キョウの都の包囲網
ついにやって来ました倭国の都キョウ!
大陸横断鉄道の終着駅!
大陸の西の果セーバの街から大陸の東の果に位置するここキョウまで、およそ一月ほどで大陸を走り抜ける大陸横断鉄道…
結局、2年以上かかっちゃったねぇ…
途中ジャオジンの街のゴム素材開発を始めとして、色々なことをしてきたからねぇ…
成り行きで魔物退治、盗賊退治をしたり、幾つかの遺跡に潜ったりもした。
ポールブの宿屋の女将クーフェさんに頼まれてラージタニーでの2号店出店に協力したり、同じくポールブの魔道具店の店主と正式に商品開発の事業提携をしたり…
前回ポールブに来た時には偽名を使っていたから、私がセーバの街の領主だって話した時には凄くびっくりしてたけど。
そんな感じで前回の旅で知り合った人たちと旧交を温めたりなんかもしていれば、時間はいくらあっても足りない訳で…
ちなみに、連邦議長様には会っていません。
いや、だって、この旅はあくまでもプライベートだから…
興味や遊びが結果としてビジネスに結びつくことはあるけど、それは純粋に私がしたいからしているだけ。
義務とか仕事とかではないのです!
「この旅は色々ありましたけど、鉄道視察もなんとか終わりましたね」
「……えぇ、そうね」
いや、仕事だったね、この旅。
ともあれ、無事辿り着いたキョウの都。
車窓から見える街並みも和風な感じで懐かしさすら感じる。
これも、イィ様の影響なんだろうね。
列車は減速し、ゆっくりと駅のホームへと滑り込んでいく。
まずはタキリさんと合流して、その後はどうするか…
そんなことを考えつつ、外の様子を眺めると…
「げっ!?」
思わず令嬢らしからぬ声が… 失礼。
見ればプラットホームと駅舎建物を繋ぐ連絡通路のところに、ずらっと並ぶ兵士さんたち。
そして、その先頭に立って列車の到着を見守っているのは… タキリさん。
私、言ったよね!
お忍びだから! プライベートだから!
大袈裟にするなって言ったよね!
今はタキリさんも倭国内の鉄道建設のためにキョウに戻っていると聞いて、ならキョウで会いたいねって話は通信でしていたのだ。
だから、この列車で今日到着することはタキリさんにも連絡済で…
でも、話を聞く私の倭国内での扱いって何か凄そうだから、タキリさんには絶対大袈裟にはしないでねって念を押していたのに…
タキリさんも、じゃあこっそり迎えに行くわねって言ってくれてたのに…
それが、なんでこうなった!?
「逃げましょう」
「はい」
「そうだな」
「賛成です」
このまま大勢を連れての大名行列アンド歓迎式典みたな流れを一瞬で予想したレジーナ、レオ君、サラ様も、素早く手荷物をまとめて席を立つ。
幸いなことに、この世界で私が広めた駅の構造は駅舎建物とプラットホームを分けたもので、切符の改札は列車内で行われる。
つまり、列車を降りても、決められた改札口や駅舎内を通る必要はない。
私たちは兵が並ぶホームと駅舎の間の連絡通路を避け、駅舎内には入らずに駅舎建物を外から回り込むようにしてキョウの街並みに紛れ込んだ。
せっかく迎えに来てもらって悪いけど、これは仕方がないよね。
タキリさんには後で謝っておこう。
とりあえず、まずは宿探しかなぁ…
既に日は沈んでいて、辺りはすっかり暗くなっている。
流石は倭国の都だけあって、街には街灯や提灯の明かりが灯っていて暗くはない。
それでも時間が時間だから、さっさと今夜の宿を見つけないと不味いかも…
いつもだったら、こういう遅い時間に初めての街に到着した時には、駅舎内にあるアメリア商会系列の宿屋を利用していたのだけれど…
今はちょっと駅舎内には近づけないよね…
勿論、駅舎内の商業ギルドでお薦めの宿を紹介してもらうのも無理だし…
ここは自力で探すしかないと割り切り、周囲を見渡してみる。
近くに手頃な宿屋がなくとも、誰か適当な人を捕まえて宿屋街の場所を聞ければなんとかなる。
そう思ってしばらく歩いてみるも、通りには人っ子一人見当たらない。
それなりに広い通りに見えるのに、開いている商店も見当たらない。
街自体は明るかったから、夜でもそれなりに活気のある街かと思ったけど、どうもそうではないらしい。
前世と違ってこの世界では、基本日が沈んだら休む生活を送っている人や地域も多いから、ここもそうなのかもしれない。
まさか、倭国の都でこの規模の街がそうだとは思わなかったけど、これは宿探しはかなり難航するかも…
偶に歩いているのを見かけるのは武装した兵士のみ…
どうやら駅から消えた私たちを探している模様。
流石に彼らに道を聞く訳にもいかないし、さてどうしたものか…
「それにしても、彼らはどうしてあれほど大人数で固まって捜索しているのでしょう?」
「確かに… 俺たちを探すだけならもっと人手を分けて探させた方が効率的だよな」
「まさかとは思いますけど… もし私たちが抵抗したら無理やりにでも確保するつもりでしょうか…?」
「さすがにそれは…」
ないよねぇ…?
でも、それならあの人数単位での捜索隊にも納得できる。
今までに見かけた捜索隊とおぼしき兵士たちは、みな10人以上でまとまって行動していた。
中には盾や網のようなものを持っている兵もいたし…
これは本気で捕らえにきている?
タキリさんは私たちの実力もよく知っているし…
それならあの人数単位での捜索も納得だ。
連邦ならともかく、倭国で何かやらかした覚えはないんだけど…
もしかして、国王陛下から捕縛要請が届いているとか?
それは、あり得るかも…
流石に精々季節一つ分くらいで済むはずの鉄道視察に、2年もかけたのは長すぎるって自覚はあるし…
私たちだけでなくサラ様も連れ回しているし…
まさか、王女誘拐とかになってないよね!?
そんな風に通りの向こうを周回する兵士の一団に注意を向けていた私たちは、背後から忍び寄る魔物の気配に気付くことができないでいた。




