子供会議2
「ハーべ君、ウィスキーとビールの生産の方はどうですか?」
「はい、アメリア様。
今年実験農場の方で収穫した大麦の半分は、既にウィスキーにして倉庫に保管してあります。
父達の農場の方の収穫物には手を付けていませんから、今のところ、そちらの方で例年程度の食糧は確保できています。
ただ、最近急激に町の人口が増えているのと、宿屋の1階に開いた食堂でのビールの注文がすごくて……。
ビールについては注文を受けた分を、実験農場の大麦を使ってその都度作っていますが、これから更に食堂のお客さんが増えると、大麦が足りなくなる可能性があります」
“ビール”はこの町でしか飲めない地酒として、ウィスキーと共に開発したものだ。
この世界の“エール”は単純に大麦を発酵させただけのものなので、前世の“ビール”を知っている私からすると、正直飲めたものではなかった。
(もちろん、ちょっと味見で舐めただけですよ。この歳で成長が止まってしまっても困りますしね)
で、前世のホップに似たハーブを色々と取り寄せて開発したのが、この町の“ビール”だ。
ついでに、宿屋を任せるカノンには、ビールを冷やす用に氷魔法も教えておいた。
これを先日オープンした宿屋の食堂で実験的に出しているんだけど、その人気が凄いらしい。
外から来た宿泊客だけでなく、話を聞いた町の住民までやって来て、町の男たちにすっかり外で飲む癖がついてしまったそうだ。
「わかりました。
資金の方はお酒を売れば問題ありませんから、レボル商会には食糧の調達もお願いします。
ただし、こちらの動きを察知された後ですと、恐らく穀物の値などが吊り上げられますので、来年の収穫期までに最低限必要と思われる食糧は早めに確保してください」
お酒や食糧に関する話が済むと、今度は宿屋関係の話だ。
「カノン、宿屋の方はどうかしら?
昨日ちょっと覗いた感じだと、特に問題は無いようだったけど」
「はい、お嬢様。
今のところ順調な滑り出しだと思います。
従業員教育の方も、何とかダニエル様から合格を頂くことができましたし、忙しい時にはお屋敷の方からも人を回してもらえますので。
ただ、先程のハーべさんからの報告にもありました通り、食堂の方は泊まり客以外のお客も来るため、多少手が足りなくなる時がございます。
それと、1度だけですが、町への移住者達の護衛で来た冒険者が、宿屋の食堂で酔って騒ぎを起こした事がございました。
従業員の女性店員に絡んできたもので、その時は私が店から叩き出しましたが……。
今後、上級冒険者等が来るようになると、口惜しいですが、今の私の実力では手に負えないかもしれません」
「冒険者を叩き出したって、カノンは大丈夫だったの?
怪我とかしなかった?」
「あのような酔っ払いに、後れを取ったりはいたしません」
そう言い切るカノンは頼もしいけど……。
カノンちゃん10歳、冒険者を叩きのめすって……。
これも、サマンサ教官の教育の賜物だろうか……。
カノンも正式に私付きの侍女に採用されるようになり、レジーナと共に毎日サマンサ教官の特別訓練を受けている。
とはいえ、レジーナと違って、私付きの侍女になってまだ日が浅い。
護身術程度ならともかく、上級冒険者の相手などできなくて当然だ。
「カノンに任せているのは、宿屋の運営であって用心棒ではないわ。
くれぐれも無理はしないように。
その辺も含めて、町の治安担当のアルトさんの意見を聞きたいのですが、外の人間が増えてきて、実際町の治安の方はどんな感じですか?」
私の問いかけに、渋い顔のアルトさん。
「正直なところ、あまりいいとは言えませんな。
今のところ、目立った問題は起きていませんが、正直、人が足りません。
今までであれば、私がお屋敷の周辺を見回る程度で済みましたが、今は町自体が少し前と比べてずっと広くなっている。
お屋敷や宿屋のある地区以外にも、この学校周辺、農場地区、港、新たに作った居住区と、バラけて重要施設があります。
お嬢様の街作りの計画は分かっていますので、仕方がないのは分かるのですが、正直見回る側としては頭の痛い問題でして」
言いたいことは分かる。
一箇所に集まっていればすぐに見回れる程度の施設が、歩いて10分、15分程度の間隔で点在しているのだ。
愚痴りたい気持ちも分かる。
でも、ここは飲み込んでもらわないと、あっという間にクボーストのような無秩序で分かりづらい街の出来上がりだ。
「アルトさんの気持ちも分かりますが、今は我慢してください。
警備対象を散らばる点と考えるのではなく、現警備対象を含む面と捉えて下さい。
近い将来、倉庫や学校、農場や居住区へ向かう空き地の全てが警備対象になります。
そのための組織作りをお願いします。
といっても、やはり人材不足なのは間違いないですし……。
レジーナ、学校の中級クラスの生徒への、推手と護身術の指導を解禁します。
本職の警備兵に育てる必要はありませんけど、酔っ払いの相手ができる程度には指導してあげて下さい。
特に大人の男の生徒には、町の自警団として働いてもらいますから、そのつもりで指導をお願いします」
「畏まりました」
私の指示にレジーナが頷く。
ごめんなさい、中級クラスの生徒たち。
きっと明日から、早速レジーナ教官のブートキャンプが始まることだろう。
私は心の中で、こっそりと向こうの教室で今も勉強しているであろう生徒たちに謝っておいた。




