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19 ふたりは部活に入りたい 前編(陸夜視点)

 今朝の僕には、ひとつ悩みがあった。そう。


 暇だ、ということ。


 美麗と延々とはなす時間が最高すぎて、部活に無所属のことなんてどこか記憶の遥か彼方に飛んでいってた。


 さて、他の幼馴染ふたりの部活はというと。


 明日翔はサッカー部所属。そして棚葉は陸上部。明日翔はいいとして、棚葉の引き締まったボディは部活のおかげだという。美麗と僕は、無所属。


 なお、部活の入部率が九割を超える本校では、部活に入っていないのはクラスの少数派。他に部活入ってないやつなんていただろうか。


 そう、教室に放課後、誰も残らなかった原理は。部活動に加入しているやつは、活動忙しすぎて教室に残る時間がなかったから。そして、部活に入っていないやつは速攻帰宅していたから。こうして、あの空間が成り立っていたのだ。


 このことは、推理ものの小説を眺めていると思いついた。実際に頭が良くなっているわけではないけど、緻密なトリックは、見ているだけでひとつ賢くなったつもりになれる。


 脳が錯覚しているだけでも、実際に頭が良くなったりするのが人間というものらしい。プラシーボ効果とかいったかな。偽薬でも信頼できる医者に出されたら本物の薬と同じ効果が出るアレ。そんなことで推理ものの小説で時間を潰していると、いつの間にか廊下にいる美麗の姿を発見した。


 下をうつむいて歩く彼女。教室に入るとき、ビクビクしながら扉のレールのあたりを見ていた。きのうの美麗も壊れていた。とにかく曲を歌いまくることで発散できていたとばかり思っていたけど。


 全然そういったそぶりもなく、逆に悪化しているのではないかと思ってしまう。

 学校では暗いキャラを演じている彼女の仕草。はっきりとその日の感情によって変わってくるが、他人はそこまで意識していない。見ているようで、何も見ていないものだ。


 自分も含めて、周りのみんなは自分が認識できる範囲だけを世界だと勘違いするらしい。その世界を広げるべく。今日の放課後は、部活見学に誘おう。


「で、話って何かな。きのう歌いすぎて疲れてるんだけど。どうしてあんたのいうことなんかきかなくちゃいけないのかな」


 放課後、大事な話があると、朝のうちに伝えておいた。陰鬱とした表情は、ホームルーム後には消え去っていて、モードが切り替わった普段の美麗の顔になっていた。


「いい加減さ、僕たち部活入らないと不味くないか。ここ、文武両道を掲げてるしさ、これ以上部活に入らなかったら、また呼び出されるんだよ。もうあれめんどくさい」


「いや、それは陸夜の事情じゃない。私はあなたと違って財閥関連のことがあって大変なんです。変に動くと口うるさいから、あの家」


「そりゃそうだよな、悪い悪い。でもせっかくの青春だろ? 最終下校時刻はここで雑談して帰るときの時間と大差ないわけだしさ」


「いわれてみればそうね。わかった、検討してみる」


「検討してみる、ね。じゃあ今からいこうよ。いいだろ」


「いこ、って。私たちがふたりでいるのをみられたら色々困るんだけど。別行動じゃだめかな」


「いいじゃんか、一応さ、あの……あれだ、あれだろ、一応。つきあってるわけ

 だし? まあいんじゃないないか」


 一瞬考える素振りを見せたのち。


「仕方ないわね。でも、ひとつだけお願い。私の半径五メートル以内に近づかないこと。これ、条件ね」


「まるで小学生みたいな回答しやがって」


 いってくれるという回答だけで、嬉しかったけどね。

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