領都発展中
「ハーべ君、農地の方はどう?」
「はい、今のところ順調です。
特に最初の段階で種の形質によってグループ分けして植えたうちのいくつかが、とてもよく育っています。
いい感じに育ったら、来年以降はそれを種籾として使えば、かなりの収穫が期待できると思います」
「うん、よろしくね。
ユーベイ君の方はどうかな?
最近、寒い日が多いけど、大丈夫?」
「はい、アメリア様。
ここ数日は、少し海が荒れていて測量の方はできていませんが、もう湾の東側一帯の水深や暗礁の調査は、ほぼ終わっています。
せっかくアメリア様が舟を用意して下さったのですから、少しでもお役に立たないと……。
お陰で魚を獲るのも楽になって、母さんと2人だけなら十分に食べていけます」
「舟って言っても小さな小舟なんだから、沖の方には行っちゃダメよ。
まあ、ユーベイ君の方が、私よりよく分かってると思うけど。
あっ、他の漁師の嫌がらせとかはない?」
「大丈夫です。
僕の舟は公爵家の舟で、公爵家の依頼でやってる仕事だから、もし邪魔をしたら厳罰だって脅してくれたお陰で、最近は何も言ってきません」
「なら、いいわ。
ダニエルが、王都でやらかした平民がその場で貴族に処刑された話をして、もし公爵家に無礼があれば、王家が軍を派遣しかねないって随分脅したらしいから、多分、大丈夫だと思うけど……。
何かあったらすぐに言いなさいね。
あと、人手が必要なら学校の子たちを使ってもいいし、大人の手が必要なら公爵家から人を出すから、遠慮しないこと」
「はい、ありがとうございます」
学校の授業後の、ホームルーム?領主会議?での一場面。
最近は下級クラスの子たちもだいぶ育ってきて、実験農場兼公爵家直轄農地の運営は、ハーべ君をリーダーとする農家組の皆で問題なく回っている。
最初の畑作りは、学校の皆で魔法を駆使して行い、その後の種籾の選定や、実験ブロックの区分け等には私も参加したけど、それ以降は基本ハーべ君にお任せだ。
アグリさんにも色々とアドバイスをもらいながらの作業らしいけど、家の畑と比べて明らかに育ちのいい実験農場の畑を見て、アグリさんの方が羨ましがっているらしい。
豊穣魔法はアグリさんや他の農家の畑にもかけてあげたから、決して育ちが悪いわけではないんだけどね。
やはり、種籾の段階での鑑定魔法による優良種の選別と、その後の地質管理が大きいらしい。
鑑定魔法で地質を確認し、不足する養分があれば豊穣魔法をピンポイントで使って補充する。
普通に使うと魔力の消費の大きい豊穣魔法も、かける場所と補充する養分を具体的に指定して使うことで、ほとんど魔力を消費することなく使えるようになったみたい。
それから、もう一つ。
土魔法を活用することで、病気等の発生も抑えられているそうだ。
土魔法というのは五大魔法の一つで、地中から望む鉱物を取り出す魔法と言われている。
五大魔法だから、どこの神殿にも必ずあるんだけど、利用するのは鉱山で仕事をする人たちだけで、一般に覚えようとする人はほとんどいない魔法だったりする。
まぁ、セーバ小学校では、五大魔法の習得は下級クラスの必修課題だけどね。
で、ハーべ君は鑑定魔法で土中の作物にとっての有害物質を鑑定し、それを土魔法で抜き出すという方法を思いついたらしい。
とても画期的な方法なのだが、恐らくこの方法はセーバ小学校の子たち以外には真似できない。
明らかな毒であれば認識できるかもしれないけど、ただ地中にあって間接的に植物の成長を阻害するだけの元素など、化学の知識を全く持たないこの世界の術者には、絶対に認識できないからね。
そんなわけで、セーバの町の農業部門は、かなり順調だ。
そして、もう一つ。
ユーベイ君への課題としてお願いしたのが、湾の中央から東の調査だ。
特に、海岸線付近の水深や、暗礁、潮の流れ等について。
これは、勿論、将来セーバの町を貿易港にするための下準備だ。
ただ、これに関してはそれなりに資本もかかるし、何よりもこの国の通商と外交にも関わってくる問題だから、流石に私の一存ですぐにどうこうできる問題じゃない。
それでも、いざそのタイミングって時に、すぐに実行に移せないのも困るから、事前の調査だけはやっておこうということだ。
最初は海の調査なんて子供にやらせるのは危険かとも思ったんだけど、ユーベイ君に相談したところ全然問題ないと言われた。
10歳を過ぎれば、大人に混じって船で漁に出ることもあるし、水流操作の魔法も覚えたから、下手な大人よりも余程安全らしい。
水流操作の魔法は、自分が魔力を通した水を自由に操る魔法だけど、セーバの町の神殿には勿論無い。
今のところ、この町の漁師の子供はユーベイ君以外誰も学校には通っていないから、この町で水流操作の魔法が使えるのはユーベイ君だけだ。
ユーベイ君が水流操作の魔法を使っているところを見た網元のゲスリーが、ユーベイ君に自分の船に乗せてやると言ってきたそうだが、公爵家の仕事があるからとお断りしたみたい。
そんなこんなで冬を越し、この町始まって以来の大豊作を迎えた春のある日、一人の商人がレジーナを訪ねてこの町にやって来た。




