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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第5章 アメリア、世界を巡る

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鵺警報

「お点前頂戴いたします」


 磁器に可愛い絵柄の京焼風の茶碗。

 作法通りにお茶碗を回して正面を避けると、私はゆっくりと茶碗の縁に口をつける。

 甘さの中に少しだけ苦さを含む熱が胃の中に流れ込み、私の心を落ち着かせてくれる。


「ここにいるのは私とタキリだけですから、どうかお気楽に」


 そう言いながら私たちにお茶を()ててくれているのは、昨日危ないところを助けてくれた羽織袴(はおりはかま)のお兄さん。

 名はタケミさんとおっしゃるそうで…

 なんと、タキリさんのお兄様だそうです。

 つまり、倭国の皇太子様…

 えっ? なんでそんな偉い人が(ぬえ)退治なんかしてるの?


『いや、確かに私は皇太子ですけど、キョウの都の一番隊隊長も兼任してますから…

 特に昨晩はアメリア様がキョウに到着するって知らせも受けてましたので、部隊を総動員して(ぬえ)退治にあたっていた次第です』


 あの後、私たちを助けてくれたタケミさんの部隊に保護されて、連れて来られたのは予想通りというか、宮中…

 部隊の詰め所とかだったら良かったんだけどね…

 まぁ、今回は仕方がない。

 レオ君の治療も早急にしたかったし、そうでなくてもあの時タケミさんが来てくれなければヤバかったし…


『アメリアちゃん、良かったぁ〜!』


 あの後、宮中でタキリさんとも合流できたんだけど…

 ちょっと泣かれた。

 どうも、本気で心配をかけてしまったらしい。

 なんでも私たちの乗る列車が前の駅を発ってからすぐに、鵺がキョウの都に現れたという知らせが入ったらしく…


『急いで連絡したんだけど間に合わなくて…

 列車の他の乗客と一緒にキョウの駅で保護しようと思って、私も討伐隊に同行したんだけど…

 まさか事情を説明する前に、駅舎を通らずに市街地に逃亡されちゃうとは思わなかったわ』


 はい、すみません。

 話も聞かずに勝手に逃亡しました。

 ご迷惑をおかけしました。


 結局、全てが終わった後に改めてタキリさんから説明されたところによると、実は今回みたいな事は結構頻繁に起こるらしい。

 つまり、キョウの都に鵺が入り込むみたいな事件。

 少ない時で数年に1回、多いと年に数回程度は都に鵺が入り込むのだとか。

 仮にも一国の首都で、それは問題では?って思うんだけど…

 このキョウの都の東にあるというアズマ山。

 この山は鵺の棲息地だそうで、この地に都を造った目的の一つが、山から出た鵺を封じるためなんだって。

 実際、アズマ山から出た鵺がキョウの都以外で確認された記録は無いそうで、そう考えると確かにキョウの都が鵺の防波堤になっていると言えるかも。

 鵺は人を襲っても建物の中に入り込むことはないそうで、鵺警報が出るとキョウの都の人たちは屋内に引き籠もり、じっと鵺が討伐されるのを待つのだとか…

 どうもキョウの都の人たちにとっては、鵺が街に入り込むのは台風とかの天災みたいな扱いらしい。

 鵺の姿が確認されると、キョウの都全体に速やかに鵺警報が発せられ、全ての建物は閉ざされる。

 全ての人が屋内に避難して、街には討伐隊以外の人影はなくなるそうだ。

 道理で誰にも会わなかったわけだね…

 当然、私たちと同じ列車でキョウの都に到着した乗客たちも、駅で事情を説明されて、駅舎内に避難していたんだって。

 そんな中で、やって来た乗客の中でもVIPの私たちの姿が見えないと、鵺討伐の現場は騒然としていたとか…

 本当に、重ね重ねご迷惑をおかけしました!

 知らずに紛争地帯に旅行に行って、現地で保護された外国人旅行者の気分だね…

 今はだいぶ落ち着いたけど、正直昨晩は結構落ち込んだ…

 起こる可能性のある旅の危険に対しての情報収集を怠ったこと。

 初めての土地にも関わらず、気を抜き過ぎていたこと。

 命のやり取りを伴う魔物討伐に対して、負けるはずはないと完全に油断していたこと。

 実際、あの時タケミさんが間に合わなければ、少なくともサラ様の命はなかったんじゃないかと…

 そんなだから、私以上にサラ様の落ち込みようが酷い。

 自分をかばったことでレオ君が死にかけ、あまつさえ冷静さを欠いた安易な魔法選択で敵をパワーアップさせてしまった…

 その上他国の皇族に命を救われるという外交面での大きな借りまで作ってしまうなんて…

 そんな感じで、サラ様もすっかり落ち込んで…

 いや、自分の不甲斐なさに怒り心頭って感じかな。



「その、本当にお気になさらず…

 外国の方が事情を知らないのは当然ですし、討伐隊の隊長の任に就く私が他国からの客人を守るのは当たり前なので…

 えぇと、サラ王女殿下が責任を感じるようなことはなにも…

 あっ、もう一服いかがですか? えと、こちらの菓子もおいしいですよ」


 ここは宮中の庭園に建てられたお茶室で、亭主としてお茶を点ててくれているのが倭国皇太子でもあるタケミさん。半東、つまり亭主のお手伝いをしてくれているのがタキリさん。

 お客側が私、サラ様、レジーナの3人。

 レオ君はまだ本調子ではないみたいで、今は別室で休ませてもらっている。

 で、今は気兼ねなくおくつろぎ下さいの薄茶席。

 たとえ非公式とはいえ、こうして宮中に招かれてしまえば待遇は国賓扱いなわけで、ただ部屋に居ても女官さんやら下女さんやら色々ついていて、正直全然休まらない。

 中には私たちの話を聞きつけて、なんとかこの機会に縁を結ぼうとご機嫌伺いにやって来る人もいたりするし…

 これが元気な時ならねぇ…

 せっかくの機会だし、割り切ってコネクション作りでもするかって気にもなるんだけど…

 ちょっと、今は無理!

 特に今のサラ様にはそんな余裕、全然ないしね。

 そんなこともあって、タキリさんとタケミさんが気を遣ってくれて、このお茶席を用意してくれたってわけ。

 お茶席は暗黙の了解で人払いがされるし、勝手にお客さんが訪ねて来ることもない。

 タキリさんとは私もサラ様も長い付き合いだし、タケミさんもタキリさんから色々と話を聞いているみたいで、会った当初から気さくに接してくれている。

 タケミさんの身分は一応皇太子だけど、流石はタキリさんのお兄さんというべきか、あまり堅苦しいのは好きではないみたいで…

 キョウの治安を守る治安部隊の一番隊隊長として、他の隊員と一緒に市中にいることの方が多いんだって。

 なかなかに気遣いのできる人で、私たちがゆっくり落ち着けるよう昨晩から色々と配慮してくれているのが分かる。

 今も鵺騒動の後始末で何かと忙しいだろうに、こうして私たちのために時間を割いてくれているし…


「あっ、そうだ。

 もしご興味がおありでしたら、この後鍛冶工房の見学など如何でしょう?

 (ちち)の許可は取ってありますので、サラ様やレジーナさんも勿論大丈夫ですよ。

 昨日お見せした御神刀を作っている工房なのですが、ちょっと珍しい製法なので楽しめると思います。

 …あぁ、でも、ヒノモトで学ばれたアメリア様には今更なのかなぁ…」


「ッ!? 是非! 是非見せて下さい!」


 タケミさんの提案に即答したのは私、ではなくサラ様の方。

 “御神刀”というのは、昨日の鵺討伐でタケミさんが使っていた刀のことで、なんでも雷化した鵺を切ることのできる刀なのだとか…

 昨日の鵺との戦闘で思わぬ不覚を取ったサラ様は、密かにリベンジに燃えていたみたいで…

 鵺攻略の鍵となる“御神刀”について学べるならと、タケミさんのお誘いに食いついていた。

 

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