鑑定魔法
鑑定魔法を覚えてもらった翌日、まず上級クラスの子たちにはテストを受けてもらった。
内容は色々なものに対する一般教養テストだ。
例えば、
・チーズを知っていますか?
・食べたことはありますか?
・見たことはありますか?
・原材料を知っていますか?
・作り方を知っていますか?
・材料はどこで手に入るか、知っていますか?
例えば、
・知っている金属を全て答えて下さい。
・様々な金属を、どのように区別しますか?
・暑い寒いを、どのように表しますか?
・物の大きさを、どのように測りますか?
・重さを、どのように測りますか?
・鉄と銅では、どちらが重いですか?
etc.etc.
結果、上級クラス+レオ君、レジーナの知識には、生活環境によって、かなりのばらつきが見られることがわかった。
例えば、チーズ。
これは、実際に屋敷の料理で食べたことのあるレオ君と、父親の買い付けで王都に行っていたレジーナは知っていたけど、それ以外の子達は全く知らなかった。
そもそも、チーズが食べ物だということすら知らない子もいた。
例えば、エール。
これは、実際に家で父親が作っているハーべ君は原材料や作り方まで知っていたけど、それ以外の子たちはお酒ということしか知らなかった。
そして、温度や重さ、体積に関する尺度については、7人とも全く知識がないことが分かった。
これは、お屋敷で剣の鑑定をした時にダニエルにも確認してみたけど、この世界には温度や重さ、体積等についての、統一された客観的な尺度というものがないみたい。
重さに関しては貨幣の枚数を基準に、体積については麻袋や枡を使ったりするそうだが、これも誰にでも通じる統一されたものではないとのこと。
それらのことを確認した上で、実際にいくつかの物について鑑定魔法を使ってもらう。
結果は、なかなかに興味深いものだった。
例えば、前述のチーズとエール。
レジーナの鑑定では、チーズの原料が牛乳であることはもちろん、チーズの作り方……というか、牛乳からチーズができるプロセスまでが鑑定できた。
それに対して、レオ君はチーズそのものの味や鮮度等は鑑定できたけど、原材料や作り方は全く分からなかった。
そして、他の子達は、それが食べ物だということしか分からなかった。
レジーナに確認したところ、レジーナも王都で売られているチーズは見たことがあるけど、作り方については全く知らなかったし、作っているところを見たこともないそうだ。
レオ君とレジーナの違いは、“牛乳”を知っているかどうかだった。
この辺りでは乳牛は飼われていないそうで、レオ君は王都から運ばれてくるチーズは知っていたけど、牛乳については見たことも聞いたこともなかった。
まあ、牛乳はすぐに悪くなっちゃうから、王都からは運んでこれないよね。
後で、牛という獣の乳で作られていると教えたら、びっくりしていた。
では、エールはどうか?
こちらは、なんと7人全員がエールの作り方まで鑑定できた。
でも、それは私の鑑定結果とは少し違っていた。
私の鑑定では、“大麦中のデンプンを糖にし、それをアルコールに変えたもの”と出た。
では、他の子たちの鑑定結果はどうか?
“大麦を粥にしたものが甘くなり、お酒に変わったもの”。
ちなみに、鑑定魔法は知りたいことを質問すると、それに対する回答が頭の中に聞こえてくる感じだ。
具体的に質問をすればその答えが返ってくるが、ただ漠然と知りたいと願うと、それについての情報が色々と聞こえてくる。
聞こえてくるというか、自分の知りたい事が書かれた文章を、ちょうど読み終えた直後の状態になるというか、まあ、そんな感じだ。
で、おもしろかったのが、鉄の塊を鑑定してもらった時。
7人とも鑑定結果は同じで、「鉄です」。
他に分かることはないかと聞いたら、「重くて硬いです」だって。
つまり、何も分からないと……。
そんな実験を行った後、今度は7人を個別に呼んで、個別授業を行った。
ある子には重さの基準について。これは実際に水魔法で1c㎥と1,000c㎥の水を出して、其々1gと1kgと教えた。
ある子には温度の基準について。水が氷になる温度が0℃で、完全に沸騰する温度が100℃として、その間を均等に100に分割すると教えた。
他にも、密度の概念や沸点、融点等についても、子供たちの理解力を見つつ、知識をバラけさせながら教えていった。
あと、この世界とこの国の、主要な鉄山なんかについても教えた。
そして、再度“鉄”の鑑定。
予想通りというか、今回の鑑定では、事前に教えた内容によって、其々が鉄の重さや体積、密度、融点や沸点、採掘された場所についても、しっかり読み取っていた。
結果は、私が読み取った情報とほぼ同じだった。
ちなみに、教えても理解できなかった概念については、例えばただ「鉄の(よくわからないけど)沸点が知りたい」と考えても、答えは分からなかった。
どうも、聞いても答えの内容自体を理解できないことについては、そもそも答えてもらえないらしい。
他にも色々と確認していった結果。
鑑定魔法って、ほぼインターネットと同じだ。
知りたいことについて適切なキーワードを入れれば、知りたい答えが返ってくるけど、適切なキーワードを選ぶだけの最低限の知識がないと、知りたい情報を調べられない。
たとえ、情報の書かれたページに行き着いても、そもそも書かれている内容が難しくて理解できない場合は、どうしようもない。
鑑定魔法も同じ。
ただ、インターネットと違うのは、目の前に現物がないと調べられないことと、理解できない情報については、そもそも初めからヒットしないということ。
これは、皆が読み取れる情報を増やすためにも、魔法だけでなく理科教育の充実も必要だね。
今後の学校のカリキュラムについて考えつつ、今回の鑑定魔法の研究は終了した。




