」


 そうだ。担任は変に熱血なのだ。頭いいけど馬鹿なのだ。まるで火傷と凍傷が同時に襲ってくる感覚だ。



「────ということで、予定を配布していく」

 思ったより、予定がつまっているな。


 夏休みの到来を祝福し、全員でハイタッチして後、夏の予定表配られた。文化祭に対して割かれる時間が半端ではない。


 夏休みを潰しにかかる勢いで、午前中を埋め尽くす。部活は午後からだ。


 そうなると。


 おい、部活に今更入って後悔してももう遅いってか。もはや休日がなかった。もちろん毎日文化祭の準備の予定が入っていた訳ではないものの、


 ことごとく予定表に「文化祭準備」の文字が埋まっている。まあ、たとえ家にいたとしても、ダラダラして無駄な一日を過ごすだけだ。それを考えると、部活や文化祭準備をしてい

 た方が健康的だけども。


「あれ?」


 文化祭準備だけじゃない。予定表をよく見ると、学校主催の行事がいくつか記されていた。

 二、三年生主催の、夏祭りと同時開催の花火大会。勉強合宿。さらにはクラス別外出というものもある。


「きっとみんなは、学校主体の行事が多くて驚いているだろう。この学校は文化祭だけではなく、自主的にこのような楽しい活動をおこなっている。夏休み以降もあるだろうから、ぜひ楽しみにするといい」


 夏祭りでは、花火大会が盛り上がるらしい。勉強合宿はクラスの親睦を深めるために、学校に泊まり込みで夏期講習をするとのことだ。クラス別外出は、クラスの友人たちとどこか好きな場所にいっていい日らしい。他の日は文化祭準備や部活動で忙しいからと、学校がとってくれた休息日だった。


 ここまで行事があるのだ。美麗と関わる機会も増えてほしいものである。


 下校が始まると、僕は真っ先に美麗の席までいった。


「あのさ、美麗」


「何。いうならはっきりしなさいよ」


 やけに当たりが強かった。


「夏休み、行事多いだろ。だから、一緒に過ごせる時間が増えそうでうれしいな、って」


「本当にそれだけなの」


「せっかく行事なんだし、夏が本格的にやってくるんだから、カップルらしいこと、やりえ

 なって思っただけ」


 ふーん、と興味なさそうにいった美麗。口調はそうだったが、照れを隠せずに、口元が緩んでいる。


「べ、別にあんたとの夏休みのこと考えて、にやけそうになったとかじゃないからね!!」


 いつも通りの、不器用な美麗で安心した。

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