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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第5章 アメリア、世界を巡る

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鉄人兵戦争 〜女帝&王妃視点〜

(女帝マリアーヌ視点)


「まさか、これほどとはな…」


 後方より戦場を俯瞰する私の目に、王国軍の操るゴーレム兵と、それを取り囲む帝国軍(我が軍)の鎧兵との戦闘が映る。

 遠目には、一見大人と子供が争っているようにも見えるが、小さな子供に見える方が帝国の兵士だ。


(距離感が狂うな…)


 屈強で大柄な者を集めた我が軍の鎧兵の身長は2m近い。

 その鎧兵も、あのゴーレムの前では精々相手の腰の高さほどで、まさに大人と子供のように見える。

 ただし、それは普通の人間ではなく、鉄人。

 知らぬ者が見れば、人同士の争いではなく、魔物同士の争いだと勘違いしそうではある。

 いや、争いにも見えぬか…

 巨大なゴーレムが手に持つ棒をひと振りするだけで、重い鎧を纏う帝国兵が薙ぎ払われていく。

 魔力砲による援護も、あの盾に受け止められ、無効化されている。

 あの盾も、リアル鉱石製か。

 もっとも、リアル鉱石製なのはゴーレムが持つ盾だけで、ゴーレム本体はリアル鉱石製というわけではない。

 いや、それどころか、術者の魔力で動いているあのゴーレムにとって、リアル鉱石は弱点と言える。

 実際、リアル鉱石で作られた帝国兵の剣や鎧が触れると、あの巨人(ゴーレム)は動きを止める。

 とはいえ、こちらにできるのはそこまでだ。

 たとえ動かない鉄像とて、人の倍ほどもある鉄の塊をそう簡単に破壊などできるものではない。

 そうして手をこまねいているうちに、新たに術者によって魔力を流されれば、それでまたゴーレムは動き出してしまうのだ。

 故に狙うべきは、ゴーレム本体ではなく、ゴーレムを操作する術者。

 若しくは、ゴーレムと術者を繋いでいる導線の方だ。

 だが、それは敵も承知のようで、術者と導線はゴーレムのサポートにつく王国兵たちによってしっかりと守られている。

 おまけに、迫りくるゴーレムの中には直接術者がゴーレムに乗り込んでいるものもあり、その場合にはゴーレムを避けて術者を狙うといった作戦も成り立たない。

 ゴーレムの体に直接触れられれば動きを止められる?

 そんなものは人同士の普通の戦闘と何も変わらない。

 剣を当てれば、拳を入れれば相手の動きを止められると言っているのと同じことだ。

 ゴーレムに直接乗り込んでいる術者は明らかに手練で、彼奴らの操るゴーレムの動きは熟練の兵士のそれと何も変わらない。

 迂闊に近寄れば、あの棍の遠い間合いから打ちすえられるのが関の山だ。

 特にあの少女、レジーナと言ったか…

 あの娘が操るゴーレムの動きは群を抜いている。

 いや、ゴーレム自体も厄介だが、何より厄介なのがゴーレムの上から時折放たれるあの魔法だ。

 あの魔法には、こちらの鎧が一切通用しない。

 どうやら直接魔法をぶつけるのではなく、魔法を使って手元の金属球を撃ち出す魔法のようだ。

 しかも、目に見えぬほどの速さで、だ。

 撃ち出された金属が一度加速してしまえば、たとえ衝突の瞬間に魔法が打ち消されたとて、その威力は変わらない。

 リアル鉱石製の鎧とて、あの魔法の前では無力だ。

 それにしても、ただの魔力操作で質量のある物体をあれほどの速度で、しかもあれほどの距離移動させることなどできるはずがない。

 一体どのような仕組みの魔法なのか、非常に興味深い!

 撃ち出される瞬間に見える光は火薬とも違うようだが…

 あれは、雷? いや、書庫の知識にあった“電気”というものか?

 だが、“電気”に物を撃ち出す力があるなどという記述はどこにもなかった。

 …この秘密も、アメリア公爵は教えてくれるのだろうか…?

 

 開戦当初こそ帝国軍(我が軍)の一方的な蹂躙で幕を開けたこの戦いも、ゴーレム兵団の参戦で状況は一変。

 今はゴーレムへの対処にも少しずつ慣れ数に勝る帝国軍(我が軍)が、五分の戦いに戻しつつある。


 潮時か…


「全軍へ撤退の指示を! 負傷兵を保護しつつ前線基地まで撤退する」


 私の指示に騒然とする参謀本部。


「なっ!? 我々はまだ戦えます。確かに現状苦戦しておりますが、流れは徐々に戻りつつあります」


「そうです。そもそも今敵に背を向けることは逆に危険かと。ここは多少被害を出してでも一気に勝負をつけるべきです」


 事情を知らない幹部たちが、私の指示に異を唱えるが…


「問題ない。見たところ、あのゴーレムは導線で繋がった術者が操作する操り人形のようなものであろう。

 ならば、活動範囲には限界がある。そうそう深追いはできまい。

 あのゴーレムには苦戦しているが、全体の損害としては王国軍の方が圧倒的に大きいのだ。

 奴らに追撃を仕掛けてくる余力があるとも思えん。

 逆に、このまま迂闊に王都内にまで兵を進めれば、思わぬ反撃に遭う可能性もある。

 敵が用意した手があのゴーレムだけとは限らんのだ。

 噂に聞くセーバの街が参戦してきた以上、こちらも慎重に動く必要がある」


 初めこそ戦場の熱気に当てられ強く進軍を進めてきた幹部たちも、実際に目の前のゴーレム兵を見てセーバの街に関する報告を思い出したのか、次第に警戒の色が濃くなっていく。

 最終的には皆が一時撤退に賛成し、我が軍は撤退戦を開始した。

 もっとも、予想通りというか、予定通り、王国軍に追撃してくる様子は全く見られず、我が軍はさしたる被害もなく無事全軍の撤退を完了することができた。

 

 あわよくばこのまま王都を占拠してしまって、その上でアメリア公爵との交渉を有利に進めるのも有りかとも考えていたが…

 目の前で実際に動くゴーレム兵の脅威を見せつけられ、たとえ小規模とはいえあの魔法!…電磁砲と言ったか…が戦場で使われているのを見ては、あの映像を信じるほかあるまい。



(ベラドンナ王妃視点)


「追撃はいい! 負傷者の保護を優先しなさい!」


 戦場にセーバ軍の総指揮官を任されたレジーナの声が響き渡る。

 帝国軍が去った戦場には、未だ多くの負傷兵が残されている。

 その多くが、王国の保守派貴族たち。

 正直、もう少し奮戦してくれると思ったけど…

 流石に、ここまで一方的で不甲斐ない結果になるとは考えていなかった。

 魔力偏重の考えに凝り固まり、最近は私と意見がぶつかることも増えていたけど、元々は軍の中でも力のある貴族たちだったのに…

 これも時代の流れかしらね。

 帝国軍が持つ兵器からは上級貴族並みの攻撃魔法が次々に撃ち出され、巨大な盾を構えるゴーレム兵がそれらの魔法を事も無げに受け止める。

 ゴーレム兵の後方から撃ち出される砲撃は、王国貴族の全力の魔法を物ともしなかった帝国軍に確かな損害を与えていた。

 ザパド領の内戦で敵軍から鹵獲(ろかく)したというあの兵器(大砲)は、アメリアの話では全く魔力を必要としないという。

 魔力を持たない平民でも使えてしまう、ただの道具に過ぎないということだ。

 平民といえば、今回王国に攻め込んで来た帝国兵の大半は、大して魔力を持たない普通の平民であるという。

 そして、その帝国軍から王都を守ったセーバの軍もまた平民。

 魔力を無効化する武器、魔力を全く必要としない武器、魔力を持たない平民の兵士たち。

 後世の歴史においてこの戦争がどう語られるのかは分からないけれど…

 “この国を守り支えているのは魔力に優れた貴族である”なんて理屈は、今後は受け入れられなくなるでしょうね。

 自分たちの主張を通して準備万端整えて挑んだ最終決戦で、魔力量に優る保守派貴族たちは為すすべもなく叩きのめされ、そのピンチを救ってくれたのが魔力の少ない平民たち。

 最後にはその平民たちに救助され保護してもらい、その一部始終を王族や革新派貴族、そして王都の民たちに見られている。

 壮大な茶番とも言える戦いだったけど、これで頭の固い保守派貴族たちも大人しくなるでしょう。

 いい加減に魔力量が唯一なんて発想は捨ててもらわないと、王国だけが世界に取り残されることになりかねない。

 これでもし本当にアメリアの計画が実現したら、それこそ“王家”の存続すら危ういのだから。

 一応今回の戦いで、我が国の貴族たちに対するレジーナのお披露目は済んだけど…

 身分に(こだわ)るこの国の貴族にレジーナの存在を認めさせる必要、、あったかしら…?

 近い将来、もしかしたらこの国から“貴族”や“王族”というもの自体が消えてしまうことになるかもしれないのにね。


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