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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第1章 アメリア、領主となる

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王都回想

「では、よろしくお願いいたします」


 一見落ち着いた様子で商業ギルドを出た私は、急いで王都公爵邸に戻るとお母様を回収。

 そのまま逃げるように王都を後にした。

 そのまま軽量魔法と加速魔法を併用して走り続け、夕日が見え始める頃には、何とか目指す野営地まで辿り着くことができた。

 日が沈むまでに野営地に辿り着けて一安心だ。

 日が落ちてからの野営準備は本当に大変だからね。

 私はサマンサと護衛の人たちが野営の準備をするのを眺めながら、王都での慌ただしい日々を思い出していた。


 王妃様とのお茶会に、国王陛下への拝謁。

 商業ギルドに、陛下主催の立食パーティー。

 1週間にも満たない王都での滞在期間で、この過密スケジュール……。

 ともあれ、今回の旅の目標は全て達成した。

 上々の成果だ。

 無事爵位も取れたし、国王から正式にセーバの町の統治を認めてもらうこともできた。

 貿易の許可も取ったから、これで大々的にセーバの町を貿易港にすることができる。

 立食パーティーでの対応は、やってしまった感があるけど……。

 でも、後悔はしていない!

 私だけならともかく、お母様にまであんな酷いことを言ったのだ。

 相応の報いは受けてもらう。

 こちらも、これで気兼ねなくザパド領を潰せるというものだ。

 商業ギルドには餌も撒いてきたし、後は獲物がかかるのを待つばかりだ。


 >


「アメリア様、これは?」


「これは羅針盤と言います。

 この針は絶えず北を指すようにできています。

 正確な方角を知るための道具です」


「………………」


 どうもこの人には、この羅針盤の価値がピンとこないようだ。

 まあ、この国の人間は、船で外海に出た経験がないだろうからね。


「これを使えば、何もない海の真ん中でも、正しく陸の方角がわかるのですよ」


「!!!」


 あっ、顔つきが変わった。


「これがあれば、航海の安全度が跳ね上がります。

 万が一、嵐などで陸の見えないところまで船が流されても、太陽の見えない曇空や霧の中で、正確に陸の方角を目指せますから。

 ああ、もちろん海だけではなく、深い森の中や砂漠でも有効ですよ。

 この道具は鉄に弱いので、近くに鉄を置いてしまうと正常に働かなくなってしまいますが、そこさえ気をつければ、新たに魔力を込める必要もありません」


「手にとって拝見しても?」


 そう言って羅針盤を手に取ったギルド長は、口元に手を当て、何やら考える素振りをする。


「???」


「ああ、鑑定魔法を使っても無駄ですよ。

 それ、“隠蔽魔法”がかかってますから」


 私の言葉に一瞬驚き、その後、バツの悪い顔をするギルド長。


「申し訳ございません。

 つい商人の性で……。決してこの道具を横取りしようとした訳ではなく……」


 必死に言い訳するギルド長の言葉を制した私は、用件を伝える。


「実は、この羅針盤を商業ギルドに特許登録したいのです」


「それは、つまり、この道具は製造が可能ということですか?

 公爵家に伝わる魔道具などではなく?」


 この羅針盤が公爵家に伝わる一点物の魔道具等ではなく、注文があれば今後セーバの町で売ることができる物だと伝えると、ギルド長は再び羅針盤をじっと見つめ、そして姿勢を正すと改めて私の方を見る。


「アメリア公爵様は、この羅針盤を使ってセーバの町に来いというわけですね?」


 私は余裕のある笑みを浮かべながら大仰に頷く。

 商人相手に焦りは禁物だ。

 いらないなら他に話を回すだけという雰囲気が大切なのだ。


「わかりました。

 正直、先日アメリア公爵様のお話を伺った時は、商業ギルドの開設については、まず通らない話だろうと考えておりました。

 ですが、もし、これを商業ギルドが扱えるのであれば、十分に可能性はあるでしょう。

 早急にギルド本部に掛け合ってみましょう」


「ありがとうございます。

 それでは、こちらも試供品として置いていきましょう」


 私は後ろに控えるサマンサに目配せし、持ってきた3本のウィスキーを渡す。


「これは、今度レボル商会を通して販売する予定の新しいお酒です。

 ウィスキーと呼んでおりますが、ご存知ありませんか?」


 念のため他所にないか確認してみたが、ギルド長にも全く心当たりはないらしい。

 これは、この世界には蒸留酒は無いと考えてよさそうだね。


「このお酒は、国王陛下への誕生の祝として今年セーバから贈った物で、今夜の陛下の晩餐会にも出される予定です。

 こちらは差し上げますので、1本はギルド本部の方に届けていただけると助かります。

 このお酒はエールやワインのようにすぐに悪くなる物ではありませんから、輸送の方は然程問題にはならないでしょう」


 酒精が強いので、普通は水や氷で割って飲むものだと簡単に飲み方を説明し、こちらも置いていく。

 ただし、今夜国王陛下に初めて飲んでもらうものなので、試飲するならその後にしてくれと伝えておく。

 陛下の晩餐会の前に、平民の間でウィスキーの噂が広がるのは困るからね。

 ウィスキーについては材料が大麦であることもあり、ギルド長は薄いエールか何かという風に考えたみたいで、然程興味は示さなかった。

 恐らく、彼の頭の中は今、羅針盤でいっぱいだと思うしね。

 正式な特許の認定にはしばらくかかるとのことだったけど、商業ギルドが責任を持って対処するとのことだったので、手続きを済ませて現物を渡して帰ってきた。

 最悪、羅針盤の仕組みを解明されて、どこかに横取りされるようなことになっても、私としてはあまり困らない。

 商材が一つ減るのは痛いけど、今回羅針盤を持ち込んだ目的は、連邦や倭国の船の誘導だ。

 羅針盤と共にセーバの噂も連邦や倭国に広がり、セーバに興味も持ってくれさえすればそれでいい。

 羅針盤の普及により航海の安全が確保され、セーバにやって来る船が増えてくれれば目的は達成だ。

 羅針盤単体での利益はあまり考えていない。

 まあ、儲かるならそれに越したことはないけどね。


 >


 今頃は、お父様と王妃様の計らいで、私が贈ったウィスキーが王宮の晩餐会で振る舞われていることだろう。 

 実は、お父様にも王妃様にも、陛下より先にこっそり試飲してもらっている。

 あの2人にも、間違いなく晩餐会は大騒ぎになるとの感想をいただいた。

 きっと、明日には晩餐会に参加した貴族経由で、王都の商人たちにも話が伝わる。

 ウィスキーを確保するために、多くの商人がセーバの町を訪れるだろう。

 これを見越して、今セーバの町では、レジーナを中心に大々的な商人の受け入れ準備が進んでいるはずだ。

 レボル商会も早急に応援の人員を選出して、既にセーバの町に向かわせていると連絡を受けている。

 私達もこのペースなら、明日以降に動き出す商人達よりも早く、セーバの町に戻れるだろう。

 これが、今日のうちに慌てて王都を出発した理由だ。

 出発を明日にすると、早朝からウィスキー目当ての貴族や商人に足止めされて、そのまま王都から出られなくなる可能性が高いからね。


 さて、久しぶりのセーバの町は、どのようになっているのか……。

 野営の焚き火をぼんやりと眺めながら、懐かしいセーバの町に思いを巡らせるのだった。



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