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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第1章 アメリア、領主となる

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クボーストへの旅

 セーバの町を出発して、既に20日ほどが過ぎた。

 私は、今、クボーストに向かう馬車の中にいる。

 正面にはサマンサとフェルディさんが座り、御者台には御者兼護衛として2人の男の人が座っている。

 ちなみに、お母様はいない。

 王都で降ろしてきたからね。

 最初はお母様も一緒にクボーストまで来る予定だったんだけど、お父様と今後の打ち合わせもあって王都の公爵邸に寄った際、お父様がごねた。

 やれ2人だけで見知らぬ街に行くのは危険だとか何だとか……。

 いや、お母様は子供の頃にはお祖父様と一緒に世界中を回っているから、クボーストの街も知ってるし……。

 2人だけじゃなくて、サマンサもフェルディさんも一緒だし……。

 サマンサもクボーストの街には行ったことがあるらしいし、全然問題ないでしょう。

 挙げ句の果てには、一緒に行くなどと言い出す始末で……。

 仕事をしてください、お父様。

 ついでに、私の用件も済ませておいて下さい。

 仕方がないので、お母様には生贄になってもらった。


『お父様もお母様と会うのは久しぶりですし、新婚の頃に戻って、“2人きり”で、“仲良く”、待っていて下さい』


 しばらく“考えた”お父様は、サマンサも一緒なら大丈夫だろうと、快く送り出してくれた。

 何を()()()かは知らないけどね。

 そんな訳で、王都からクボーストまでは馬車一台、護衛を含めても5人のみでの移動だ。

 今回は色々と予定が立て込んでいることもあり、商材の輸送等は行わず、純粋な移動のみの編成。

 しかも、超特急。

 実は、セーバから王都までも前回の半分、5日ほどで移動してしまった。

 私が馬車に軽量魔法を、馬に加速魔法をかけたからね。

 この“加速魔法”は、魔力の調整を誤ると加速し過ぎて大変なことになるから、魔法自体はそれ程珍しくはないらしいけど、使いこなせる人は少ないらしい。

 魔力の多い人は加速させ過ぎて事故を起こすし、魔力の少ない人はすぐに魔力切れを起こして使い物にならないんだって。

 フェルディさんには、私が加速魔法を完璧に使いこなしていることにも驚かれたが、平然と加速魔法を“使い続けた”ことには更に驚かれた。


「魔力の少ない私を哀れんだ女神様が、私にも使える呪文をと、夢の中で教えて下さったんですよ」


 何やらもの言いたげなフェルディさんには、とりあえずそう言って笑っておいたが、これは半分嘘で半分は本当だ。

 嘘なのは、“女神様に教えてもらった”というところ。

 本当なのは、“私にも使える呪文”というところだ。

 私はお祖父様の魔法大全にあった全ての魔法を、“自分用”にアレンジして、まとめ直したのだ。

 本来は“光の神(掛け算)”の効果を与えるところを“闇の神(割り算)”に差し替えたり、逆に闇の神の呪文を光の神の呪文で代用したり……。

 大量の魔力を使う呪文には、間に“闇の神”の呪文を挟むことで自分の魔力をブーストさせたり……。

 そうして私用に作り変えられた呪文が、私の手元の本にはびっしり書き込まれている。

 今回の旅用にと、えんじのお洒落な皮表紙で製本して作った、文庫本サイズの小さな本だ。

 これさえあれば、私はほぼ自分の魔力量を気にすることなく、全ての魔法を自由に使うことができる。

 チート(ずる)ではない私の努力の結晶だけど、できることは完全にチートレベルだ。

 全ての呪文を石板で覚えるこの世界では、これだけの魔法を全て使える魔術師なんて、多分私だけだからね。

 ちなみに、この本の呪文の文字は、全て手書きではなく活字になっている。

 で、呪文以外の注釈部分の文字は日本語だ。

 つまり、私以外は誰も読めない。

 そして、もし誰かになぜ石板もなく呪文を唱えられるのかと追究されたら、この本の呪文に指を滑らせれば、女神様の声が私の頭の中に響くのだと言い張るつもりだ。

 私にしか声の聞こえない、私だけの簡易石板。

 ついでに、魔力も本を通して女神様が貸してくれていることにすれば、魔力量の少ない私が大魔法を使える言い訳にもなる。

 という訳で、本の表紙には私の魔力のチャージ用に、薄くて小さめの魔石がはめ込まれていて、使わない魔力はここにストックできるようになっている。

 あまり本が重くなっても不便なので、本当に装飾程度で、精々100MPくらいしか入らない小さな魔石だけど、それでも私の全魔力の10倍と考えれば十分なストックだ。

 ただ“夢の中で女神様に教えてもらいました”だと、微妙に説得力に欠けるけど、こうして女神様から授かった?本が実際にあると、説得力も跳ね上がるというものだ。

 なんか、カッコいいしね。

 

 そんな完璧な言い訳を用意した私は、この旅の間も誰はばかることなく、当然のように魔法を使っている。

 初めは色々と驚いていたフェルディさんや護衛の2人も、今では当たり前のように野営地で魔獣を狩る私を受け入れてくれているから、多分この作戦で問題ないということだろう。

 あとは、この設定を少しずつ周囲に広げていけば、魔法が使えないのだから貴族失格などと言う輩も、だいぶ静かになると思うんだよね。



「それで、フェルディさん。

 商業ギルドというのは、具体的にどのようなことをしているのですか?」


 馬車の中で特にすることもない私は、フェルディさんにこの国の商人や商売のしくみについて、様々なことを尋ねている。

 実際のところ、セーバの町にフェルディさんがやって来てから今まで、あまりにも色々とあり過ぎて、こういったことをのんびりと教えてもらうような時間はなかったのだ。

 最近、ようやく今後の方針についての話し合いも終わり、こういった雑談混じりの話もできるようになってきたところだ。

 せっかく、この世界の一流の商人さんの話をゆっくり聞ける環境ができたのだ。

 この機会に、色々と情報収集させてもらおう。


「そうですねえ。

 商業ギルドについては、我が国を含む他国と連邦では、かなり扱いが違うのですが……。

 とりあえず、基本的な部分でお話しますね。

 商業ギルドの担う仕事は、大きく3つあります。

 ギルド会員である商人のサポート、郵便事業、貴重な技術や商品の管理です」


 商人のサポートというのは、まあ、そのまま。

 商人同士の仲介をしたり、仕事の斡旋をしたり、商品の売り買いをしたりと、ファンタジー小説なんかにでてくる普通の商業ギルドの仕事だ。

 ただし、土地の斡旋等はほとんどしないし、営業許可を出したりもしない。

 それをやるのは、その土地の領主の仕事だ。

 この国の商業ギルドには、そういった行政に関わるような権限は一切ないらしい。

 あくまでも、商人同士の互助組織という位置づけで、この国の商業ギルドに権力的なものはないんだって。

 そんな商業ギルドだけど、商人達にとってはとても魅力的な役割が一つある。

 それが、郵便事業。

 詳しく聞いた話だと、この世界には伝書鳩みたいな習性を持つ“魔鳥”がいるんだとか。

 飼いならすためには卵から育てる必要があるから大変らしいんだけど、とても強い魔物なので、かなりの距離でもほぼ確実に手紙を届けてくれるらしい。

 さすがに大きな荷物とかは無理らしいけど、数百通程度の手紙であれば一度に運べるんだって。

 この魔鳥を利用して、商業ギルドはほぼ世界中に郵便ネットワークを構築しているらしい。

 金に糸目をつけずに急がせれば、王都から倭国まででも10日程で手紙を届けることができるそうだ。

 ただし、商業ギルドのある街限定。

 当然、商業ギルドのないセーバの町は、配達区域外だ。

 王都から倭国までの日数と、王都からセーバまでの日数が同じって……。

 何たる情報格差!

 本気でセーバの町は、陸の孤島だったっぽい。

 情報格差と言えば、もう一つ。

 “貴重な技術や商品の管理”だ。

 どうもお祖父様の“魔法大全”の印税や、“魔法無効化の魔道具”のアイディア料を管理してくれているのが、この部署らしい。


「扱う物や契約によって詳細は異なりますが、簡単に言ってしまえば、新しい技術やアイディア等を開発者が事前に商業ギルドに登録して、その販売権、利用権を商業ギルドに委託するわけです。

 その技術やアイディアを使いたければ商業ギルドを通せ、ということですね。

 もし、商業ギルドも開発者も通さずに、勝手にその技術で商品を作った場合、商業ギルドとギルドの加盟商人は、その商品の売り買いには一切関わりません。

 結局のところ、ギルドを通さずに商品を作ったところで、正規のルートでは販売できないわけです」


 以前、お祖父様にちらっと聞いたことはあったけど、よくよく聞いてみると、この文明レベルとは思えない非常にしっかりとしたシステムが構築されているようだった。

 いや、話を聞いていると、実は文明レベルが遅れているのはこの国で、他の国はもっとしっかりしているのかもしれない……。

 昔、お父様の仕事のお手伝いをしていた時には、こんな雑な行政でOKなんて平和だなぁとか感じてたけど……。

 単にこの国の政治経済面が遅れているだけだとしたら、あまりのんびりとは構えていられないかもしれない。

 この件については、一度お父様としっかり話し合う必要があるかもだね。


 それにしても、話を聞く限りだと、商業ギルドというのは正に情報の宝庫だ。

 商業ギルドに加盟している商人は、例の特許技術の一覧を閲覧できるんだって。

 で、その中に自分が使いたい技術があれば、ギルドを通して開発者や製造元と連絡を取るらしい。

 つまり、その特許技術の一覧は、商業ギルドにしてみれば、ギルドが専売で扱う商品カタログということになる。

 どれも高価な技術になるため、さすがに末端の商人では閲覧できないらしいけど、一定以上の会員には自由に見せてくれるそうだ。

 もちろん、フェルディさんも見たことはあるらしい。

 ただ、それほど価値のあるリストだとは考えていないみたい。

 顧客から、「こんな商品があると聞いたのだが……」という問い合わせがあった時にギルドに調べに行くことはあっても、それ以外でわざわざリストを見たりはしないそうだ。

 私は、凄いと思うんだけどね。

 だって、そのリストを確認すれば、この世界の最先端技術が全て把握できるってことだよ。

 インターネットはおろかテレビや雑誌すらない世界で、大陸の反対側で発明された新技術とかを、この国にいながら確認できるということだ。

 今、この世界にどんな技術があるのかが把握できれば、今後の事業計画もかなり立てやすくなる。

 これは、何としても商業ギルドのメンバーになりたいところだ。

 そして、商業ギルドの支部をセーバの町にも作ってもらう!

 調べものをしたり手紙を出したりするのに、一々王都になんて行ってられないからね。


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