フラれてからが勝負! 〜出版記念SS〜
出版記念第一弾! アメリアの父、ディビッド公爵のSSになります。まだアリッサとの婚姻前なのでディビッド殿下ですが。
アリッサにプロポーズしたあとのお話になります。
『お断りします』
なんで……
『誤解のないようにもう一度言います。
ディビッド王太子殿下と結婚して正妃になるなんて、絶対に嫌です!』
そこまではっきり言わなくたっていいじゃないか……。
アリッサへのプロポーズの後の記憶が曖昧で、いつ、どうやって王宮まで戻って来たのかも思い出せない。
ただ、あの時のアリッサの言葉だけが頭の中で繰り返されている。
「アリッサとは、良い関係を築けていたと思っていたのに……」
確かに、私がリアン師のところに強引に押しかけたことで、多少はアリッサにも迷惑をかけてしまっていたかもしれない。
それでも、ここ1年ほどはだいぶ打ち解けて、お互いに夕餉の食卓を囲みながら気軽に会話ができる程度には仲を深められていたはずだ。
それなのに、どうして……。
「だから言ったではないですか。アリッサに正妃など無理だって」
私の正面に座るベラドンナ侯爵令嬢は、私がこぼした言葉を耳にすると、当然のようにそう言い放った。
「いや、確かにアリッサは平民で、ふつうに考えれば正妃など非常識だろう。
だが、私の欲目を抜きにしてもアリッサは非常に優秀だ。身分云々で初めは反対する者も出るだろうが、実際にアリッサの実力をその目で見れば、正妃としても十分やっていけるとわかるはずだ」
「まぁ、そうでしょうね」
「だろう? 実際、闘技大会を観た貴族の中には、アリッサを高く評価する者も多い。
大体、ボストク侯爵もアリッサのことを高く評価していると教えてくれたのはベラドンナ嬢だろう?」
「まぁ、そうですわね」
「なら、何故そんなことを言うのだ? ……もしや、やはり正妃の座が惜しくなって」
「それはありません」
思わず感情的になってしまったディビッドの思考を断ち切るように、ベラドンナが断言する。
……もしかして、私は女性に嫌われている?
自分ではそれなりにモテていると思っていたが、実は私が王族だから気を遣ってくれているだけで、本来の私にはなんの魅力もないのかもしれない。
だから、アリッサもあんなに冷たく……。
何やら盛大にマイナス思考の渦に飛び込んでしまわれたディビッド殿下の様子に、ベラドンナは思わずため息が出そうになる。
この方は、どうしてアリッサのことになると途端にポンコツになってしまわれるのか……。
まぁ、それだけアリッサのことを大切に思っているということでしょうし、ここは助け船を出すとしましょう。
「えぇと、ディビッド殿下?」
「ぁ、あぁ、すまない、ベラドンナ嬢」
「いいですか、殿下? 私が以前言った『アリッサに正妃など無理』というのは、アリッサにその能力が無いという意味ではありません」
「では、どういう意味だと?」
「それは、アリッサには正妃をやるのは無理という意味ではなく、アリッサに正妃をさせるのは無理という意味です」
「いや、国王陛下には既に了承いただいているし、他の貴族にしてもボストク侯爵が味方についてくれるなら十分に説得可能だ。勝算は十分に」
「ですから、そういうことではなく、アリッサ自身が正妃になることを承諾しないと言っているのです」
あのアリッサが、正妃の座などを欲しがるわけがない。
「あぁ、確かにアリッサもそう言っていたね。他の貴族どもに悪く言われるとか……。
何やら私とアリッサの関係について随分と失礼なことを言っている者もいるらしいし、ここは思い切ってそいつらを締め上げて見せしめにすれば……」
「はい、ストップ!」
何やら不穏なことを言い始めたディビッド殿下の思考を慌てて止める。
まったく、この男は……。
「いいですか、殿下。大切なのはアリッサ自身の気持ちです。
アリッサが自分のことをなんと言おうと、自分自身をどう評価しようと、そんなことは関係ありません。
あの娘が本気で正妃の座を望むなら、勝手にあの娘自身が周囲を黙らせて正妃の座に収まってしまうでしょう。
殿下がおっしゃる通り、アリッサは優秀ですから」
「なら!」
「はい、ですから、アリッサが王妃の座を拒むのは、純粋にあの娘自身が王妃の座を望んでいないということなのです」
「……まさか、そんな、だって王妃だぞ? 誰もが望む地位だろ?」
「少なくとも、私はそれほど望んではいませんわ」
事実、もし貴族の義務云々を抜きに自由に自分の将来を選べるのなら、私は王妃などよりむしろ将軍になりたい。
学院に来る前の私は実際にボストク軍で指揮をとっていたし、個人的には王妃などより軍属の方が私には向いていると思っている。
ボストク侯爵もそれをわかっているから、アリッサが王妃になるというのなら、無理をして娘を王妃にする必要はないと考えているのだ。
我がボストク領は帝国と国境を接していることもあり、ここ王都や他領の貴族ほど現状を楽観視はしていない。
今はともかく、今後、ディビッド殿下の治世には帝国との大きな戦争が起こるかもしれないのだ。
帝国との戦の際にはその被害を最も多く、直接受けることになるボストク領にとって、宮廷内での発言力などより自領の防衛力の方が余程重要といえる。
他国の事情に詳しく、国際的な広い視野に立った物の見方のできるアリッサがディビッド殿下の補佐につき、私が軍属として自由にその力を振るえるのなら、むしろその方が盤石ではないか。
それがボストク侯爵の考えだ。
別にディビッド殿下の恋の成就を応援しているわけではない。ただの打算だ。
とはいえ、実際にアリッサがディビッド殿下の求婚を断ることはわかっていた。
アリッサは、賢いから。
並の平民や貴族なら、目の前に“王妃”という人参をぶら下げられたら、多少の逡巡はあっても、最終的には食いつくだろう。
それは、目の前に山のような財宝を積まれて、これが欲しいかと問われるのと同じなのだから。
これが上級貴族になると、少し事情が変わる。
私を含めて現実的に王妃候補に挙げられる可能性のある上級貴族の子女は、その責任の重さも含めて教育されるから。
王妃になれば贅沢に遊んで暮らせるなんて呑気に考えられる者は、そもそも王妃候補になど初めからならない。
ただ、そうした教育をしっかりと受けてきた上級貴族の子女は、貴族の義務として王太子殿下の求婚を断ったりは決してしない。
つまるところ、その相手が誰であれ、王太子殿下の求婚を断るような者はいないはずなのだ。
そう、あの娘を除いては……。
上級貴族並みに優秀で政治にも明るく、それでいて平民の中でも群を抜いて自由人のアリッサが、王妃などという地位に魅力を感じる筈がない。
つまり、この結果は分かり切っていたこと。
「それで、ディビッド殿下はどうなさるおつもりですか?」
このままディビッド殿下がアリッサを諦めるというのなら、それも仕方がないだろう。
私は予定通りディビッド殿下と結婚し、貴族の義務を果たすだけだ。
その時は、アリッサを雇って私の腹心に据えるのもいい。
あの娘なら、文官も武官も両方いけるだろう。
とはいえ、そんな未来は来ないだろうこともわかっている。
目の前の男は、存外しつこいのだ。
「……まずは外堀を埋めたい。ベラドンナ嬢、協力してくれないだろうか」
やはり私が将軍の地位につく未来はなさそうだと、心の中でベラドンナは小さくため息をついた。
このたび、みなさまの応援のおかげで『転生幼女は教育したい!(旧題:教育しよう!!)』を出版することができました!!
ほんとうに、ありがとうございました!!
自分の書いたお話の登場人物にイラストがつくのは感無量ですね。
ちょっと生意気そうな目つきの幼いアメリアが超かわいいです!!
購入していただけるととてもうれしいのですが、もし厳しいようなら表紙だけでも見てあげてください。
もう、私、完全に親馬鹿になってますね。
ともあれ、今回の出版記念SSでは、何かと影の薄い男性陣を主役に書いてみました。
ディビッド殿下、大賢者リアン、それにレオ君で3話投稿予定です。
何かと男性不遇の当作ですが、せっかく素敵なイラストを頂きましたので、この機会に活躍?してもらおうと思った次第です。
お楽しみいただければ幸いです。
次回更新は日曜日、アメリアの祖父、大賢者様の予定です。




