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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第5章 アメリア、世界を巡る

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滅仙窟の村

 キョウの都を発ってから3日後。

 私達は予定通り滅仙窟近くにある小さな村に到着した。

 キール山脈の麓にある名もない小さな集落。

 商店と酒場と食堂を兼ねたような小さな店が一軒あるだけで、村には宿屋すらない。

 主要な街道からも外れているから、そんな場所をあえて訪れるような酔狂な旅人もいない。

 寂れた田舎の村落。

 でも、実はここ、倭国皇家直轄の殺生石採掘のベースキャンプだったりする。

 つまり、村民全員が倭国政府の関係者。


「こんな村に冒険者が何の用だ!?」


「ケッ! この村には余所者に喰わせるような飯はねえんだ! さっさと出ていけ!」


 最初にこの村に足を踏み入れた時の村人の対応が、まぁ大体こんな感じで…

 典型的な余所者に冷たい閉鎖的な田舎の寒村。

 当然、偶々立ち寄ることになった旅人なんかがいても、こんな村に長居は無用と早々に立ち去ってしまうわけで…


「すみません、()()()来ました。村長にお会いしたいのですが…」


 そう言って、私がタケミさんから預かってきた倭国皇家の紋の入った書状を見せると、


「大変失礼致しました。どうぞこちらへ」


 さっと姿勢を正し、(うやうや)しい態度で私達を案内してくれる村人に、先程までのやさぐれた雰囲気は見られない。

 見事な役者っぷりだ。

 そうして案内された一軒のボロ屋、、失礼、村長宅。

 もっともそれも外観だけで…

 案内された屋敷の地下にある客間は、外観からは想像もつかない豪華な造りだった。


「この村の事情はタケミ様から聞いていましたけど…

 知っていてもこの違いには驚かされますね…」


 まさに秘密の隠れ家って感じで、ちょっとわくわくするものがある。


「まぁ、そうでしょうなぁ…

 都と違ってここには何もありませんから、こうして地下の隠し部屋を飾って無聊(ぶりょう)を慰めるくらいしかできることもありませんから」


 ある意味エリート公務員になるんだろうけど、ここでできる贅沢なんてたかが知れている。

 任期を終えて都に戻れば出世コースらしいけど、国の機密が漏れないよう身を潜めての生活はなかなかに大変らしい。

 村長さん、だいぶ疲れている?

 あまり気を遣わせても悪いし、さっさと本題に入ろう。


「それで、その書状にもあるかと思いますが、まずは殺生石の採掘現場を見せていただきたいのですが…

 その上で、もし可能であれば、今よりも効率の良い殺生石の採掘方法をご提案させていただきたいと考えています」


 そう、今回の目的がこれ。

 殺生石の採掘方法の提案。

 どうやら、タケミさんが私にやってもらいたいのがこれみたい。

 私達が自分の御神刀を作ってもらうために、一体どれくらいの殺生石を採掘してくればいいのか?

 勿論、詳しい話を聞いてきた。

 大体、一人あたり100kg以上…

 100kgの殺生石から取り出せる素材がおよそ1割程度。

 その中で、本当に御神刀の材料に適した玉鋼(たまはがね)になるのがそのうちの1割…

 つまり、採掘した殺生石のうち、実際に使えるのは全体の1%くらいってこと。

 これを4人分…

 普通の日本刀で重量は1kgくらいだけど…

 サラ様は双剣だし、レオ君の剣は普通の日本刀よりも絶対に重い。

 ざっと考えて、4人分で最低でも500kgくらいの殺生石は必要なわけで、これを魔法無し、4人中3人が婦女子の素人集団で採掘などできるわけがない!

 なら、どうするか?

 そんなの、いつも通り。

 知恵を絞って考えろってことだよね。

 そのためにも、まずは現場を確認してみないことには始まらない、、んだけど…


「………、実は問題が… 

 一月(ひとつき)ほど前からならず者共が鉱夫たちを人質に滅仙窟に立てこもっておりまして…

 その、ほとほと困っている次第で…」


 それはほんの偶然だったらしい。

 近隣の町を襲った盗賊が、偶々こちらの方に逃げ延びて来て、滅仙窟に立てこもったという。

 滅仙窟というのは何かと(いわ)く付きの場所で、実際洞窟内では満足に魔法を使うこともできない…

 そんな場所に()えて近づこうとする者はいない。

 だが、それを逆に好都合と考える者たちがいた。

 そう、逃亡中の盗賊団だ。

 人が来ないのなら隠れるのに丁度いいし、魔法が使えないのなら逆に討伐隊の連中を追い払うのにも都合がいいと考えたらしい。

 討伐隊は戦闘のエリートだ。

 故に、彼らは全員高魔力保持者で、その戦闘スタイルは魔法に依存している。

 腕っぷしの強い荒くれ者が警備の役人に勝てないのは、魔法による力の差が大きいのだ。

 逆に言えば、魔法の使えない滅仙窟の中なら、その辺の荒くれ者も警備の役人も、それほどの違いはないということになる。

 むしろ、普段から魔法に頼らない戦闘に慣れている分、ごろつき集団の盗賊団の方が魔法頼みの討伐隊より余程()がいいと言える。

 そんな思惑もあって滅仙窟に逃げ込んだ盗賊団にとって嬉しい誤算だったのは、そこが公にはできない国の重要施設であったこと。

 事情を知らない町の役人に注目されるわけにはいかない。

 そのため、討伐隊を出した町には適当な理由をつけて手を引いてもらい、盗賊団への対処は滅仙窟近くの村と宮中で行うことになった。

 と、そこにきて今年の鵺被害の頻発で、宮中が人員を割けない状況に…

 村には元々人員も少なく、しかも今村にいる兵士も魔力的な意味で無駄に優秀で、魔法の使えない滅仙窟内での戦闘は想定していなかったと…

 採掘作業をしていた鉱夫たちを人質に洞窟内に立てこもる盗賊団に対して、村の兵士だけでは対応できず…

 かといって近隣の町に応援も出せず…

 鵺襲来の頻度が減るまでは都の部隊も動かせない。

 詰んだ…

 経験と人力による魔法に頼らない採掘というのは、この世界的では十分な特殊技能だったりする。

 そんな貴重な技術者である鉱夫たちを、そのまま見殺しにもできない。

 理由は分からないが、とにかくあの村の奴等はこの人質(鉱夫たち)を見殺しにはできないし、役人に通報したりもしないと雰囲気から察した盗賊たちは、村人に酒や食料を運ばせて籠城を決め込んだらしい。

 おバカな彼ら(盗賊団)は、自分達が何に手を出してしまっているのか、全く分かっていない。

 事は国家機密に関する問題だ。

 具体的に何かは分からなくても、ここに何か重要な秘密が隠されていると気が付いてしまった時点で、彼ら(盗賊団)の抹殺は決定事項。

 裁判?、強制労働?、奴隷落ち?

 いやいやいや、もう人知れず闇に葬り去られるのは確定ですよ。

 あなた達(盗賊団)が偉そうに要求を突き付けている村人たちだって、全員が国家公務員ですからね。

 ともあれ、現状では事態が膠着状態にあるのも確かなことで…

 人質になっている鉱夫の命も心配だし、殺生石の採掘も滞ってしまっている。

 このままでは、マイ御神刀が手に入らない!

 つまりは、盗賊団の始末も含めての素材採取ってことだよね。


「了解しました。盗賊団討伐の件も、私たちにお任せ下さい」


 疲れた様子の村長さんに向けて、私は笑顔で盗賊退治を請け負うのだった。


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