従姉妹
今後のことについての一通りの話し合いが終わり、一息ついたところで王妃様が離れたところで待機している侍女に声をかける。
「新しいお茶をお願い。
あと、サラを呼んできてもらえる?」
王妃様の指示に従い動き出す侍女達を見ながら、私は考える。
サラって誰だっけ?
「サラは私の娘よ。
あなたより1つ下の従姉妹になるわね」
疑問が顔に出ていたのか、王妃様が教えてくれる。
そういえば、そんな話も聞いた気がする。
確か陛下の御子は2人で、上に男の子、下に女の子だったような。
男の子の方が私よりも1つ上で、今のところ王位はその子が継ぐことになっていたはず。
サラって子は下の女の子の方か。
王位は上のお兄ちゃんの方が継ぐことになるから、そのサラって子は将来は侯爵家のいずれかに降嫁するか、婿を取って王族として国王の補佐をするかだけど……。
はて?
どうして、ここで私に紹介を?
私には嫁は取れないし、婿にも入れないよ。
領地持ちの貴族で公爵家だから、側近にもなれないし……。
紹介される理由が分からない。
いや、従姉妹だからでしょうって?
この国の貴族社会はその辺結構シビアだから、ただ親戚ってだけで必要以上に仲良くしたりはしない。
魔力量が釣り合っていてお互いに利があれば仲良くするけど、それだって所属する派閥や立場による。
まして王族なんて、下手に血縁者と仲良くすると王位簒奪なんて可能性も出てくるし、周りからは身内贔屓だって文句を言われるから、理由もなく親戚同士仲良くしたりはしないのだ。
お母様と王妃様の仲がいいのは、学生時代からの親友だからだ。
偶々昔から仲のいい友達同士が親戚になっただけで、親戚だから仲良くしているわけではない。
その証拠に、私はまだ一度も国王陛下にも王子様にも会ったことはない。
今度国王陛下に会うのだって、7歳になった上級貴族は全員がする定例のご挨拶だ。
私の場合は、特に魔力の問題があるから、同年代の貴族の子ともレオ君以外全く交流がないし、相手も交流を持ちたいとは考えない。
メリットがないからね。
王妃様が今私にサラ様を紹介しようとするのは、私に対して利を見出したってことでいいのかなぁ。
側近候補や嫁ぎ先にはならないし、後ろ盾というなら、むしろ私の方が後ろ盾になってもらいたいんだけど。
「お母様、お呼びですか?」
現れたのは、私と同じくらいの背丈の女の子。
髪はショートで、南国の海を思わせるような明るい青色。
濃い色の髪ってわけではないんだけど、色の深みが私とは全然違う。
魔力は王妃様ほどではないけど、決して低いわけでもないね。
上級貴族並の魔力は十分にあると見た。
大体3100ってところかなぁ。
これも“圏”の特訓の成果なんだけど、相手がどのくらいの魔力量かっていうのも、見れば何となく分かるようになったんだよね。
ついでに、こちらに対する親愛や敵意の具合も。
もっとも、こういった感情は訓練で相手に読ませにくくすることができるらしいから、あまり鵜呑みにしてはいけないと、サマンサ教官には注意されたけどね。
でも、この子は分かりやすいなぁ。
私やお母様、特に私に対する敵意が強い。
でも、こちらを見下しているって感じではなくて、純粋に嫌悪している感じかな。
何か悪いことしたかなぁ……。
「アメリア、この子が私の娘のサラよ。
今年の陛下の誕生祭のパーティーでは、この子にあなたのエスコートをさせるから、仲良くしてあげてね」
「「えっ?」」
私とサラ様の声がハモる。
「どういうことでしょう、お母様?
わたくし、そのようなお話は聞いていませんが」
抗議するサラ様に、笑顔で説明する王妃様。
「今、言いましたからね。
この子はアメリア。
噂は色々聞いているかもしれないけど、ディビッド伯父様の娘で、あなたの従姉妹よ。
アメリアはあなたより1つ年上で、今年7歳になったの。
それで、今度のパーティーで主だった貴族達に挨拶をしなければいけないのよ。
でも、この子、今まで全く社交の場に出たことがないから、侯爵の人たちの顔も知らないでしょう?
だから、今度のパーティーではあなたに介添をお願いしたいのよ」
事もなげに王妃様は言ってるけど、ちょっと待って!
“王女様”に介添って、そんな恐れ多いことできませんよ。
「王妃様、お心遣いは大変有り難いのですけど、そのようなことを王女殿下にお願いするわけにはまいりません。
介添は母にお願いしますので……」
「私はやらないわよ」
そこにすかさず入るお母様の否定の声。
「その日は、私、きっと体調を崩すから、アメリアちゃんの介添は無理よ。
お屋敷で安静にしていないといけないし……」
この人は、何を言っているのだろう?
娘の厄介事を王女殿下に押し付けて、自分は仮病宣言ですか!
「またアリッサは、そんな言い方して……。
子供達が誤解するでしょう」
そう言うと、王妃様はお母様の意図を説明してくれた。
といっても、話はとても単純で、要は私とお母様が並んで挨拶になんかいったら、確実に集中砲火を喰らうかららしい。
子供だけなら、まだ不機嫌な態度は見せても、それほど目に見える攻撃はされないだろう。
精々ちょっと嫌味を言われるとか、軽く威圧されるとか、無視されるとか、まあそんなものだ。
でも、ここにお母様まで付いていってしまうと、話が変わってくる。
やれこんな子供を貴族とは認めないとか何とか、そういう話に発展しかねない。
お父様は当日はずっと国王陛下に付いていないといけないし、お母様では逆に火に油を注ぐようなもの。
私と王女殿下なら相手は子供だし、王女殿下の手前あまり大人気ない対応もできないだろうと……。
まあ、そういう事らしい。
「だからと言って、何で私がこの者の盾にならねばならないのです?
王族がするような仕事ではないと思うのですが」
「そうねぇ……。
でも、サラはまだ6歳だから、厳密には王族という扱いではないでしょう?
それに、来年はあなたがアメリアと同じように挨拶することになるのよ。
あなたにとっても、“いい勉強”になると思うのだけど」
そう言われて、渋々承諾する王女殿下。
私の「大変なら私一人で回ります」という言葉は、王妃様の笑顔に黙殺された。




