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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第2章 アメリア、貴族と認められる

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出港準備 ~ルドラ視点~

(ルドラ視点)


 ギルド長との話し合いを終え部屋を退室すると、タイミングを見計らったかのように秘書のダミニが姿を見せる。


「話し合いは、終わりました?」


「ああ、予定通りだ。

 また伯爵から妙な横槍が入るのも面倒だ。

 3日後には出発するぞ。

 準備はどうなっている?」


「連れて行く職員の選出は終わっているわ。

 できるだけ使える人材を選んだつもりだけど、正直なところ能力的にはぎりぎり及第点ってとこかしら」


「どこの首輪もついていないのだろう?」


「ええ、そこは徹底的に調べたから大丈夫よ」


「なら贅沢は言わん。

 向こうで鍛えればいいし、足りない人材は現地で募集することもできるからな。

 船の方はどうなっている?」


「ちょうど倭国から来ている船があったから、声をかけておいたわ」


「例のカラクリの船か?」


「ええ、責任者とちょっと話してきたけど、どうも商売というよりは新造船の試運転が主な目的みたい。

 責任者があの船の開発者みたいで、羅針盤の話をしたら興味津々だったわ。

 現物を持っていって交渉すれば、多分OKしてくれるんじゃないかしら。

 今日は一日船にいるみたいだから、港にいけばすぐに会えると思うわ。

 かわいい女の子よ」


「あの船の()()()()()()ねぇ……」


 俺はダミニにギルドの手続きの諸々を頼むと、セーバより送られてきた羅針盤を持って港に向かった。



「なっ! なっ! 何これ?!」


「これが最近魔法王国で発明された羅針盤です。

 サンプルのみで詳しいことは分かりませんが、なんでも方角が正確に分かる魔道具らしいですよ」


 俺は持ってきた羅針盤を、この船の責任者だという娘に見せてやった。

 15歳くらいだろうか?

 精々成人したてくらいに見える目の前の娘は、整った顔に腰まで届く漆黒の髪の美少女だが……。

 飢えた肉食獣のような目でじっと羅針盤を見つめる姿が、色々と台無しにしてしまっている。


「これが魔道具?

 全く魔力を感じないけど……。

 魔石も見当たらない……。

 鑑定魔法は……駄目か。隠蔽魔法がかかってる。

 ということは、複製も不可か……。

 いや、そもそもこんなに細かい部品を複数組み上げて作られた道具なんて、隠蔽魔法がかかっていなくても複製なんてできないか……。

 うちの国のカラクリに近いけど、ちょっと違うみたい……。

 ここの繋ぎ目って、釘じゃないわよねぇ……。

 一度分解してみないと分からないか……」


「ちょっと待て!

 こちらにも羅針盤の予備はないんだ。

 今回の航海のためにそれを貸し出すことはできるが、分解されるのは困る。

 どうしても研究したいなら、それを作ったセーバに行って、自分たち用の物を手に入れてからやってくれ」


 今にも羅針盤を解体しかねない目の前の娘を慌てて止めると、俺は言い添える。


「これから向かってもらいたい魔法王国のセーバには、その羅針盤の開発者もいるらしいですよ。

 行けば色々と教えてもらえるのではないでしょうか?」


 目の前の羅針盤から目を離すことなく、しばらくの間思案していた娘は、決意の籠もった目で後ろを振り返ると宣言する。


「船長、出港の準備を。

 目的地は魔法王国のセーバ。

 3日後に出港です」


「了解です、お嬢。

 野郎ども! 出港の準備だ!

 新しい海上ルートだ、気合入れろ!」


「おひいさま、危険です!

 今までに行き来のある航路ではないのですよ!

 今回の試験航海も無理を言って出てきたのです。

 この上、新航路で魔法王国までなど、しゅ、御父君がお許しにはなりませんよ」


「言い訳など、帰ってからすればよいのです。

 このような魔道具、技術立国たる倭国の技術者として、見過ごす訳にはまいりません。

 我が国は、カラクリ技術で他国に後れを取るわけにはいかないのです。

 これは私の我儘ではなく、国のためなのですよ!」


 そんな熱の籠もった目でじっと羅針盤を見つめながら言われても、何の説得力もないな……。 

 その後、反対する侍女の意見を強引に押し切ると、責任者だという娘は羅針盤の貸出を条件に、我々のセーバへの送迎を確約してくれた。



「で、セーバ行は決まったの?」


「ああ、出発は3日後だ。

 お前はどうする?」


 諸々の手続きや船の手配をし自宅に戻ると、妻のアディに正式にセーバ行が決まったことを伝える。


「もちろん一緒に行くわよ。

 遠い異国の地でダミニと二人っきりにして、浮気でもされたら堪らないもの。

 それに、新しく発展中の街なら、おもしろい冒険者の仕事も多そうだしね。

 こちらで今受けている仕事も無いし、丁度いいわ」


 妻のアディは、俺の秘書のダミニとは昔からの親友で、このバンダルガでは名の知れた上級冒険者だ。

 仕事で何日も、場合によっては何ヶ月も家を空けることも多い。

 俺もここ最近こそ暇にしてたが、以前は何日もギルドに泊まり込んだり、担当地区の街を飛び回ったりしていたから、夫婦といっても毎日家で顔を合わせる生活はしていなかった。

 だから、今回も無理にアディを連れて行こうとは思わなかったのだが、この様子だとアディの方もセーバに興味があるらしい。

 これは、勝ったな。

 アディは流石一流の冒険者というべきか、恐ろしく勘がいい。

 おもしろく状況が動きそうな空気には敏感だし、何よりも沈む船には決して乗ろうとはしない。

 そんなアディが、自分から付いて行くと言うのだ。

 間違いなく今回のセーバ行きの話は当たりだ。

 俺は新たに届いたセーバや魔法王国についての資料に目を通しながら、まだ見ぬ新天地に思いを馳せるのだった。


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