勧誘
(アメリア視点)
「なっ、なっ、なっ、なんですか、今の魔法は!」
「ファイアボールですけど」
「ファイアボールは鉄など溶かせません!
鉄を溶かせる火魔法など聞いたこともありませんよ!
仮にできたとして、一体どれだけの魔力が必要になるか……。
あんなこと、上級貴族でもできない。
アメリア様の魔力で、どうしてこんなことができるのです!」
興奮し混乱するフェルディさんと、その様子にそんな凄い魔法なんだと尊敬の眼差しを向ける子供たち。
「女神様に習いました」
久々の、必殺呪文炸裂だ。
何か言いたそうで、でも、何も言い返せないフェルディさん。
「そんな馬鹿なっ!?」とか、「あり得ない!」とか、言えないよね、貴族相手じゃ。
さすが一流の商人さんだけあって、早々に立ち直った様子。
「この学校がなぜここまで非常……レベルが高いか、何となく理解しました」
この学校のレベルの高さと生徒たちの優秀さ、そして、私の魔術師としての実力については、概ね理解してもらえたようなので、学校見学の方はこれで終了だ。
午後からは、農場や港の方を見てもらおう。
で、最後はあれでダメ押しだ。
今やっているフェルディさんへの町の案内。
これは、恩人の娘を預けるに足る相手だと信用してもらう……ためではない。
これは、商売として投資するに足る町だと、信頼してもらうためだ。
狙いは、この町に商会の支店を置かせてほしいと言わせること。
こちらがお願いするのではダメだ。
それでは、将来足元を見られることになる。
こう言っては何だけど、この町の将来性って買いだと思うんだよね。
今の調子で発展していけば、今学校で勉強している子供たちが大人になる頃には、それなりの街になっていると思う。
だから、このまま順調に町が成長していけば、いずれこの町に目をつけてたくさんの商人達がやってくるだろう。
でも、それはこの町や私を信頼して来てくれた訳じゃない。
単に大きくなった町を見て、儲かりそうだから来たというだけだ。
そんな商人は、こちらもすぐには信用できない。
今回来てくれたフェルディさんは、元々レジーナに会いに来てくれた商人さんで、利益に釣られて来た訳ではない。
そして、自分の利益に関係なく、恐らくレジーナのために、この町の発展や私の将来の立場を心配しているだろう。
そんな商人さんだからこそ、この町の可能性を信じて取引を申し出るなら、こちらも信頼できる。
きっと目先の利益でなく、この町の発展のために協力してくれるだろう。
だからこそ、私もこの町の学校を見せた。
情報漏洩の可能性を考えるなら、まだ他領の商会の商人に、この町や私のことを詳しく話すべきではないと思う。
これは賭けだ。
でも、本当に彼がレジーナの両親に大恩を感じ、レジーナの将来を心配しているなら。
そして、この町の発展を任せられる先見の明を持つ商人なら。
彼は決してこのまま帰ったりはしないだろう。
レジーナには昨日のうちに私の考えを伝え、うまくフェルディさんを誘導するよう伝えてある。
レオ君にはまだその辺の腹芸は無理なので、何も伝えてないけど。
今のところ計画は順調だと思う。
レジーナは、それとなくフェルディさんが喰い付きそうな情報を小出しにしている。
強力な魔法が使えず、貴族としては失格と思われている私が使った攻撃魔法も、それなりにインパクトがあったようだ。
あとは、午後から具体的な経営戦略について話していけば、何とかなるだろう。
「フェルディさんも少しお疲れのようですし、一度屋敷に戻って昼食にしましょう。
午後からは、実験農場や港の方を案内しますね」
そうして、私たちは学校を後にした。




