【書籍2巻出版記念】ママ友会議2 〜ベラドンナ視点〜
(ベラドンナ視点)
アメリアの事業計画に同意を示した私に、アリッサが嬉しそうに微笑む。
「ありがとう、ベラ。これでやっと肩の荷が降りたわ」
「ふっ、いつになく緊張してたものね。さすがのアリッサも、娘のことになるといつものようにはいかないみたいね」
私の言葉に苦笑するアリッサ。
「そりゃあねぇ、大事な娘の将来がかかってるわけだからね。これでベラの口からセーバを王家に召し上げるなんて言われた日には、娘に合わせる顔がないわよ」
「そんなことはないって、わかっていたでしょう? この計画書には驚かされたけど、元々私の中でのアメリアの評価は決して低くはないって、あなたも知っているでしょう?」
そう、正直に言えば、私の中でのアメリアの評価はかなり高い。
初めて赤ん坊のアメリアを見た時にも随分肝の据わった子だとは思ったが、その後のアリッサやディビッド様から聞かされた話には何度も自分の耳を疑った。
アメリアを溺愛するディビッド様はともかく、アリッサが事実を誇張した話をするとも思えない。
3歳で読み書き計算は完璧? 4歳児が王宮の書類不備を指摘? 神代の魔法言語の解読に成功?
もう優秀を通り越して、一体何をやってるの!? って思ったわよ。
そのうちに周囲の貴族が五月蝿くなって、アメリアはアリッサと一緒に辺境に引きこもってしまった。
王宮の事務処理は以前のように滞ることが増えて、事務処理の効率化の動きもすっかり止まってしまった。
溺愛する娘が王都を離れてしまって、ディビッド様のモチベーションが下がったんだと思っていたけど……。
この事業計画書を見れば嫌でもわかる。
王宮の事務処理能力が元に戻ったのは、アメリアの手伝いがなくなったせいだ。
本当に、どれだけ優秀なのか……。
もっとも、そんな優秀さも、今回もたらされたある事実と比べれば瑣末事だ。
私はテーブルの端に置かれた小さな箱に目を向ける。
「それよりも……ねぇ、アリッサ、これは何かしら?」
「……真珠ね」
「どうしてこんなものが存在するのかしら?」
ジト目でアリッサを睨みつける。
「それは……アメリアからベラへの贈り物だそうよ。……まったく、子供が賄賂なんて、女神様も一体うちの娘に何を教えてくれたのかしらねぇ……」
若干目を泳がせながら、わざとらしく溜息を吐くアリッサ。
疑惑は確信に変わる。
「アメリアが賄賂を使ったくらいで、今更驚いたりなんかしないわよ。確かにこの真珠には驚いたけど、その希少性というだけならまだ許容範囲よ。
問題は、この真珠で私の中の疑惑が更に深まったってこと。そして、あなたの反応で確信したわ」
「…………」
「アメリアは、魔法を使えるのね」
「えっと……それはアメリアだって少しは魔力があるんだから、多少の魔法くらいは使えるわよ」
「多少、ではないわよねぇ? アメリアが本来の魔力では考えられないような魔法を使っていたらしいって報告、しっかり届いてるわよ」
殆ど魔力を持たないはずのアメリアが大規模な魔法を使っている。
ある日、セーバ領方面を回っている密偵が、そんな噂を拾ってきた。
しかも、その中には、セーバ領の神殿には存在しない魔法も含まれていた。
あくまでも噂話で、直接目で見て確認できたものではないと、その報告を持ってきた密偵はひどく恐縮していたけど……。
まぁ、それは仕方がない。
今のセーバの町にはサマンサがいる。
セーバの町に直接潜り込んでの事実確認は不可能だろう。
それもあって、情報を集めてきた密偵自身、半信半疑のようだったけど……。
でも、アメリアのすることだと考えれば、荒唐無稽の噂話と切り捨てることもできない。
そして、極めつけがこの真円の真珠だ。
これが自然にできたとは、とても考えられない。
もし、これが連邦の商人によって持ち込まれたものなら、私はなんの疑問もなく神代の時代の古代遺跡から発掘されたものだと判断しただろう。
でも、実際にこれを持ち込んだのはアメリア……。
あの娘にこの真珠を手に入れる伝手や資産があるとは思えない。
それよりは、アメリアが魔法で加工したと考える方がずっとしっくりくる。
まったく……。
セーバの神殿にないはずの魔法の使用。
明らかに保有する魔力量を超える大規模魔法の使用。
そして、真珠の加工という存在しないはずの魔法の使用。
ここまで私の知る魔法の常識をぶち壊してくれると、もうなんでもありの気がしてくるわね。
アリッサの魔法を見せられた時にもかなりのショックを受けたのだけど、娘はそれ以上ね……。




