大賢者に会おう
セーバ領の領都セーバに無事到着した翌日。
私とお母様はお祖父様に会いに、町の外れにある“賢者の塔”に向かった。
賢者の塔というのは勿論、お祖父様の住んでいる塔のこと。
石造りの3階建ての塔で、2階以上の建物が一つもないこの町ではかなり目立っている。
お祖父様は現在、その塔に一人で住んでいるそうで、滅多に塔から出てくることはないらしい。
ちなみに、食事は朝晩お屋敷の使用人が準備して届けるか、塔に作りに行っているとのこと。
掃除やなんかもお屋敷の使用人がその都度やってくれているらしい。
つまり、完璧な引きこもりだ。
今現在、この領都……もうセーバの町でいいか、のお屋敷は、お祖父様の親友のアルトゥーロ男爵……アルトさんが管理してくれている。
この町の代官も、アルトさんがやってくれているらしい。
アルトさんは昔、お祖父様の護衛としてお母様とも一緒に旅をしていたらしくて、お母様とも気心が知れた仲だ。
以前は、ただの冒険者だったんだって。
お祖父様と一緒にこの町に引っ越して来てから、代官の仕事をするのには肩書きがあった方が何かと便利という理由で、貴族の爵位を取ったらしい。
元々魔力の高い傭兵の一族だったということで、規定の魔力量はクリアしていたため、申請したらあっさり爵位は認められたそうだ。
そんな訳で、アルトさんにもアルトさんが管理するお屋敷にも、貴族貴族したところは全くなく、お屋敷の雰囲気は王都邸以上に緩かった。
今後はダニエルとサマンサが家令、侍女長としてお屋敷を預かることになるので、今お屋敷で働いている使用人の人達は馴れるまで大変だと思うけど、アルトさんはこれで肩の荷が降りると喜んでいた。
今、私とお母様は仲良く手を繋いで、お祖父様の塔に向かってセーバの町中を2人で歩いている。
馬車など使わずに、完全に徒歩だ。
町の人たちは遠目にこちらを見てくるけど、特に敵意は感じない。
アルトさんやお屋敷の人達とこの町の人達は良い人間関係を築けているようで、私やお母様に対しても皆好意的なようだった。
アルトさんにしてもお母様にしても、一応2人とも名目上は貴族なんだけど、お母様とお父様が結婚する前まではただの平民の冒険者だったからね。
遠く王都から離れて他に誰も貴族などいないこの町では、貴族らしく振る舞う必要は特にないんだって。
町の人達にしても、そもそもここに公爵邸が建てられるまでは貴族などとは全く縁の無い生活を送ってきたせいか、良くも悪くも貴族に対する偏見はないとのこと。
つまり、私達が連れ立って町を歩いていても、誰も奇妙に思ったり畏まられたりはしないということだ。
うん、平和に暮らせそうで何よりだ。
塔に着いた私たちは、一階の何もない広い空間を抜けて、階段を上がっていく。
2階の廊下には幾つかの部屋があって、そのうちの一つのドアが開けっぱなしにされていた。
中を覗くとたくさんの本や書類の山が見え、その陰に隠れて一人の初老の男性が見えた。
「お父さん」
お母様が声をかけると、読みかけの本から顔を上げた男性は、驚いた顔でこちらを見た。
「アリッサ?
どうしてお前がここにいる?」
「事前に手紙出したわよね?
私たちが来るって、お屋敷の人に言われなかった?」
そう言われて考え込む目の前の男性が、どうも私の祖父で大賢者と呼ばれている人らしい。
呆けてはいないよね?




