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16 ふたりでカラオケを楽しみたい

「あとさ……これから、カラオケ一緒にいこ」


 そういって彼女は、教室を抜け出した。僕のことなんか構わず、先へ先へと進んでいった。外では小雨がぱらついていた。


「おい、待てよ」


 あたふたしながら靴を脱ぎ、下駄箱に投げ入れる。僕より美麗は華奢な体格だ。さほど速い走りではなかった。


 校門を抜けてすぐ、美麗は飛ばすぎたせいか足が止まりかけていた。彼女を抜かし、僕は彼女の前に立つ。


「普段車で送迎してもらってるから、運動不足だろ。走っても無駄だって、考えてみればわかることだろうが」


「追いつかれることくらい、わかって走ったから。とにかくさ、理由もなく走らないといけない衝動に駆られて、本心に従っただけ」


「俺が嫌だったか」


「いいや、陸夜じゃない。これは、私の問題だから。自分の事情は、自分で抱える。でも。ひとりで抱えきれなくなったら、つらい気持ちをおすそ分けして、一緒に苦しんでもらう。誰かが楽になるときって、誰かが無理してるときだと思うんだ。でも、カラオケなら歌に気持ちを込めるだけでしょ? そこで一緒にいて楽しい人と発散できたら最高だよ」


「その通りかもしれない。じゃあ、駅前のあの店でいいか? ここからまあまあ歩くけど」


「いや、それなら」


 リュックを手前に引き寄せ、中身をごそごそと探索すると、最新機種のスマホが顔を見せた。


 一台十万円はかかる、手を出しにくいモデルだった。慣れた手つきで弄り、アプリを見せてくれた。


「私の運転手、椀台さんが作った配車サービス。椀さんの知り合いだって事情をいえば、無料で乗せてくれるから」


 近くにいる車を検索し、美麗はスマホで送迎の予約をする。小雨が強くなってきたので、屋根がついている近くのバス停で座って待つことにしたのだった。


 数分後、「ONEカーズ」というロゴの入った車が、こちらの元までやってきた。

 美麗のスマホに通知が届く。配車サービスアプリからだった。すかさず合図を送り、車に乗り込んだ。タクシーだとか、高級車だとかそういった類のものではなかった。一般の自家用車と変わらなかった。


「お客さんは二名様かな?」


「そうですね。あ、私、椀社長と面識があって」


「おお。高校生なのにね、優待番号は?」


 美麗はスマホに載っている番号を読み上げた。


「じゃあ今回は無料ということでね。どこまで?」


「駅前のカラオケ店まで」


 渋滞にハマることもなく、ものの五分程度でつけた。途中、運転手の人に「ふたりはカップルなのかな?」なんて質問をされたときは笑うしかなかった。


 二時間コースをとって、美麗がとにかく歌いまくった。ハードなロックから、バラードまで。


 どの曲を歌っている姿も、虹色の照明の前で煌めいていた。どれも九〇点近くを叩き出していた。


 負けじとこちらも対抗して十八番を次々も投下したけど、選曲がどうしても演歌だとか昔の民謡なので。それを美麗は面白がっていた。あっという間の二時間だった。


 支払いは彼女がQR決済でしてくれた。帰る頃には、いつもの笑顔が戻っていた。


「また、辛くなったら発散しろよ」


「こんだけ歌ったら、しばらくは平気そう。私、今から椀さん呼ぶから今日はここでお別れで」


「じゃあな」


 俺にはいえない悩みを、あいつは抱えている。相談に乗ってあげられなくても、こうしてストレス発散に付き合うことで美麗の助けになるのなら、それでいい。

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