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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第1章 アメリア、領主となる

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学校を建てよう

すみません、ちょっと長くなってしまいました。

 今日からいよいよ学校の建設が始まる。

 実は建築に必要な木材や石材、土砂等は全て、既に学校建設予定地に運び込まれている。

 これから行うのは、建物の建築だ。

 ゼロンさんの話だと、ゼロンさん達の魔力量の問題で、何日かに分けて作業は行われるらしいけど、おおよそ1週間程度で完成するだろうという話だ。

 今日は初日ということで、レジーナやレオ君、他の子供たちも連れて、工事の見学に来ている。

 ちなみに、ユーノ君とアンちゃんは、今日は私たち見学組ではなく、ゼロンさん率いる職人一家側での参加だ。

 2人の魔力量も200MP程度はあるため、こういった大きな建物を建てる時は貴重な戦力らしい。


「ようし、始めるぞ」


 設計図を前に向こうで話し合っていたゼロンさんの家族が、一斉に顔をあげる。

 いよいよ工事の開始だ。

 まずゼロンさんの指示で、建物を建てる位置にロープが張られていく。

具体的な建物の大きさや位置をイメージしやすくするためだ。

 建物の位置が定まると、始めに登場したのは何とアンちゃんだ。

 彼女はゼロンさんの指示でロープで区切られた枠の中央に移動すると、ゆっくりと跪いて地面に手をつけた。

 ゆっくりと深呼吸して、地面に魔力を行き渡らせていく。

 そして、唱えられるのは、土地や金属等の無機物を成形する金魔法。


「Формируйте неорганические материалы в нужную вам форму」


 地面が一瞬淡い光を発し、後には固く踏み固められたような、草一本無い平坦な地面が現れた。

 少し息の荒いアンちゃんの頭に手を置き、満足そうに頷くゼロンさん。


「アン、とても上手にできたぞ。上出来だ。

 これなら何も手直しはいらんな」


 ゼロンさんに褒められて、アンちゃんもうれしそうだ。

 再度整地された土地を丁寧にチェックしたゼロンさんは、皆に指示を出して建物の床や壁になる資材を適切な位置に移動させる。


「そこの土砂はそこだ。

 その材木はあそこにまとめて積み上げておけ!」


 ゼロンさんの指示に従って、ゼロンさんの家族と近くの村から助っ人に来ている2人が動き出す。


「私達も手伝いましょうか」


 他の見学組の子供達に声をかけると、慌てたようにゼロンさんの制止が入った。


「お嬢さんに手伝ってもらうなんてとんでもない。

 黙って見ていて下さい。

 他の子供等の手伝いも大丈夫です。

 実際のところ、こいつらじゃ大した助けにはなりませんから」


 そうは言うけど、ただの荷物運びなら、この子達はそれなりに役に立つと思うんだよね。


「そうですねぇ……。

 では、私はここで見学させてもらうことにします。

 でも、他の子たちには手伝わせましょう。

 自分たちの学校ですから、やはり自分たちの手で作るのは当然です。

 それに、この子達は皆軽量魔法が使えますから、荷運びなら邪魔になることはないと思いますよ」


「なっ?! 軽量魔法?!

 本当ですか?」


「ええ、地図作りの時に、私が教えましたから」


 巻き尺やら大きな分度器やらを持って一日中走り回るのは、小さな子供には結構な労働なのだ。

 だから、荷物を軽くする軽量魔法についてはレジーナが教え、私が発音指導をして事前に皆に覚えてもらった。


「あれ? ユーノ君とアンちゃんから聞いてませんか?」


「いえ……。 ユーノ!、アン!

 ちょっとこっちに来い!」


 何事かと、こちらにやって来る2人。


「お前ら、アメリアお嬢さんに軽量魔法習ったって、本当か?」


 軽く睨むゼロンさんに、アンちゃんは兄ユーノ君を見つめる。


「うん、習ったわよ。

 でも、どうせアメリア様に習ったら軽量魔法が使えるようになったって言っても、誰も信じないってお兄ちゃんが……。

 変に思われてアメリア様に迷惑かけちゃうから、お父さんには言うなって……」


「いや、だって、呪文ってふつう神殿の石板で覚えるものでしょ?

 何となくべらべら喋っちゃいけない気がして……」


「……わかった。

 一応、色々考えた上での行動だったという事で、今回は見逃そう。

 確かに、お前の言うことにも一理ある。

 軽量魔法を覚えたって分かったら、仕事が増えるとか考えた訳ではないらしいからな!」


「ハハハ、、、」


 そんなやり取りを経て、私を除く皆が荷運びのお手伝いに参戦する。


「「「「「「「Разделите силу магией」」」」」」」


 皆が軽量魔法をかけることで、単純に子供たちが自分で運ぶ資材だけでなく、大人が運ぶ荷も軽くできる。

 皆それほど魔力が高い訳ではないので、事前に貸し出してある魔石の魔力も併用しながらで、精々半分から目一杯がんばって10分の1程度の重さにするだけだ。

 それでも、丸木や大きな岩の塊が、頑張れば大人2人で運べてしまうというのは大きい。

 殆どまる一日かかると思われていた資材の振り分けは、お昼前には終わってしまった。


 お昼の休憩を挟んで、午後からはいよいよ建物の建築だ。

 実はここからの作業は殆ど魔法となるため、人手の方はそれほど必要ないらしい。

 他の村から手伝いに来てもらっている人も、荷運び要員として雇ったとのことで、来るのは今日だけなのだそうだ。

 レジーナが軽量魔法を使えることは知っていたそうだが、まさか見学に来た子供が全員軽量魔法を使えるとは思わなかったと苦笑していた。


「ユーノ、まずこちらの壁からだ。

 一人でいけるか?」


「大丈夫だと思うよ」


 そう言うと、ユーノ君は壁用に積まれた土砂と石材の山に、自分の魔力を通していく。

 そして、足元に置かれた壁の図面にチラッと目をやり、アンちゃんが朝唱えたのと同じ呪文を唱える。


「Формируйте неорганические материалы в нужную вам форму」


 金魔法。

 どこの神殿にもある火水金木土の五大魔法の一つ。

 この魔法は金属を好きな形に成形できる魔法なんだけど、金属だけじゃなくて、今回のように土や岩なんかも自由に加工できる。

 でも、木材はダメ。

 こちらは同じ加工系でも、木魔法でないと加工できない。

 ちなみに、魔獣の皮や牙なんかも木魔法で加工できるらしいから、多分金魔法は無機物、木魔法は有機物を加工する魔法なんだと見ている。

 ただ、どちらも使い方は同じで、まず加工したい対象に自分の魔力を行き渡らせる。

 後は、どのようにしたいかをイメージしつつ、呪文を唱えれば完成だ。

 問題はこの魔法のために必要な魔力量なんだけど、実はかなり個人差が大きい。

 というか、この世界の人の魔法の使い方は、大雑把過ぎる!

 明らかに、魔力の無駄遣いだ。

 上手く魔力を浸透させていけば、(ほとん)どの物は少量の魔力で十分に成形が可能だ。

 それを力任せに魔力を流し込もうとするから、抵抗が大きくなって大量の魔力が必要になる。

 その辺りはうちに来ている子供たちにもしっかりと教え、今は正確な魔力操作についての訓練の最中だ。

 レオ君とレジーナは、もうかなり上手い。

 他の子達も初めて私のところに来た頃と比べると、だいぶ魔力の扱いが上手になったと思う。

 まだまだだけどね。


 で、そんなユーノ君の魔力の扱いはどうかな?


「なっ!?」


 淡い光に包まれた土砂の山は、次の瞬間まるで意思を持ったかのように動き出す。

 整地された土地の真横に積まれた土砂は、整地された土地の方に流れ込み、その境で天に流れ落ちる滝のように、重力に逆らって土砂の幕を作り出す。

 それらはやがて動きを止め、収束し、目の前には建物の壁が出来上がっていた。

 こういう大規模なのは初めて見たけど、中々に大迫力の光景だった。

 私はまだこちらの魔法に疎いし、身長も低いから、余計にすごく感じるのかもしれない。

 慣れちゃえば、ただの工事現場の光景なのかもしれないけど。

 

「………………」


 私の隣に立って、息子の作業を見つめるゼロンさんの目は真剣だ。

 ユーノ君は現在12歳、もうじき13歳になる。

 この国では13歳からは正式に働くことができる年齢になるので、ユーノ君の年齢だと、もうそろそろ“お家のお手伝い”ではなく、一人前の職人の卵とみなされる頃だ。

 ゼロンさんにとっては、そういった見極めの仕事でもあるのだろう。

 先程から、やけに真剣にユーノ君のことを見つめている。


「…………。ユーノ、ご苦労だった。

 休んでいいぞ」


 ユーノ君の作った壁を確認しながら、そう言うゼロンさんに対して、ユーノ君はというと……。


「いや、多分まだ……、あと2面くらいはいけると思う」


「なっ、ちょっと待て!

 いくら何でもそれは、」


「いや、本当に無理してるとかじゃなくて、自分の感覚だとまだ半分も魔力を使っていない感じがするから」


「………………」


 しばらく考え込んだゼロンさんは、できると思うならやってみろと、ゴーサインを出した。

 そして、宣言通りに、学校の正面入口を残す残り3面の壁を、問題なく完成させてしまうユーノ君。

 3面作ったところでほとんどの魔力を使い切ったようで、そこでユーノ君の出番は終了となった。


「………………」


 その後は、ゼロンさんが正面の壁と内側の部屋の仕切りの壁を作り、ゼロンさんの奥さんが木魔法で床板を張り、今日の作業は終了となった。


「後は、屋根だけですか?」


「そうですなぁ。

 まさか、今日中に床板まで張れてしまうとは思いませんでした。

 今日中に壁まで手を付けられれば御の字と考えてましたので……。

 明日の天気が少々心配ですが、予想以上に順調ですよ」


「そう言えば、サマンサも明日は天気が崩れるかもと言っていたような……。

 これ、作りかけのままで大丈夫ですか?

 屋根がないと、中の床とか濡れちゃいますよね?」


「まあ、後でこまめに水分を拭き取って乾かせば問題ないでしょう」


 ゼロンさんはそう言うけど、せっかく張った床板が濡れてしまうのはいただけない。


「ゼロンさん、魔力の問題だけなら、ゼロンさんが細かく指示してくれれば、魔法は私達が使いますので、屋根まで張っちゃいましょう」


「なっ、それは流石に……。

 屋根を張るとなると、相当な魔力が必要になります。

 レオナルド坊っちゃんならある程度作れるでしょうが、流石に今日中に完成させる程の魔力は……」


「その点は大丈夫だと思いますよ。

 レオ君だけじゃなくて、私やレジーナも手伝いますから」


 どうせ途中で作業が終わってしまっても、濡れるのは同じだからということで、とりあえず私の要望通りにやってみようということになった。


「お嬢さん、そこは木魔法で梁を……」


「レジーナ、そこは軽量魔法で一旦資材を上に上げてから……」


「坊っちゃん、そこの部分にすっぽり嵌まる形で金魔法を……」


 ゼロンさんの指示で、私とレジーナ、レオ君が校舎の屋根を完成させていく。

 初めは遠慮がちに指示していたゼロンさんも、私達がゼロンさんの指示と図面通りに不安なく魔法を使っていくうちに、指示を出すことにもすっかり慣れてしまったようだ。

 私達に魔力切れの気配が全く見られないことを(いぶか)しく思いながらも、まだ続けられるのならと、どんどん指示は続いていく。

 ついには屋根だけでなく、ドアや窓、内装にまで作業は及び、気がつけば、私達の校舎は一日で完成してしまった。

 厳密にはまだ内装も含めた細かな微調整はあるし、まだ実験場の方はこれからだ。

 でも、本来は余裕を持って2週間程の工期を取っていた作業が、たったの一日で終わってしまった。

 さすが、魔法文明である。

 魔力さえあれば、本当に何でもありだ。


 本日の成果に私が満足していると、ゼロンさんが話しかけてきた。


「今日はありがとうございました。

 まさか、本当に完成させてしまうとは、思いもしませんでした」


 何やら真剣な様子でお礼を言ってくるゼロンさん。


「いえいえ、こちらこそ、いい勉強になりました。

 あっ、工賃のことでしたら、初めのお話の通りにちゃんとお支払いしますから、大丈夫ですよ」


 だから、心配はいらないというと、ゼロンさんはその事はどうでもいいと首を振る。

 どうでもいいのか? お金は大切だよ。


「それよりも、お嬢さんに一つ聞きたいんだが……。

 こう言っちゃ失礼だが、なぜお嬢さんやレジーナに、あんなことができるんです?

 坊っちゃんは貴族で、魔力も多いからまだ納得できる……いや、もちろん、お嬢さんも貴族だが……」


「ああ、別に気にしなくていいですよ。

 私の魔力が少ないのは有名ですから」


「いや、まあ、でも、お嬢さんは貴族だから、何か自分等には分からん才能があるのかもしれん。

 でも、レジーナは違う。

 俺とレジーナの両親とは、同じ頃に移住して来た縁で、かなり仲良くしていた。

 だから、レジーナのことは生まれた時から知っている。

 確かにレジーナは昔から勉強熱心だったし、軽量魔法を使えるのも知ってる。

 だが、今日みたいなことができる魔力は、レジーナにはなかったはずだ。

 いや、レジーナだけじゃない。

 うちのユーノやアンもおかしい。

 あいつらの魔力は、精々俺と同じくらいだ。

 それなのに、今日のあいつらは……悔しいが、俺以上の仕事をしていた。

 おまけに、この町の神殿にはない軽量魔法まで……。

 アメリア様、一体うちの子供たちに、どのような事を教えて下さったんですか?」


 あれ?

 やらかした?

 でも、これから学校が始まったら、皆、今以上に優秀になってくよね?

 大体、そうなってもらわないと、私が困る。

 ここは、そんなことは当然という風に乗り切ろう。


「別に大したことはしていませんよ。

 そもそも、皆さんの魔力の使い方は、大雑把過ぎるんです。

 ちゃんと魔力操作の練習をして、魔法の構造をしっかりと理解すれば、ずっと少ない魔力で魔法は使えるようになるんですよ」


 当然のように(のたま)う私。

 まあ、私の場合は呪文そのものをいじっちゃってるから、効率云々とは違うんだけどね。

 なぜ石板もなく魔法を覚えられたのかも無視。

 勢いでごまかす!


 黙って私の話を聞いていたゼロンさんは、大きく息を吐くと、苦笑しながら言った。


「アメリア様、俺は、私はねぇ、実を言えば、この町の発展なんて信じてなかったんですよ。

 地図作りも学校作りも、正直ただのお嬢様のお遊びだと思ってました。

 私も最初にこの町に来た時には、ここは今はこんなでも、そのうち領都として発展すると……。

 そんな夢を見ていました。

 だが、領都に定まり公爵邸ができても、肝心の公爵様はちっとも顔を見せない。

 最近男爵になったばかりの貴族が、代わりにお屋敷と町の管理をするだけだ。

 別に横暴なことをされるわけでもないし、決して住みにくいわけでもない。

 でも、最初に抱いた希望は早々に消えていきました。

 1年、いや、そろそろ2年ですか……。アメリア様が来られた時もそうだった。

 公爵様が来られるといっても、王兄殿下のディビッド様ではなく、実際に来たのは元平民のアリッサ様と、魔力の低いアメリア様だ。

 私は元々王都で仕事をしていましたので、アリッサ様のご結婚の事情は聞いていましたから……。

 こう言ってはなんですが、アメリア様を初めて見た時には、ああ、王都から逃げてきたのだろうと、そう思いました」


 はい、正解です。

 逃げてきました。

 お父様は、この領地をどうにかする気は全くありません。

 ぐうの音もでませんね。


「ですが、今日の作業を見て、うちの子等やレジーナ、そしてアメリア様を見て確信しました。

 この町はこれから間違いなく発展する!

 俺がこの町に来たのは間違いじゃなかった。

 ……いつかレジーナの父親にも、あの世で自慢してやりますよ。

 お前が死んだ後、セーバの町は大発展を遂げたってね」


「わかりました。

 セーバの町は私が責任を持って発展させます。

 ゼロンさんにはそれをしっかりと見届けてもらわなければなりませんから、それまではレジーナの父親の分まで長生きしてこの町に貢献してください」


「ええ、微力ながら精一杯頑張らせていただきます。

 それと、遅くなりましたが、ユーノとアン、それからレジーナのこと、よろしくお願いいたします」


 子供の私に深々と頭を下げるゼロンさんは、本当に嬉しそうに見えた。


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