王女様がやって来た
連休中ということで、追加投稿です。
「アメリアお姉さま、お久しぶりでございます」
ここは公爵邸の応接室。
私の目の前には、笑顔のサラ王女殿下が座っている。
一体、どうしてサラ王女殿下が!?
その“お姉さま”って、何!?
「あのぉ、どうしてサラ王女殿下がこちらに?
それに、“お姉さま”というのは?」
「どうか私のことはサラとお呼びください!
それに、アメリアお姉さまと私は従姉妹同士なのですから、アメリアお姉さまは、謂わば私にとっての姉のようなもの!
私の方が年下ですし、こちらは教えを乞う立場です。
私がお姉さまとお呼びするのは当然のことです!
ですから、どうかお気になさらず、私のことはサラと呼び捨ててくださいませ!」
いや、いや、いや、いや、そんなに力説されても、困るんですけど!
サラさん、なにかキャラ変わってませんか?
なんか、凄い勢いで譲る気無さそうだし……。
デジャヴ?
この前も似たようなことがあったような……。
まぁ、本人がいいって言うなら、あまり気にしなくてもいいのか?
それでも、流石に呼び捨ては不味いけどって、あれ?
そういえば、さっき“教えを乞う”って言った?
う〜ん。とりあえず……。
「わかりました。
ですが、サラ王女殿下は私にとっても“大切な”従姉妹です。
大切な従姉妹を呼び捨てになどできません!
ですから、サラ王女殿下のことは、“特別に”サラ様と呼ばせて下さい」
“大切”、“特別”と強調することで、サラ王女殿下……サラ様には「様」付けを納得してもらった。
流石に王女殿下を呼び捨てなんて、外聞が悪過ぎるからね。
他国の皇女殿下を「さん」付けで呼んでいるだけでもまだ抵抗があるのに、この上自国の王女殿下を呼び捨てなんて、一体お前は何様だ!って感じだろう。
ちなみに、私のお姉さま呼びは諦めた。
もう取り付く島もない感じだったし……。
ともあれ、サラ様には何とか「様」付けで勘弁してもらったところで、問題はもう一つの方。
「それで、サラ様。この度は、どうしてこのセーバの街に?
それに、先程の“教えを乞う”というのは?」
私の質問に、サラ様はよくぞ聞いてくれたという様子で、今回の来訪の目的を教えてくれたのだが……。
「では、サラ様は私のところで領地経営を学ぶために、このセーバの街に来たのですか?
地方領主の領地経営について学ぶなら、まだ経験の浅い私などのところより、祖父君であるボストク侯爵のところで学ばれた方が良いかと思うのですが……」
「そんなことはありません!
お姉さまがこのセーバの街の統治を正式に任されてから、まだ1年ほどしか経っていないというのに、この発展具合です!
こんなこと、きっとお祖父様にも誰にも不可能でしょう。
私はその素晴らしい経営手腕を、ぜひお姉さまから学びたいのです!
それに、私とお姉さまとは従姉妹同士で歳も近いですから、私も学びやすいですし、お姉さまに協力できることも多いと思います。
聞けばセーバ領には魔力の高い貴族がいないとのこと。お姉さまもさぞお困りでしょう。
私の魔力は王族としてはあまり高い方ではありませんが、それでも上級貴族並みの魔力はあります。
きっとお姉さまの力になれると思うのです!」
これは困った……。
サラ様に全く引く気配がない。
この国の子供は、7歳になると親や知り合いの元で少しずつ仕事を手伝いながら、その技術を学び始める。
これは貴族の場合も同じなんだけど、現実問題として、政治や軍事といった貴族の仕事など、子供に理解できるわけがない。(この街を除く)
だから、仕事を手伝うと言っても、精々が前世の小中学校でやっていた職場体験のようなもので、見習いとして正式に学ぶようなことはしない。
何となく、将来こんな仕事をするんだなぁという雰囲気を味わうだけだ。
でも、この街は違う!
このセーバの街は、サラ様と同年代の、私を中心としたほぼ未成年のメンバーによって運営されている。
実際、それができるだけの教育はきっちりしている訳なんだけど……。
サラ様は納得するかなぁ……?
なんか、私の補佐をする気満々な感じだし、そこへ来て自分と同じくらいの歳の平民の子が街の運営に携わっているのを見たら、自分もやりたがるよねぇ……。
できなきゃできないでプライド傷つくだろうし、無自覚に現場を掻き回す可能性もある。
本気で学ぶつもりなら、他の子たちと同じように一から教育してくのが一番なんだけど、その辺どうなんだろう?
話を聞く限りではそれなりの期間を考えているみたいだけど、単なる職場体験のつもりならご遠慮いただきたいところだ。
これから他国の船も増えるだろうし、タキリさんとの共同研究の予定も詰まっている。
それに、あと4年もしたら、私は貴族の義務として王都の学院に通わなくてはいけなくなる。
そうすると、私はしばらくセーバの街を離れることになるから、できればそれまでにこの街の発展にある程度の目処をつけておきたい。
私の予想だと、そろそろザパド侯爵がちょっかいをかけてくる頃だと思うし、そちらの対策も考える必要がある。
正直、王女殿下のお遊びに付き合っている余裕は、私にもこの街にもない。
「あのぉ、サラ様。この街で学ぶことについて、国王陛下や王妃様はなんと?」
「ッ! え〜と、その、どこで何を学ぶかは私自身の問題ですので!」
つまり、親の許可は取っていないと。
変だと思ったんだよね。
王女殿下の一行にしては人数少ないし、研修に来るのに何の打診も訪問の連絡も無いし。
これは、無断で飛び出して来たパターンかな。
いずれにしても、その辺の事情を王妃様に確認してからだね。
「サラ様のおおよその来訪目的は理解しました。
ただ、こちらもいきなりのことで、何の準備もできていませんし、サラ様も長旅でさぞお疲れでしょう。お部屋を用意させていただきますので、まずはゆっくりなさってください。
これからのことは、明日また考えましょう」
私は話を一旦打ち切り、サラ様をお部屋へと案内してもらうことにした。




