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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第1章 アメリア、領主となる

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網元の末路

「今は会議中ですから、後にしてください」


「なにが会議中だ!

 大体、町の事を決めるなら、わしの意見も必要だろう!」


 そう言って会議室に入って来たのは、網元のゲスリーだ。


「随分と騒がしいですけど、一体どうしたのですか?」


 そう問いかける私に、ゲスリーは唾を飛ばしながら大声でがなりたてる。


「どうしたもこうしたもありません。

 即刻、我が家の前のあの建物を撤去していただきたい。

 いくらこちらが言っても、そこの孤児の娘は理解できないようでしてな。

 お嬢様の指示だの一点張りだ。

 おまけに、他の連中まで工事責任者はそこの小娘だからと、わしの話を無視しよる。

 大方、そいつがお嬢様の指示を聞き間違えたのでしょうが、今からでも構いませんから、さっさとあれを撤去してもらいたいのですよ」


 全く、ここまで町が変わりだしているのに、この人はまだ現実が見えていないらしい。

 あなたの言う“孤児の小娘”が、今やこの町のナンバー2だというのに……。


「どうして、せっかく作った宿屋や商会を撤去しなければならないのですか?」


 私が不思議そうに首を傾げると、ゲスリーはとたんに真っ赤になる。

 湯気とか出そうだなぁ。


「どうしても何も、私の家の前を塞ぐような、ひッ」


 私は軽い“威圧”を飛ばしてゲスリーの言葉を遮ると、改めてゲスリーを見下すような目で睨みつけた。


「先程から“私の家”と言っていますけど、何か勘違いをしていませんか?

 あなたの家など、何処にもありません。

 この町の土地も住民も、全ては国王陛下よりこのセーバの町の統治を正式に任された、“領主”である私のものです。

 それが気に入らないというのなら、家も船も全てを置いて、この町から出ていきなさい」


「そんな横暴なことが、ひッ」


 そう言って私の方に詰め寄ろうとした瞬間、私の左右に控えていたレジーナとレオ君が動いた。

 レオ君の剣先は真っ直ぐゲスリーの首元へ、レジーナの握るナイフはゲスリーの左胸につきつけられている。

 ゲスリーは、その場で一歩も動けない。

 下手に動けば、それだけで首元の剣が喉に刺さりかねない。

 レジーナがあと一歩踏み出すだけで、ゲスリーの心臓は簡単にその動きを止めるだろう。

 私は2人をそのままに、ゆっくりと会話を再開させる。


「公爵たる私に、このような無礼を働いたのです。

 本来であれば、あなたはこの会議室にノックも許可もなく足を踏み入れた時点で、斬り殺されても文句は言えないのですよ。

 今までは、私もこの町の正式な領主ではありませんでしたから、これも勉強とあなたの無礼も見逃してきました。

 ですが、“公爵”となり、国王陛下より正式にセーバの町の“領主”を任された以上、これまでのような勝手を見逃すわけには参りません。

 これからは、あなたや他の漁師達にも、この町のルールに従ってもらいます。

 文句があるのなら、今夜のうちに荷物をまとめて町を出ていきなさい」


 私は最後通牒を突きつける。

 元日本人の感覚だと少々横暴な気もするけど、実際はこれでもかなり譲歩しているのだ。

 そもそも、他の貴族なら、以前お屋敷に呼んだ時点で無礼打ちだ。

 現実問題として、これからたくさんの人間が入ってくるのに、こういう“非常識”な人に我が物顔でいられると、町としても非常に困るのだ。

 あの平和な日本ですら、個人の権利には“公共の福祉に反しない限り”という条件がついた。

 住居を移転してくれと言っても無視。子供を学校に通わせろと言っても無視だ。

 おまけに、この期に及んでまだレジーナを孤児と呼ぶなんて。

 仏の顔も三度までというやつだ。


「“網元”には、改めてこの町のルールを伝えておきます。

 この町に住むにあたっては、読み書きができること、計算ができること、町の基本ルールをしっかりと暗記した上でそれに従うこと。

 これが最低条件です。

 今までにも散々猶予期間は与えましたから、もう十分でしょう。

 学校に通うのは構いませんが、一月(ひとつき)以内にレジーナの試験を受けて、これに合格して下さい。

 試験に合格できなければ、市民権は与えられませんから、自動的に町を出ていってもらうことになります。

 家族も同様ですよ。

 ちなみに、レジーナはこの学校の“教師”でもあり、新しく入ってくる移住希望者の“試験官”でもあります。

 この意味をよ〜く考えて下さい。

 あなたは“網元”なのですから、他の漁師達にもしっかりと知らせて、皆を納得させて下さいね」


「そんなッ」


 青褪めるゲスリーに、私は更に追い打ちをかける。


「それから、公爵邸に納めてもらっている魚はもう結構です。

 今後は、別の漁師達に納めてもらいますから」 


 一瞬目を剥き、その後、力なく項垂(うなだ)れるゲスリー。

 実際のところ、随分前からもうゲスリーとその一派の漁師達がいなくとも問題無いくらいの漁獲量は、ユーベイ君が確保してくれているのだ。

 それでも、今まで公爵邸の分だけはゲスリー一派のところから買っていたのは、新旧の漁師同士のいざこざを考慮してのことだ。

 事ここに至っては、もうそこまで気を遣う必要もない。

 本当に、十分な猶予期間を私は与えたのだから。

 それに、どちらにしてもこれからの一ヶ月、ゲスリー一派は漁に出る余裕などなくなるだろうしね。

 精々この小学校で、今まで自分たちが馬鹿にしてきた子供たちに揉まれるがいい。


 その前に、今回の話を自分が言うことを聞かせていた漁師達のところに持っていって、無事でいられればだけどね。


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