表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第5章 アメリア、世界を巡る

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

294/321

通貨の価値

「久しぶりだね、アメリア。旅は楽しめているかい?」


「はい、お父様。あまりご連絡ができず申し訳ありません」


「いや、こちらこそ済まないね。

 あまり国のごたごたとは関わり合いたくないというアメリアの考えも分かっているつもりだ。

 本当なら、そんなアメリアにこんな話はしたくないのだが、そうも言っていられない状況みたいでね。

 いや、杞憂であればよいのだが…」


 そう言ってお父様が話し始めた魔法王国の現状は、なかなかに深刻なものだった。

 多分、お父様が考えている以上に…

 それは、端的に言ってしまえば貨幣価値の変動。

 放っておけば、最悪王国は経済破綻しかねない。

 そんな問題だったりするんだけど…

 今王国で、いや、世界中で起きていること。

 それは恐らく、相対的な貨幣価値の下落。

 貨幣の価値が下がっているのだと思う。

 だから、今までなら銀貨一枚で買えた物が銀貨二枚、三枚になっているのだ。

 お父様は個々の品物やサービスについて値上がりの原因を考えているけど、そうではないんだよね。

 原因は通貨の価値そのものにあるのだから、個々の商品の値上がり理由を考えても意味が無いのだ。

 手っ取り早い対策としては、貨幣の価値を上げればいい。

 通貨の発行枚数を減らすとかだね。

 数が減って貴重になれば、その分価値も上がる。

 単純な理屈だ。

 でも、話はそう単純でもないんだよね。

 だって、連邦の現状を考えると、今通貨を減らすわけにはいかないから。

 私がやらかしたあれこれもあって、今のこの世界の経済はかつてない好景気だったりする。

 これは連邦に限ったことではなくて、王国も倭国も同様だ。

 世界中を大量の通貨が飛び交う現状で流通する通貨が不足することは、せっかくの好景気に水を差すことにもなりかねない。

 その最初の対応が通貨の発行権を持つ連邦議会ではなく、どこぞの贋金製造組織によるものだったのは皮肉だけど、結果として世界経済は良い方向に進んでいると思う。

 この流れは止めるべきではない。

 実際、物の値段が上がるインフレ自体は、ある意味自然なことだし然程問題でもないと思う。

 物の値段が上がっても、その分労働の価値も上がって給料も上がれば、結局は同じことだしね。

 問題があるとすれば元々持っている貯金の価値が下がることだけど、お金なんて動かしてなんぼだからね。

 タンスの奥に眠らせたお金が死んでいくのは当たり前。

 嫌なら有効活用しろって話だ。

 まぁ、そうは言っても急激なインフレは平民の負担が大きいんだけど。

 ただ、今のインフレの原因は政治云々とかの話ではなくて、純粋に民間レベルでの経済発展の結果だからね。

 現実に、どこからも苦情は出ていないわけで、、いや、出てたね。

 我が祖国。魔法王国の王宮から。

 

「お父様、この問題の解決方法ですが、現状の固定相場制を止め変動相場制に切り替えることです」


「ん? コテイソウバセイ?」


 そんなものは聞いたこともないといった様子のお父様に、噛み砕いて説明していく。

 まぁ、無理もない。

 だって、この世界は単一通貨で、為替相場なんてものは存在しないからね。

 でも、貨幣の価値を測る目安はある。

 それが魔力だ。

 1,000MP=金貨1枚

 これは連邦が最初に貨幣を発行した時に決めた基準らしいんだけど、前世の(きん)がこの世界の魔力ってことかな。

 魔力はエネルギーであり力の象徴。

 魔法を介して加工も自由自在で劣化もしない。

 神々が人類に与えた神聖な力。

 それが、この世界の魔力に対する認識だ。

 そして、この世界で使われる貨幣の価値は、その魔力によって保証されている。

 まぁ、元々はそういう事だったらしいんだよね。

 勿論今はそんな難しいことを気にする人はいなくて、ただ単純に連邦が発行する貨幣の価値は皆に受け入れられている。

 この金属の塊がいつか無価値になるかも、なんて考える人はまずいない。

 魔力云々に関係なく、皆が現状の貨幣経済を受け入れている。

 ただ、そうは言っても最初に決められた魔力と貨幣とのレートは生きていて、年に一度行われている魔法王国王家から連邦への魔力の売却には、今でも“1,000MP=金貨1枚”の固定レートが使われているんだって。

 そして既に、今年度分の魔石の売却は終了しているとか…


(「馬鹿ですか!?」)


 久しぶりに話す父親に対して、思わずそんな言葉が出そうになるのを慌てて呑み込む。

 でも、王国の予算が逼迫した理由はよ〜く分かった。

 つまり、相場も知らずに大安売りしたんだね。

 ちなみに、お父様は今の連邦で魔力が幾らくらいの値で取引されているのか全く知らなかった。

 最低でも正規のレートの3倍にはなる。場所によっては5倍の値がついてもおかしくないって話をしたら、(しばら)く固まっていたよ。

 議長様に確認したところによると、連邦国内では既に非公式ながら為替市場のようなものもできていて、日々魔力の売り買いが行われているとか。

 通信と鉄道の発展で国の東と西の端でも瞬時に取引が可能になったことで、以前のように知らないのをよいことに安く仕入れた物を高く売りつけるといった商売は連邦内では難しくなったんだって。

 でも、その点王国(セーバを除く)は脇が甘いから、まだまだ付け入る隙が大きいらしい。

「それを承知で王家と取引していたんですね?」っていう私の嫌味に、議長様も気まずそうにはしていたけどね。

 個人的には騙される方が悪いって考えなので、あまり議長様(年寄り)をいじめたりはしなかったけど。

 公式の為替レートと非公式な為替レートが違うなんて前世の旅ではよくある事だったし、どこでどのタイミングで外貨を両替するのが得かを考えるのも、旅の醍醐味だった。

 日本でも昔は海外の金銀相場を知らずに、大量の金銀を外国から来た商人に売り払ったりしていたらしいしね。

 その程度の情報戦は個人、国家に関係なくよくある話で、情報収集を怠った王家が悪いって話だよね。

 ともあれ、今後の対策としては、まず今後の連邦との魔石の取引には固定レートを廃止して、最新の為替レートを使うようにする。

 鉄道のお陰で連邦から王国への移動も楽になったのだから、魔石の売却は年に一度と言わず、取引の機会を増やすようにする。

 あと、国民からの徴税についても、徴税時の最新の為替レートを採用するようにする。

 徴税官の仕事は恐ろしく増えるだろうけど、これをやらないと最悪王家の税収が実際の3分の1、5分の1になりかねないからね。

 実際、今年集められた税の中で金貨が占める割合がかなり多いっていうのも、原因は単純な商取引の増加だけではないと思うんだよね。

 魔力で払うよりも貨幣で払う方が得だって気がついている者が、少なからずいたせいじゃないかなぁ。

 こういうのは、実は末端の民の方が情報が早かったりするからね。


「お父様の周りで、今の魔力の価値について伝えてくれた者はいなかったのですか?」


「う〜ん…」


 お父様が言うには、通信で現場からいち早く情報が伝わってきても、お父様の元に届けられる正式な報告は、後日追って送られてくる責任者の署名入りの書類になるんだって。

 鉄道や新型馬車のお陰で以前よりは速いらしいけど、それでもそれなりの時間はかかるらしい。

 それって意味ないじゃん!

 おまけに、送られてくる情報の取捨選択も現場の責任者の判断が大きいから、今回の経済問題みたいに知識や経験の無い問題になると、重要度の低い情報として途中で切り捨てられてしまうことも多いとか。

 ここ最近入ってきた文官の中には比較的優秀な人も多いらしいけど、平民出身の者が大半で、こういった判断には関わらせてもらえないケースが多いみたい。

 国内貴族の動きについては強固な情報網を持つお父様だけど、今まで殆ど関わりのなかった平民や他国の商人は対象外だ。

 これは、こちら(アメリア商会)からも積極的に王家(お父様)に情報を流した方がいいかもしれない。

 連邦の贋金の問題もあるし、今後は国同士で連携して経済問題に対処する機会も増えると思う。

 武力のみが力。お金の話は商人に任せておけばなんて認識だと、知らぬ間に経済的に国を乗っ取られかねないからね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生幼女は教育したい!2巻
 書籍2巻10月10日発売です!!

転生幼女は教育したい!1巻
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ