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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第2章 アメリア、貴族と認められる

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学術都市セーバの胎動

「お嬢様、先日お屋敷とアメリア商会系列の宿屋に試験導入した水道設備は大好評です!

 お屋敷の者も仕事が一気に楽になったと喜んでますし、宿屋に導入したお風呂については利用客から問い合わせが殺到しています。

 噂を聞きつけた他の商会長さん達や飲食店関連の商店主さん達も、販売はしないのかと問い合わせがひっきりなしです」


「量産体制の方はどう?」


「水道管に使う錆びない鉄、ステンレスの生産は問題ありません。

 ただ、まだポンプの魔道具の品質が安定しなくて、思うほど数が作れていない状態ですね。

 職人もだいぶ慣れてきましたので、それでも一定数は作れていますけど……。

 職人達が言うには、材料に使っている金属の元の品質自体が安定しないのだそうです。

 どうも同じ金属でも物によって魔力の通りが微妙に違うようで、同じように作ってもシリンダー内に隙間ができてしまう時があるそうです。

 今は資材の開発チームとも相談しながら、問題解決にあたっています」


「魔動エンジンの方は何とかなりそう?」


「はい、アメリア様。

 基本設計自体はできていますし、風魔法による空気の圧縮、膨張を動力にしているのはポンプの魔道具と同じですから、ポンプ制作の技術がそのまま流用できます。

 試作品はもうすぐ完成すると思いますよ」


「湯沸かし器の生産は大丈夫?」


「はい、こちらはそれほど複雑な構造ではありませんから。

 最初、アメリア様に氷魔法でお湯を沸かすと言われた時には驚きましたが、まさか氷魔法にあんな使い方があるなんて思いもしませんでした……」


 皆が感心しつつ、報告は続く。

 まぁ、そうだよね。

 私も、思いつきでやってみて、本当にできてしまった時には、さすがは“魔法”だと驚いたもの。

 氷魔法というのは、文字通り水を氷に変える魔法だ。

 でも、これは水を冷やす魔法ではない。

 水を状態変化させる魔法なのだ。

 そこに、温度変化云々の理屈は存在しない。

 魔法だから。

 ただ、水を氷の状態に変えたのは魔法でも、氷であることには違いない。

 当然温度は0℃以下になっている。

 つまり、因果の逆転!

 科学的にふつうに考えれば、水温が下がるという原因があって、結果として水が氷になる。

 でも、魔法は違う。

 まず、水が氷になるという結果が先で、氷なんだから0℃以下になっていないとおかしいよね、という原因が後からついてくる。

 なら、逆もいけるのでは?

 浴槽の水の一部を気体に状態変化させてみた。

 瞬間、水は100℃以上の高温の水蒸気に変わる。

 この蒸気の熱が周りの水を温めて、結果、浴槽の水をお湯に変えてくれるという仕組みだ。

 前世の某コーヒーショップ等で見かけた、エスプレッソマシンのスチーマーと同じ理屈である。

 そのうち、本当にエスプレッソマシンとか作ったら、この世界でもカフェラテとか楽しめちゃうかもという野心は置いておいて、この理屈で完成させたのが湯沸かし器の魔道具だ。

 ちなみに、氷魔法というのは、正式名称を“氷槍”という。

 神殿の石版に書かれた“氷槍”の呪文は、氷の槍を作り出して、それを相手にぶつける魔法となっている。

 ただ、この平和な時代においては、“氷槍”の魔法で作り出した氷の槍を削って販売するという、所謂(いわゆる)氷屋スキルとして利用される方が一般的な、残念な魔法だったりする。

 で、この魔法なんだけど、私の研究だと、実は4つの工程に分けることができる。

 まず、空気中に水を生み出す。

 次に水を氷に変える。(水をイメージ通りに状態変化させる)

 氷を槍の形に変形。(氷をイメージ通りに変形)

 できた槍を狙った場所に飛ばす。

 これらの工程のうち、魔力を食うのは何もないところから水を作ることと、氷という質量体を移動させることの2つ。

 水を氷の状態に変えたり、氷の形を変えたりは、魔力をうまく浸透させられるかの方が大切で、魔力自体はそれほど必要とはしなかったりする。

 で、この“氷槍”の魔法から“水を状態変化させる”という部分だけを抜き出して、魔道具化したのが湯沸かし器の魔道具だ。

 ちなみに、この呪文を利用して製氷機も作ってある。

 既に、ビールを冷やす用に、酒場にも配備済だ。

 魔道具の動力源となる魔石はどれも出力が弱くて、放出できる魔力は1MPから精々10MP程度。

 だから、一度にそれ以上の魔力を使う必要のある魔法は、魔石を使った魔道具では代用できない。

 ちょっと水をだす。

 灯りをつける。

 薪に火をつける。

 そういう庶民を含めた誰もが使える生活魔法には便利だが、それ以上には使えない。

 この考えが一般的だ。

 だから、氷の槍を作り出す“氷槍”のような攻撃魔法を、魔道具化などできるはずがない。

 この世界には、神殿にある呪文を、伝えられた通りの使用方法でそのまま使うという発想しかないからね。

 “氷槍”という氷の槍を作り出す攻撃呪文はあっても、水を状態変化させるという呪文は、どこの神殿にもないのだ。

 つまり、うちの独占技術ということだ。

 これは、湯沸かし器や製氷機だけではない。

 今開発が進んでいるポンプや魔動エンジンにしても、ただ強い風を吹かせるだけだと言われていた風魔法の応用だ。

 風、つまり空気を自由に操作できる風魔法は、それなりの知識と魔力操作の技術があれば、気圧や体積、振動による音まで操作できる非常に応用範囲の広い魔法だった。

 シリンダー内の空気を圧縮したり膨張させたり、気圧を変化させたりが自由にできるのだから、ガソリンも発火プラグも人力も必要ない。

 おまけに、風魔法は必要な魔力が非常に少ないのだ。

 多分、空気は質量が非常に小さいし、起こす現象もただ軽い空気を移動させたり濃くしたり薄くしたりだから、大したことではないという感覚なんだと思う。

 実際にそれが引き起こす、科学的な現象などお構いなしに……。

 最近、何となくこの世界の魔法というものを理解してきた私は、そのように感じている。


 ともあれ、セーバの街は順調に発展していると思う。

 特に、技術面での躍進が凄い。

 きっかけは、お祖父様が大量に塔から学園に持ち込んだ研究資料。

 これらの資料を、最近人数が増えてきた上級クラスや研究クラスのメンバーが、(こぞ)って研究し出したことだ。

 上級クラスや研究クラスの生徒達は、私が前世から持ち込んだ地球の科学知識や研究方法、学習法等を、断片的にではあるが伝授されている。

 それにお祖父様が長年かけて集めた魔法の実証データが加われば、研究が一気に進むのも当然だろう。

 私個人の魔法研究も新たな進展を得た。

 用途不明や呪文の訳文消失で放置されていた呪文の資料が、お祖父様の引っ越しで大量に発掘されたからね。

 あと、新しく街に入ってくる人材にも変化が……。

 以前は、生活に困って職を求めて来る人たちが大半だったんだけどね。

 最近では、セーバの評判を聞きつけて、魔法の研究者や魔道具の開発者、セーバに出店を希望する商人等も多く集まってきている。

 それら元々の知識階級が、セーバの学園にしかない知識を学ぶ為に、(こぞ)って学園に押しかけてきた。

 そんな現状に、これはうかうかしていられないと、最近学習面では中だるみしていた古参メンバーも、新たに勉強を頑張りだした。

 学園の様子もだいぶ変わってきた。

 以前は、子供の中に大人が混じって勉強している様子がよく見られたけど、最近はむしろ大人の方が多いようで、雰囲気も小学校というよりはむしろ大学に近い。

 そんなこともあって、最近学校の名前をセーバ小学校からセーバリア学園に変えた。

 最初、皆がアメリア学園にすると言い出したので、それは全力でお断りして、何とか今の名前に落ち着いた感じだ。

 うちの学園は基本自由登校で、個々が学校に集まってお互いに教え合いながら、与えられた課題をクリアしていくというスタイルをとっている。

 だから、毎日通ってくる生徒もいれば、仕事が休みの日だけという生徒もいて、はっきりした生徒数が把握しづらいところはある。

 それでも、なんだかんだで1000人くらい、街の半数以上の人たちがこの学園で勉強を続けている。

 それに、既に中級クラスまでの知識を修めて、現状学園に来ていない所謂(いわゆる)卒業生も含めれば、街の3分の2はこの学園の関係者だ。

 この学園の中級レベルが、一般的にエリートと言われる王都の学院の卒業生レベルだから、この街の知識レベルがとんでもないことになっているのは間違いないと思う。

 所詮義務教育レベルとはいえ、軽く数百年は先の科学知識や学習理論を持ち込んでいるわけだから、これはチートと言えばチートなんだろうけど……。

 まぁ、これはしょうがない。

 この世界で、極端に魔力の少ない私が生き残るためには、魔力以外の力を見せる必要があるし……。

 何をするにも魔力の必要な世界だから、少ない魔力でも動かせる魔道具も必要だし……。

 連邦や倭国との本格的な貿易が始まるまでに、できるだけこの街の価値を上げておく必要もあるし……。


 私は、赤ん坊の時に自重という言葉を捨てた女だ。

 今更手加減などしない。

 今はこの街の発展に、全力を尽くすのみである。


 前話で書いた後書きのせいか、最近ptが伸びてきていて、ご協力いただいた読者様には大感謝です。

 ありがとうございます。

 後、先日初めて“誤字報告”というのをいただきました。

 こちらも、ありがとうございました。

 もらうまでは、なんか苦情メールみたいのが来るのではと想像して、内心密かに恐れていたのですが、ふつうの感じで安心しました。

 今後とも、よろしくお願いいたします。


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