ザパド侯爵の企み 〜ザパド侯爵視点〜
(ザパド侯爵視点)
本当に、忌々しい!
侍女に運ばせた上等なワインを乱暴に喉に流し込む。
…………不味い。
先日の国王主催の晩餐会で出された酒を思い出す。
ワインなどとは全く違う深みのある味わいは、今までに味わったことのない最上のものだった。
目の前の高級ワインが霞むほどの……。
実に忌々しい!
あの酒を提供したのが、あの小娘だと!
この酒が不味く感じるのも全て! 彼奴が原因ということだ。
妙なトリックを使い、侯爵たる私の“威圧”を受け流し……。
あろうことか、この私に攻撃を仕掛けるとは!
実に不愉快だ。
そもそも、あの魔女がディビッド殿下を誑かしたりしなければ、私が事前に用意した新王即位の贈答品が無駄になることもなかったのだ。
あの茶碗で私の財と外交手腕を皆に見せつけるはずが、急に弟王子が国王に決まったために全ては水の泡だ。
私は時間もなく、結局凡庸な品を贈らざるを得なくなり、他の貴族達の前で恥をかくことになった。
何故か事前にその情報を得ていたボストク侯爵やユーグ侯爵は、弟王子のために誂えたような品を用意していたのだから、三侯の中で私だけが無能だと皆に宣伝したようなものだ。
そして、今度はあの娘だ。
碌に魔力も持たない欠陥品の分際で、上級貴族の私に恥をかかせるなど!
王家の血さえ入っていなければ、娼館にでも売り飛ばされて当然の分際で!
おまけに、王家のコネでも使ったか、あのような酒の製法まで手に入れるとは!
だが、悔しいが、あのウィスキーという酒は確かに美味かった。
あのような辺境の領地には勿体無い酒だ。
本来なら取り上げてしまうのが一番だが、あのように多くの貴族の前で、セーバ領の酒だと陛下に公言されては、迂闊に手を出すこともできん。
(何とか手に入れる方法は……)
そう言えば、ウィスキーについての問い合わせの返事が、商業ギルドから届いていたか。
執事を呼び、商業ギルドからの手紙を取ってこさせる。
「旦那様、こちらでございます」
早速中身を確認した私の目に、見覚えのある不愉快な名が飛び込んでくる。
「レボル商会だと!?」
それは、私のところにあの不愉快な茶碗を持ってきた商会の名だ。
御用商人の看板を取り上げられて、今は落ちぶれていると聞いていたが、何故あの商会がウィスキーの販売を取り仕切っている?
どこで公爵家などと縁を持った?
……まあ、いい。
これは好都合だ。
レボル商会は我が領の商会。であれば、国外に売る場合は勿論、他領に売るにしても、あの酒は必ず一旦はザパドかクボーストに集められるはずだ。
ならば、ザパド領から領外に出すウィスキーに、高額な通行税をかけてやればよい。
あの酒ならば、多少高額な値でも欲しがる者は多いだろうが、法外な通行税をかけてやれば流石に売れなくなるだろう。
小娘のところで安く買い叩くか、通行税のかからない我が領内で販売するしかなくなるわけだ。
結局のところ、この国の全ての商品は、この国の流通を一手に担う私の手の内ということだ。
ふん、小娘も、レボル商会の若造も、精々悔しがるがいい。
私はウィスキーの流通に先んじるため、早速ザパド、クボーストにウィスキーの通行税についての通達を出しておいたのだった。




