黒歴史 〜出版記念SS〜
出版記念SS第三弾はレオ君です。
私の中でのレオ君はアメリア一派の常識枠。加減を知らない女性陣のストッパー役といった位置付けだったのですが、まだイラストの頃のレオ君は……。
『ぅああああああああああああああああ!!!!!!』
レジーナの、泣き叫ぶ声が今でも耳から離れない。
勉強を嫌がるおれの前で、「わたしはがんばって勉強して、おとうさんみたいな立派な商人になる」って、強気に笑っていたのに……。
レジーナのお父さんが王都への移動中に魔獣に襲われて死んだという知らせが届いてから、レジーナは一度も遊びに来ない。
たまに町で見かけるレジーナは、いつも誰かの手伝いをしていて、話しかけても「ごめんね、仕事があるから」と言って、ろくに話してもくれなくなった。
『レジーナも不安なんだよ。突然天涯孤独になって、いつ町から放り出されるかと気が気ではないのだろうね』
『それなら! 公爵邸に呼んで一緒に住めばいいじゃないか!』
『それはできない』
『なんでだよ!』
反発する息子レオナルドに対して、セーバ領の代官であるアルトゥーロは噛んで含めるように説明していく。
自分たち一家は公爵家に代わってこの屋敷の管理を任されているだけで、勝手にレジーナを住まわせるわけにはいかないこと。
また、セーバ領の代官としてレジーナを保護するというのなら、当然他の孤児や生活に苦しむ住人に対しても、同じ扱いをしなければいけないこと。
また、自分たちと同時期に王都からセーバにやって来たレジーナを含む移住者を特別扱いすることは、元々の住人たちとの間に確執を産む結果になりかねないこと。
『レジーナは聡い子だからね。町で唯一の商店の娘ではなくなった余所者で孤児の自分が、町の住人からどう見られるのかよく理解している。
今は同情的な周囲の人も、一度反感を買ってしまえばどうなるかわからない。
あの子も、不安なんだよ』
納得いかないものの、わかったことがある。
父上にはレジーナを救うことはできない。
そして、悔しいけど、今の自分にも……。
5歳になって魔法も覚えて、これからは自分もレジーナや町のために何かができると思っていた。
でも、そんなのは勘違いだ。
火の玉なんか出せたって、全然レジーナの助けになんかならないし、レジーナのおとうさんだって帰って来ない。
父上は町の近くに魔獣が現れれば倒してきてくれるし、それで町の人たちも感謝してくれる。
でも、そんな父上だってレジーナのおとうさんは守れなかったし、レジーナを引き取ることもできないって言った。
公爵ではないからって……。
そんな時、突然王都から公爵夫人とその娘がセーバの町にやってくるという話を聞いた。
娘の名前はアメリア。おれより一つ下で、まだ4歳だけどとても優秀なのだという。
なんでも、魔力がとても少ないせいで王都にいられなくなって、急にセーバの町に引っ越すことになったって父上が言っていた。
年も近いし、おれの方が年上だからしっかりと面倒を見るように、だって。
当然だ。まだ4歳の女の子が王都から逃げ出してこんな遠くまで来るって、一体どんな事情だよ。
かわいそう過ぎるだろう!
父上からは公爵様が来ても、決してレジーナのことをお願いしたりしてはいけないと、きつく言われている。
今はレジーナもなんとかがんばっているし、必要であれば父上の方からお願いするから、余計なことは言わないようにと注意された。
子どものおれが下手に口を挟んで、それで公爵様を怒らせたりしたら、それこそレジーナがこの町から追い出されてしまう。
それよりも、アメリア様の面倒をしっかり見て、そのうちレジーナのことを紹介できれば、アメリア様の口から公爵様にレジーナのことをお願いしてもらえるかもしれない。
うん、まずはこの辺りを案内してあげよう。
きっと海は見たことがないと思うから、浜辺に連れて行ってあげたらよろこぶだろう。
>
なんだ、あいつ!
おれのことも町のことも全部無視して! 偉そうに賢者様のところで本ばっか読みやがって!!
大体、意味わかってるのかよ!
あんな難しそうな本、子どもにわかる訳ないだろ!
どうせ、カッコつけてるだけだ。
大体、父上もおかしい! 何がアメリア様を見習ってお前も勉強しろだよ。
あいつこそ、次期領主だっていうなら、もっと自分が治める町を見ろよ。
あいつが呑気に本なんか読んでる時だって、レジーナはがんばって働いてるんだぞ。
それで恥ずかしくないのかよ!
>
その後、散々偉そうに反抗したおれは、アメリア様に試合を挑まれてあっさり叩きのめされることになった。
今考えると、すご〜く恥ずかしい……おれが。
レジーナを助けようとしない父上に文句を言いながら、おれ自身は所詮子どもだから何もできないのはしょうがないと、何もしようとはしなかった。
そうしている間にもアメリア様は着々と次期領主としての力を蓄え、レジーナは勝手に自分の道を切り開いていたのに。
父上にしたって、実は周囲から目立たぬよう気を配りながら、それとなくレジーナの面倒を見てくれていたことを後になって知った。
結局、文句を言うだけで何もしていなかったのはおれだけってことで……。
「レオ君、うだうだ悩む前に手を動かしなさい。計算は木剣の素振りと同じだよ。
何度も問題を解いて、頭に計算の手順を刻み込むの。とにかく解きまくる。
はい、がんばって!」
そうだな、今はがんばるしかない。
今できることを精一杯やる。
まずは目の前の問題をさっさと片付けないと、またレジーナに馬鹿にされそうだしな。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
楽しんでいただけたなら幸いです。
宣伝になりますが、今回の書籍版の方ではレジーナ視点の書き下ろし、アメリア視点の特典SSも書いておりますので、よろしければそちらもお楽しみください。
Ryoko




