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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第2章 アメリア、貴族と認められる

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一難去って

 一時はどうなることかと思われたあのお茶会から、数週間が過ぎた。

 全ては順調に進んでいる。

 お茶会の数日後、タキリさんとはお互いの側近も交えてちゃんとした話し合いをし、正式に私とタキリさんとの間での技術協力の話がまとまった。

 “セーバと倭国との技術協力”にしないのは、倭国が技術協力したいのはモーシェブニ魔法王国に対してではなく、私個人に対してだから。

 ただの一領主が、国王の許可もなく勝手に他国と協定を結ぶわけにはいかないけど、外国のお友達とのただの共同研究なら全く問題ないからね。

 偶々(たまたま)そのお友達が他国の皇女様で、その家族や親類縁者が非常に協力的なだけだ。

 そんな訳で、今は倭国の人達が長期滞在するための住居の建設や、大型船建造のための造船所の整備等が、急ピッチで進められている。

 ちなみに、セーバの街でのタキリさんの身分は、セーバリア学園の客員教授だ。

 私の知識が全体に理論面に偏っているのに対して、タキリさんの知識は実際的な技術面に優れている。

 今までであれば、私が出したアイディアについて、それをどう形にするかを皆で試行錯誤して考えるという感じだったんだけどね。

 タキリさんが加わることで、その“試行錯誤”の部分がかなりショートカットされた。

 こちらとしては、今まで些細なところで行き詰まっていたのが一気に進んで、大助かりだ。

 タキリさんの方も、今までは単なる経験則で片付けてきたものの仕組みが分かり、応用範囲も広がったし性能も良くなったと、大変喜んでいる。

 倭国との共同研究は、まずは順調な滑り出しと言えると思う。

 客員教授といえば、もう一人。

 ルドラさんの奥様、アディさんにも客員教授をお願いした。

 こちらは、主に街の自警団、兵士志望の人達に対する、実戦的な戦闘指導だ。

 アルトさんには武術指導以外にも街の運営面でやってもらいたい仕事がたくさんあるし、レジーナやレオ君では技術面はともかく、実戦での経験が圧倒的に不足している。

 それは、勿論私にも言えることだ。

 最初はサマンサにお願いしようと思ったんだけど、街の住民への指導は断られてしまった。

 私やレジーナ、レオ君といった、私と私の関係者に直接教えるのはいいけど、街の住民や学園の生徒への指導は駄目らしい。

 これは、私がセーバの統治を始めた頃から、お父様、お母様とも話し合って決めていたことなんだって。

 (いわ)く、私を直接サポートするのは構わない。でも、セーバの街の運営には一切関わらない、と。

 もし、お父様やお母様やその側近の大人が積極的に街の運営に関わって、結果セーバの街が大きく発展した場合、国や貴族がセーバの街の運営には大人の手助けが必要として、街の自治に介入してきたり、権利を取り上げようとしてきたりといった可能性が高いそうだ。

 だから、セーバの街の発展は全て私個人の功績で、私と私の側近抜きでは街が全く機能しないということを、客観的に目に見える形で示しておく必要があるんだって。

 道理で、娘ラブなお父様が、一度もセーバの街にやって来ないわけだ。

 道理で、いつも何かと私の世話を焼いてくれるお母様が、街の運営に関しては放任主義を貫くわけだ。

 私が後々困らないように、色々と気を回してくれていたらしい。

 サマンサの口から事情を聞いた時には、思わず泣きそうになってしまった。

 ずっと一人でがんばってきたつもりだったけど、しっかりと両親に見守られていたらしい。

 今度王都に行ったら、お父様のお仕事も少し手伝ってあげよう。

 これからは、お母様がお屋敷でゴロゴロしてても、あまり文句を言うのはやめておこう。

 とにかく、そんな訳で、サマンサには学園の生徒や街の自警団を鍛えるのは断られてしまった。

 そこで、アディさんだ。

 彼女は連邦でも結構有名な上級冒険者だそうで、バンダルガの冒険者達を率いて、魔物の群れや大規模盗賊団の討伐等をした経験もあるらしい。

 そんな人材を遊ばせておくのももったいないので、早速学園の生徒と自警団の実戦指導をお願いしてみた。

 アディさんも、この街で何か冒険者としての仕事を探そうと考えていたそうで、私の誘いを二つ返事で引き受けてくれた。

 先日、アディさんに訓練の様子を聞いてみたら、皆厳しい訓練にもしっかりついてくるし、魔法や体術の基礎もできているから、とても教えやすいと喜んでいた。

 少し厳し過ぎなのではないかと心配していたから、生徒の評判もいいと教えてあげたら、何故か意外そうにしていたけど……。

 学園の生徒達や自警団の人達も、レジーナ先生やカノン先生より余程優しいと喜んでいたので、特に問題はないはずだ。

 レジーナもカノンも、私の周辺を守る公爵家メイド部隊の一員として、サマンサの直接指導を受けているから……。

 私の庭たるセーバの街を守る自警団や兵士候補の指導に、妥協など許さないのだ。

 皆がアディ教官が来てくれて良かったと喜んでいたので、こちらも問題はないだろう。


 次に商業ギルドの方。

 こちらは、もう既に全力稼働中だ。

 商業ギルドの方は事前に来ることが分かっていたから、王都の商業ギルドをお手本にして、前もって建物等の施設は用意しておいた。

 あとはそれをルドラさんに確認してもらって、必要な箇所を手直しして終わりだ。

 こちらの手際の良さにルドラさんは呆れていたけど、こちらとしては当然の対処だと思う。

 商業ギルドのような公共施設を、用地がないからと街外れに建てられては、使い勝手が悪いにも程がある。

 いずれ必要になるのが分かっている施設の用地や建物は、都市計画の段階で事前に計画に織り込むのは当然のことだ。

 こちらの至れり尽くせりの対応に、ルドラさんはかなり楽ができると喜んでいたけど、営業開始直後に持ち込まれた膨大な量の特許申請や商人等の手紙、商業ギルドへの加入申請等で真っ青になっていた。

 誰か使える人材を紹介して欲しいと泣きつかれたので、学園の中級、上級クラスの中で、事務処理能力の高い生徒を何人か紹介してあげたら、本気で感謝された。

 仕事の覚えも早いし、元々の計算能力や情報処理能力が段違いだそうで、連れて来た職員がこれではどちらが先輩か分からないと、かなり焦っているらしい。

 まぁ、当然だ。

 うちの学園の生徒は優秀だからね!

 これは王都でお父様の仕事を手伝った時から分かっていたけど、この世界には前世の日本では当たり前に使われていた情報処理のノウハウが全くないのだ。

 例えば、資料を時系列、項目ごとに“分類する”とか、繰り返し使われる文面を“書式化”しておくとか、数字や項目を“表”にまとめるとか……。

 そういった前世では当たり前の情報の整理ができていないのだ。

 帳簿や会計の知識なんて全くない私でも、小遣い帳くらいなら作れる。

 でも、“表計算”といった概念すらないこの世界では、商業ギルドですら殴り書きのお買い物メモみたいな書類で、事務処理を行っているのだ。

 そりゃあ時間もかかるよね。

 私が作ったセーバリア学園では、それこそ入学して初めて文字を習った時から、日本式の事務処理方法が当たり前の環境だ。

 だから、この街に来て初めて学問というものに触れた大半の住人にとっての当たり前が、実は他所では超最新情報技術だということが分からないのだ。

 私が紹介したサリーちゃん(12歳)などは、自分のような子供が商業ギルドなんかで務まるのかと心配していたけど、全然問題なかった。

 今は、すっかりサリーちゃんのことを気に入ってしまった秘書のダミニさんが、自分の右腕にすべく様々な商業知識をサリーちゃんに詰め込んでいるらしい。

 ともあれ、新しい人員の補充もできたことで、商業ギルドの方も一時期の混乱はだいぶ収まったようだ。

 今は、これから増えるであろう倭国や連邦からの貿易船への対応準備に追われている。

 他国との貿易については、ルドラさん、タキリさんとも話し合い、当面は輸入品、輸出品共に商業ギルドを窓口として取り扱うことに決めた。

 こちらには他国に知り合いの商会も無いし、国外との取引を希望する国内の各商会を全てこちらで管理するのも不可能だからね。

 セーバの現状については既に魔鳥便で連邦、倭国に連絡したそうなので、近いうちに少なくない数の貿易船がセーバにやって来るだろうってことだ。

 セーバの港が大型船で埋まる光景を見るのが、今から楽しみだ。


 私が、そんな近い未来のセーバの街に思いを馳せていると、慌ただしく学園の私の執務室のドアがノックされる。

 何をそんなに慌てているのか……。

 続いて、もたらされたお屋敷からの知らせに、思わず目を見張る私。


「お嬢様、至急お屋敷にお戻り下さい! 王女様が! サラ王女殿下がお出でになられました!」


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