討伐準備
盗賊討伐にあたって、まずは情報収集。
今現在滅仙窟内に立てこもっている盗賊団の人数は、推定で30人くらい。
実際に確認できたわけではないけど、定期的に運ばされる食料の量から判断して、そのくらいの人数と思われる。
ここから1日ほど行ったところにある町の商家を襲った時の手際から考えて、盗賊団としてはそこそこの手練揃いらしい。
少なくとも、その辺のチンピラの寄せ集めって訳ではなさそうだけど…
まぁ、この不自然に都合の良い状況をただのラッキーで片付けて、何の疑問も危機感も持たない時点で、所詮は二流の田舎盗賊ということだけどね。
洞窟内の様子は不明。
洞窟の入り口には常に2〜3人の見張りが交代でいるらしいけど、その奥の様子は全く分からない。
洞窟内のどこに敵が集まっているのか、人質の鉱夫たちがどうしているのか、一切不明とのこと。
つまり、最悪の場合、人質の鉱夫たちは既に洞窟内で殺されてしまっている可能性も…
「いえ、それは大丈夫かと…
盗賊団に食料を渡す際、奴等は毎回鉱夫たちの中から一人を入り口まで連れて来て、私達に人質の安全を確認させています」
人質の鉱夫たちが本当に無事とは限らないという村人の主張に対して、盗賊団が取った方法がそれらしい。
人質全員ではない。
毎回ランダムに一人ずつ。
勿論、ただ人質の安否を確認させるだけで、人質を解放したりはしない。
それでも、連れて来られた人質の鉱夫の口から直接人質全員の無事を知らされれば、こちらとしても黙って盗賊の要求に従うしかない。
当たり前だけど、中の様子を連れて来られた鉱夫から聞き出すことはできない。
食料の受け渡しの時には複数の盗賊たちが見張っているから、余計なことは喋れないし…
「でも、連れて来られた鉱夫の口から、確かに人質は全員無事だと聞かされているのですよね?」
「はい、それは間違いないと」
それって、つまり、人質は全員一か所に集められているってことか…
人質が分散した状態で監禁されているとなると、捜索も保護も非常に厄介になる。
でも、一か所に集められているなら、その点はだいぶ楽になるよね。
村長さんから見せられた滅仙窟内の地図は、結構複雑だったから…
それはもうちょっとした迷宮で、知らずに飛び込んだら絶対に道に迷う。
そんな場所で、複数の人質をバラけて監禁なんてされたら、少人数での奪還作戦なんて不可能に近い。
「ちなみに、この洞窟の地図って、鉱夫の人たちも持っていますか?」
「いえ、滅仙窟の地図はここにある一枚と、あとは宮中に保管されている物のみのはずです。
現場の鉱夫たちは所持はおろか、この地図を実際に見たことさえございません。
本来なら、こうしておいそれと部外者にお見せできるものでもないのですよ」
滅仙窟の詳細な地図って超機密扱いで、この者たちに最大限の便宜を図れっていう皇太子殿下の指示がなければ、決して私達に見せられる資料ではないんだって…
「この地図を見てお分かりのように、滅仙窟は元々天然の迷路です。
普段私達が作業をするのもそのうちの決まった場所だけで、それ以外の場所に無闇に足を踏み入れたりはしません。
恐らく、鉱夫たちにしても、入り口から自分達が作業する坑道までの決められた道順以外は殆ど知らないはずです」
確かに…
滅仙窟の構造は定番RPGのダンジョン風のもので、大小様々な空洞が狭い通路で複雑に繋がっている。
殺生石の採掘作業を進めている坑道と、鉱夫たちの休憩や事務仕事等に使っている何ヵ所かの空洞。洞窟の入り口からそれらを結ぶ動線…
滅仙窟自体はかなり広そうだけど、実際に使われている活動範囲はかなり狭そうだね。
長年作業をしている鉱夫たちでもこんななら…
たかだか一月程度住み着いただけの盗賊たちに、洞窟の全貌など把握できているはずもない。
なんたって、魔法による探査が一切できない場所だからね。
ず〜と住み着くつもりならともかく、ほとぼりが冷めるまでの一時隠れ棲むだけの場所を、危険を冒してまで探索するとも思えない。
盗賊たちが実際に利用している範囲も、鉱夫たちのものとそう変わらないはず…
それなら、敵の居場所は把握しやすいね。
あとは…
「村長さん、この村に今ある殺生石を確認させてもらえますか? あと、殺生石の性質について詳しい方のお話も伺いたいのですが」
それから私達は、実際に殺生石に触れたり殺生石の研究者の話を聞いたりしながら、殺生石が私達に与える影響について確認をしていった。
「直接魔力が触れなければ、問題は無いのですね」
「はい。ただ、魔力を打ち消す殺生石の効果は魔力を伝って広がりますから、魔力の塊の一部にでも殺生石が触れれば、その魔力全てが消失することになります。
もっとも殺生石の効果の伝播の仕方は魔力濃度に依存するようで、純粋な魔力の塊である魔法などは瞬時に打ち消しますが、生き物の血肉に溶け込んでいる魔力などが即打ち消されるようなことはありません」
それはそうだ。
もし殺生石に触れた生き物の魔力が瞬時に消されるなら、大なり小なり魔力を持つこの世界の生き物は、みな殺生石に触れた瞬間に魔力欠乏で死んでしまう。
流石に、そんな危ない刀は持ちたくない。
肉体を持つ普通の生き物の場合だと、ずっと触れているとじわりじわりと魔力が抜けていく程度で、長時間触り続けない限りは然程問題はないらしい。
「しかし、それも個人差がありまして… 魔力が多くない一般人であれば少し体がだるい程度で然程問題無いのですが、魔力の高い兵士等の場合にはあからさまにその影響が表れます」
これは体内の魔力濃度の問題で、魔力の高い人の場合には殺生石の効果が伝わりやすいから、被害も甚大ってことだね。
実際、殺生石に直接触れたレオ君はうめき声を上げて一気に疲れた表情を見せ、サラ様に至ってはその場でへたりこんでしまった。
この調子では、今回の滅仙窟奪還作戦に2人の参加は難しそうだ。
ちなみに、レジーナは直接触れてもちょっとだるさを感じる程度で…
私?
まったく! 全然! なにも! 感じませんでした。
ただの石ころと大差なし。
体内の魔力濃度が低すぎて、殺生石の効果が全然伝わらないらしい。
殺生石の効果は魔力を通して伝わるから、例えば魔力が抜けきった布を一枚間に挟むだけでも、殺生石の効果を遮断することはできるんだって。
だったら、手袋とかして洞窟内の壁に直接触れないように気をつければ、サラ様やレオ君も参加可能?
そんな風にも考えたんだけど、どうもこれは駄目らしい。
多くの殺生石で満たされた洞窟内には、魔力を打ち消す成分?みたいなのが空気中に蓄積されているみたいで、どうも空気感染ありの状態らしい。
盗賊たちのような魔力的な意味での一般人ならともかく、レオ君やサラ様のように魔力の高い人には確実に影響が出るそうだ。
やはりこの作戦、私とレジーナの2人だけでなんとかするしかないみたいだね。
さて、どうしたものか…
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