セーバ小学校
「おはようございます。
わたしがこのセーバ小学校の校長のアメリアです。
皆さんにはこれからこの学校で色々なことを学んでもらいますが、まず守ってもらいたいルールがいくつかありますので、それを言っておきます。
この学校では、身分、親の職業、年齢、そして魔力量は一切関係ありません。
基本、どの子も平等に扱います。
ただし、個々の実力に応じてクラス分けは行います。
そして、一定のレベルに達しないと、上のクラスには上がれません。
皆さんの中には、初めてこの学校に来た5人の中には、この学校を建てた時の話等を聞いて、この学校に通えば便利な魔法を色々と教えてもらえると、期待している子もいるかもしれません。
でも、いきなりは教えませんよ。
まずは文字や計算、魔力のコントロールといった、基本的なことをできるようにしてください。
魔法を習えるのは上級クラスからです。
上級クラスの皆には、私が少しずつ魔法の指導もしていきますが、代わりにやってもらうことがあります。
下級クラスの子達の指導です。
これも評価に加えますから、手を抜かないように頑張ってください。
そして、優秀な生徒には、私の研究やお仕事のお手伝いもお願いするつもりです。
こちらは公爵家からの正式なお仕事になりますから、ちゃんとお給料も出します。
当面は、私や、私の補助をお願いするレオ……『レオナルド』、レオナルド先生や、レジーナ先生の指示に従って下さい。……云々」
そして、始まったセーバ小学校。
基本は午前中か午後のどちらかのみで、下級クラスの子は文字と算数。
上級クラスの子は、それに社会系の科目が加わる。
教材は、私が4歳の頃に使っていた貴族の子供用の教科書だ。
ただし、理科と魔法関係の教科書は一切使わない。
この2教科については、正直かなりとんでもな内容も多いので、私監修の上、状況に合わせて特別授業というかたちで、私が直接教えることにした。
あとは太極拳。
こちらは武術的な部分は教えず、立禅と型のみだ。
目的はあくまで正確な魔力操作を身に付けさせるためなので、今のところ武術指導はしていない。
これらは、レベルの差はあれ、うちの生徒全員の必修科目だ。
その上で、まだ余裕とやる気のある生徒については、残った午前もしくは午後の時間で自由課題をこなしてもらう。
といっても、下級クラスの子たちのやることは同じで、大体は読み書きと算数だ。
で、上級クラスの生徒については、大体私の研究のお手伝いか見学。
こちらは、特に正式な依頼ではないので、お給料が出るわけではない。
それでも、地図作成や学校建築に参加した上級クラスの子たちは、今までの経験から、私の研究に付き合っていれば凄いことを教えてもらえると考えているようで、家庭の事情の許す限り私の研究に張り付いていることが多い。
勉強熱心なのは良いことなので、私に文句はないのだけど、一応この世界的にヤバい研究もあるので、ここで知ったことは家族にも内緒と、口止めはしておいた。
とは言っても、それ程気にしてないけどね。
そもそも、この学校を作った目的が、私の仕事の補助をしてくれる側近の育成だから、むしろこの状況は、私の狙い通りだとも言えるのだ。
そして、今日も上級クラスの皆には、私の研究に協力してもらうための、特別授業に参加してもらっている。
授業内容は、鑑定魔法の習得だ。
この鑑定魔法を使うと、使った対象の様々な情報を読み取ることができる。
ただ、その“様々”が、人によってだいぶ違う。
この鑑定魔法は、私以外にも家令のダニエルも使えたので、試しにお屋敷にあるもので実験を行ってみた。
試したのは、お屋敷に飾ってあった剣だ。
かなり高そうなやつ。
で、私の鑑定結果。
剣:鋼鉄製、鉄と炭素の合金。重さは1.3kgでよく切れる。
次にダニエルの鑑定結果。
剣:倭国製の神鉄。重さは鉄の剣よりも若干軽く、鉄よりも遥かに硬い。
材質の違いについては問題ない。
単に私の知っている“鋼鉄”のことを、この世界では“神鉄”と呼んでいるだけだ。
ちなみに、ダニエルは鋼鉄の作り方も知らなかったし、“鉄”と“神鉄”は全く別の金属だと言っていた。
もちろん、私も余分なことは言わない。
次に重さだけど、私は剣の正確な重さは分かったけど、実は鉄よりも重いか軽いかは知らなかった。
ただ、改めて鑑定し直したら、鉄よりも若干軽いことは分かった。
あと、鉄よりも硬いが、柔軟性は鉄に劣ることも分かった。
ついでに、倭国で作られたということも。
それに対して、ダニエルは再度鑑定しても、正確な重さは分からなかったし、神鉄が何でできているのかも分からなかった。
どうもこの“鑑定魔法”、術者の持つ予備知識と、何を知りたいと思うかによって、読み取れる情報にかなり違いがあるっぽい。
そう考えた私は、より多くのデータを集めるために、上級クラスの子たちを集めることにした。
「じゃあ、まず鑑定魔法の呪文を教えるね」
『すかじむね しゅといあふちゅうずないつ』
黒板に書き出した呪文を、一生懸命に覚える子供たち。
大体覚えたところで、私が回って発音を修正していく。
五大魔法や軽量魔法を教えた時にも、発音時の口の開き方や舌の位置、音の出し方等について具体的に教えているので、聞いただけでふつうに発音できる音もいくらかあるようだ。
外国語の発音は、具体的な発音の仕方を覚えると、ただ漠然と音を聞いて真似していた時と比べて、格段に発音しやすくなるし、耳も聞き分けやすくなる。
前世でただ何となく英語の“r”と“l”の音を聞かされても区別がつかなかったが、2つの音の発音の仕方、舌の位置や音の出し方を覚えた後は、不思議なことに同じ音には聞こえなくなった。
最初に塔にやってきた頃は、慣れない口の動かし方に悪戦苦闘していた子たちも、最近は呪文の発声の仕方にだいぶ慣れてきたようで、皆結構あっさりと鑑定魔法を習得してくれていた。




