世界の変化
その後、モーシェブニ魔法王国とソルン帝国の間には正式な友好条約が結ばれ、長きに渡る両国の敵対関係が終結した旨が両国民に宣言された。
宣言当初、突然の方針転換に対して多少の反発はあったみたいだけど、そんなものはすぐに消え去ることになる。
その後の両国の変化があまりにも大きすぎて、皆そんな事に構っている余裕は無くなったからね。
まずは帝国。
今帝国では、急ピッチで大陸横断鉄道の建設が行われている。
いや、大陸環状鉄道かな。
連邦の首都ラージタニーからキール山脈の北、帝国内を横断して魔法王国の王都モーシェブニまでを結ぶ北部大陸横断鉄道。
これが完成すれば、従来の大陸横断鉄道と合わせてこの大陸をぐるっと一周する巨大環状線が完成する。
鉄道で行く世界一周の旅!
なかなか浪漫がある。
で、その鉄道建設なんだけど、条件はほぼ前回と同じ。
こちらが技術を提供する代わりに、帝国には労働力や建設費を提供してもらう。
今回の場合、帝国が払う“建設費”は金貨ではなく金だけどね。
あと、建設資材もかな。
帝国の領土であるキール山脈の特に北側は、各種地下資源の宝庫だったりする。
鉄や銅などの鉱物は勿論、金銀、各種希少鉱石(宝石類)と、魔石を除くほぼ全ての地下資源が産出される。
ただ、今までは採掘に必要な土魔法が無くて、人力で採掘した石のままの鉱石を連邦に安く輸出していたんだよね。
下手に連邦から土魔法の使える技術者とかを呼んでも、その技術が帝国に定着するわけではない。
連邦が技術者を引き揚げると言い出せば帝国はお手上げなわけで、それなら初めから製錬前の鉱石を安値で輸出している方がいい。
そんな感じだったみたい。
ただ、ここ最近は魔法を使わない製錬技術、鋳造技術も広まって、魔法ほどお手軽ではないけど、それなりに自国内での金属利用も可能になっているとのこと。
偽金貨も、それで作ったみたい。
まぁ、そんな訳で、今の帝国には魔法はなくとも、鉄道建設に必要な資材も資金(金)もたっぷりある。
ある意味、連邦の時よりも楽だったかも…。
連邦の時には、各地を管理する領主に鉄道が通ることによるメリットを説明し、銀行や通信の新規事業立ち上げに協力しと、結構面倒な事も多かったんだよね。
建設費用を相手持ちにし、鉄道の利権はアメリア商会が貰うなんてとんでもない条件をつけたから仕方が無いんだけど、その交渉や調整にはそれなりに時間がかかった。
その点、今回は超シンプルで、工事に必要な魔法の現地指導込みの技術協力を申し出たら、全て連邦での鉄道建設の時の条件で構わないと、あっさり受け入れられたよ。
今、資材の採掘場や鉄道工事の現場には、セーバリア学園から魔法の発音指導のできる上級講師が複数派遣されていて、土魔法や金魔法の使える帝国人がどんどん増えていっているみたい。
現場の作業員や技術者も覚えた魔法に大興奮で、作業スピードが上がる、上がる!
既に鉄道の敷設工事は終わって、今は駅舎の建設に取り掛かっているみたい。
本当に、完成が楽しみだ。
勿論、今建てているのは駅舎だけではなくて、駅舎を中心とした周囲の建物についても着々と工事が進んでいる。
目端の利く帝国の商人は当然として、鉄道によって起こった急激な経済発展をその目で実際に見てきた連邦商人も、我先にと帝国各地に押しかけている。
空前の建築ラッシュに、魔法が復活するという今後への期待も合わさり、今の帝国国内は好景気に沸いているんだって。
ついこの前まで王国と戦争やってたとか、王都制圧を目前にして急に軍を引き揚げたとか、もうどうでもいいみたいよ。
なら、攻め込まれた側の王国はどうなのか?
最初の頃はともかく、その後の展開は完全なマッチポンプ。
わざと王都まで攻め込ませて、敵対貴族を処分させ、その後は穏便にお引き取り願う。
王国貴族に多大な被害を出した王都防衛戦すらも出来レースで、その結果は帝国女帝、魔法王家ともに初めから了承済み。
もっとも、その真実を知るのは両陣営上層部の極一部だけで、大半の国民にとっては国家存亡の危機だったわけで…。
帝国に対して思うところはないのか?
国の守護者を標榜する王家や貴族に対して、民の不安や不満の声は出ていないのか?
それは、それどころではないので全く出ていないそうです。
帝国との友好条約締結後、それほどの時を置かず国民に向けて出された新しい税法、身分に関する方針に、王国内の平民、貴族が揃って大騒ぎとなった。
それは、簡単に言ってしまえば、今までの魔力量を基準とした税額や賃金の取り決めを廃止し、個々の能力や国への貢献度等を総合的に評価した仕組みに変えていくというもの。
これにより、今までは能力に関係なく生まれ持っての魔力量で保障されていた最低賃金や身分による優遇措置は廃止される。
現行の身分制度は残るが、今後はその責任に見合った能力が求められるため、ただ魔力さえあればいいという訳にはいかなくなるという。
今回の戦で、魔力量頼みの貴族たちが帝国の一般兵に手も足も出なかったこと。
魔力量に劣る平民で組織されたセーバ軍に、その危機を救われたこと。
また、魔力量に劣るはずのセーバの街が近年発展目覚ましく、その発展の原因が魔法以外の学問や技術によるところが大きいこと。
合わせて、今回帝国に水面下で仕掛けられた経済攻撃は魔力に全く依存しないやり方であり、今後このようなやり方が増えれば、魔力量頼みの今の王国では、他国に対して全く太刀打ちできない可能性が高いということ。
これらの点を踏まえ、モーシェブニ魔法王国は今までの魔力至上主義を排し、魔力量に依存しない新しい国の在り方を模索する。
こんな宣言が出されたことで、今まで魔力量の多さにあぐらをかいていた上流階級は大混乱。
ただ、それに文句を言おうにも、魔力至上主義筆頭だった保守派貴族は皆力を失っている。
戦争で負けそうだったのも事実だし、セーバの街の発展に焦っていたことも事実。
おまけに、昨今の物価上昇や一部の食糧不足も帝国からの攻撃だったと言われれば、ホクホク顔で食糧や魔力を他国の商人に売っていた者たちも何も言えない。
今後の大きな社会変化を前に、今から何をすればよいのかを考えるのに精一杯で、戦争責任云々を追求しているような余裕は誰にもないみたい。
結局のところ、戦争後に起きた社会変化があまりにも大き過ぎて、両国とも戦争自体は完全に忘れてしまったってことなんだよね。
終章、というか、ほとんどエピローグです。




