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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第5章 アメリア、世界を巡る

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雷獣鵺

「「「「ッ!?」」」」


 気づいたのはほぼ同時。

 背後からの殺気と膨れ上がる魔力に、私たち4人は咄嗟に裏路地から表通りに飛び出していた。


「……………」


 ほんの少し前まで私たちがいた場所の地面は深く抉られている。

 そして、暗闇からゆっくりとその姿を見せる大きな影。

 体長は2メートルほどか…

 ライオンかトラみたいな見た目猫科の獣。

 その魔獣は、逃げられた獲物(私たち)に苛立っているように見える。

 いや、危なかったぁ〜

 完全に油断してた。

 大通りの離れた場所にいる追手の兵士さん達の方に注意が向いていたのもあるけど…

 それ以前に、まさかこんな街中で魔獣に襲われるなんて全く考えていなかったよ。

 多くの人が住む街を巨大な群れが住む縄張りと認識しているらしい魔物は、ふつうこんな大都市には絶対近づかない。

 まぁ、魔力の高い強い魔物ほどその辺の危機意識は薄くなるから、目の前の魔物(こいつ)にとっては、「あっ、間違えて入り込んじゃった」くらいの感覚なのかもしれないけど…

 こちらに気づいたらしい遠くの兵士さん達が、騒ぎ出しているのが見える。

 これは、完全に見つかってしまった…

 このネコもどきのせいで!

 一見ネコっぽいけど、全然かわいくない!

 顔とかサルっぽいし、体型もなんかもっさりしてる。

 あっ、でも足はトラっぽいか…

 初めて見る魔物だけど、倭国固有のやつかなぁ…

 まぁ、体長2メートル程度の猫型の魔獣なんて珍しくもない。

 猫型の魔獣は俊敏で気配を殺すのが上手いところが厄介だけど…

 さっきみたいな不意打ちならともかく、こんな開けた大通りなら対処は難しくない。

 特に相手がこちらを狙ってきてくれているのなら対処は簡単だ。

 襲ってきたところをカウンターで仕留めればいい。

 さっさと仕留めて、さっさと逃げる!

 まだ兵士さん達からこちらの顔ははっきりとは見えないはずだし、今ならまだ誤魔化せるはず!

 油断なく魔獣の動きを見据えつつ、そんなことを考えていると…


 魔獣が動いた!


 狙いは私から少し離れた位置で、私と同じようにカウンター狙いで双剣を構えているサラ様。

 風の単一属性で大気の変化に敏感なサラ様は、私よりも敵の気配を読むのが上手い。

 ()(せん)はサラ様の必勝パターンだ。

 魔獣特有の跳躍力で一気に距離を詰める魔獣と、それを見据えるサラ様…


「ッ!」


 と、突然思わぬ方向からの衝撃を受けて、サラ様が横に弾き飛ばされた!?


(なッ、レオ君!?)


 さっきまでサラ様が立っていた場所に剣を構えて立つレオ君は…


「破ァ!」


 気合一閃。

 逆袈裟(ぎゃくけさ)に魔獣を切り裂いた、、ように見えた。

 剣の軌道に沿って(ほど)けるように霧散していく魔獣の肉体(からだ)

 いや、そうじゃない。

 確かに肉体は消えたけど、魔力は失われていない。

 今も無数の蒼い光の線で形作られている姿は、先程の魔獣と同じ。


 あれは、雷獣…?

 前世でやったゲームで、ああいうのいたねぇ…

 雷でできた獣型の敵で、雷攻撃が得意で物理攻撃が効かなくて…

 

 そんなとりとめのない思考の中で、ゆっくりとレオ君がその場に(くずお)れていくのが見える…


(……えっ?)



「……………ぃやあああああ!!!」


 叫んだのはサラ様で…

 一体なにが起きたのか混乱する私を余所に、咄嗟に飛び出したレジーナが、すかさずレオ君を抱きかかえて魔獣からの距離を取る。


「大丈夫です! 落ち着いて対処を!」


 レジーナの一喝に私の思考が戻る。

 そうだ、パニックってる場合じゃない!

 まずは目の前の魔獣をなんとかしないと…

 私と同じく、レジーナのお陰で冷静さを取り戻したサラ様も、今は黙って目の前の魔獣を(にら)みつけ…

 先程まで蒼い光のようになっていた魔獣は、今は既に元の姿に戻っている。

 もしかして、こいつが(ぬえ)

 倭国にのみ棲息するというAランクの魔物。

 雷を司る魔獣で、雷撃を飛ばす攻撃以外にも、どういう仕組みか自分の肉体を雷に変えることもできるという。

 肉体を雷に変えることで、一瞬でその場を移動したり触れた者を感電させたりもできるとか…

 恐らく、さっきのは肉体を雷に変えて透過させることでレオ君の剣をかわし、同時に剣を通してレオ君を感電させたのだと思う。

 (ぬえ)は剣では切れない…

 レオ君は、多分こいつが(ぬえ)だって知っていたんじゃないかなぁ…?

 この魔獣の正体が(ぬえ)だって気がついて、剣によるカウンターは効果が無いと判断して…

 接近する(ぬえ)に対して剣による迎撃態勢を取っていたサラ様を咄嗟に突き飛ばした。

 あの状況で、頭では無駄だって分かっていても、剣による迎撃以外に取れる攻撃手段は無い。

 (ぬえ)に接近された瞬間、恐らく無意識に剣を抜いていたんだろうけど…

 今もレジーナの側で身動きできずに横たわっているレオ君をチラッと見る。

 きっと、こうなることは分かっていたんだろうね。

 レオ君は私の護衛で、サラ様は王女様とはいえ旅の同行者に過ぎない。

 レオ君にとっての優先順位は私なんだけど…

 もうそんな理屈じゃなくて、サラ様は私にとってもレオ君にとっても同じ旅の仲間で…

 サラ様はレオ君にライバル心を持っているから突っかかることも多いけど、レオ君がサラ様のことを妹みたいに思って気にかけているのは知っている。

 可愛い妹分の危機に、気がついたら体が動いちゃってたとか、どうせそんなところだろう。


「レジーナ、レオ君は平気?」


「はい、身体は痺れて動かないようですが、意識ははっきりしているようです」


「了解。レジーナはそのままレオ君の保護を最優先に。こちらは…」


「許さない…」


 なんとか対応策を考えてみる、と言いかけたところで、低く静かな声が割って入る。

 辺りの気温が下がったような…

 いや、実際に下がっている!?


『Измените воздух, как вы себе представляете』


「だ、だめ!」


 瞬間、ヌエのいる周囲の空気が一気に氷点下まで下がる。

 世界が銀色に変わる。

 ヌエを中心に広範囲に渡って効果をもたらした広域凍結魔法(コキュートス)は回避不可能。

 たとえ俊足を誇る魔獣であっても、簡単に逃げ切れるものではない。

 もし相手が雷を司る魔物でなかったなら、この一瞬で勝負はついていたと思う。

 例えば、これが炎を司るイフリートや水を司るカリブディスだったら、同じ物理攻撃の効かない魔物であっても有効打を与えることができたはず。

 でも、今回は相手が悪い。

 雷を司るこの魔物に対して、大気圧を下げることによって極寒地帯を作り出す広域凍結魔法(コキュートス)は悪手だ。


 バリッ、バリッ、バリバリッ、バリバリバリ!!!


 サラ様の魔法によって凍りついたかに見えた(ぬえ)は、巨大な蒼い光の獣にその姿を変えた。

 見た目は先程雷化した時と変わらない。

 でも、大きさが違う。

 元々2メートルほどだった魔物は、今はゆうに3メートルは越えている。

 明らかに巨大化している。

 所詮義務教育レベルの理科知識しかない私だから、あまり詳しいことは分からないけど…

 確か、放電現象って気圧が低い薄い空気ほど起きやすかったはず…

 クルックス管の実験とか…

 サラ様に教えた“広域凍結魔法(コキュートス)”は、純粋に魔法で温度を下げたり水を氷に変えたりするものではない。

 サラ様がやっているのは、温度変化ではなく気圧変化。

 周囲の空気を操って気圧を下げることで、結果として極寒地帯を作り出す魔法だ。

 直接対象に働きかけて、その温度を下げているわけではない。

 雷の化身、つまり放電現象に対して、その周囲の気圧を下げてしまうのは、より放電現象を促す結果にしかならない。

 不味い!

 予想外の結果に対して、サラ様が固まってしまっている。

 最近は魔物討伐でも苦戦するようなことは殆どなかったし、今回は街中での突然の魔物との遭遇で心の準備ができていなかったのもある。

 突然の戦闘、未知の魔物、レオ君の負傷…

 私もだけど、サラ様にもいつもの余裕が無い。

 このままでは不味い!


『Умножьте тепло(ファイアボール) и магию !』


 (ぬえ)が私の方にその向きを変える。

 とりあえず火球を作り出し、それをぶつけて相手の注意をこちらに逸らしたけど…

 ここから、どうしよう…??


 (ザン)!!!


 未知の魔物に対してどう対応するべきかと戸惑っていたところに、横合いから人影が飛び込み、振り下ろした(やいば)は一刀のもとに巨大な魔物(ぬえ)を切り伏せた。


「お怪我はございませんか?」


 雷化が解け地に横たわる魔獣(ぬえ)(とど)めを刺すと、羽織袴の武士風の格好をした20代くらいのお兄さんは、そう言ってこちらを振り向いた。


 

 



 

 

 

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