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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第5章 アメリア、世界を巡る

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善悪はそれを用いる者の心の中にあり

 気が付けば、ジャオジンの街にはもう数カ月は滞在している。

 今いるのは街の郊外に作られたゴム素材の生産工場兼研究施設。

 この街の領主との話し合いの結果、街の発展に繋がるのであればある程度自由にやってもらって構わないということになって…

 早速開発拠点を作ってみた。

 といっても、そんなに大袈裟なものではないんだけどね。

 “工場”、“研究施設”って言っても、ほとんどの作業や分析を魔法でやってしまうこの世界では、前世のような高額で大規模な機械類は必要ない。

 だから、私的には作業しやすい広めの倉庫か、精々前世の町工場(まちこうば)くらいのイメージなんだけど。

 ただ、そうは言ってもこの施設には、この世界基準だと驚愕の実験器具の数々が設置されていたりするわけで…


「アメリア様、これでご懸念のゴム素材の臭いはだいぶ緩和されたかと思われます。素材の弾力についてもこちらの薬液の分量で調整が可能かと。あとは…」


 今回手に入れたゴム素材を研究開発するにあたり、セーバの街からは素材方面に強い研究者たちに来てもらっている。

 で、そのうちの何人かは旧ダルーガ伯爵領の出身者だったりする。

 そう、元々はダルーガ伯爵の研究所にいた人たちだ。

 いや、その後の取り調べの結果、あのダルーガ伯爵の研究所にいた大半の研究者たちは、自分たちの作り出していた物の使用目的とか諸々については全くの無自覚であることが判明して…

 所謂(いわゆる)研究馬鹿集団。

 ダルーガ伯爵の錬金術復興の(こころざし)に共鳴して集まった者たち、って言えば聞こえはいいけど…

 要するに、錬金術の研究さえやらせてくれれば後はどうでもいいって人たちだったりする。

 それでも、自分たちの研究成果が結果として多くの悲劇を巻き起こしていたと知って、多少は反省したらしい。

 今は心を入れ替えて? セーバの街で私の研究に協力してくれている。


『ダルーガ伯爵の敵だった私に、何か思うところはないの?』


 そんな質問に対して、


『いえ、ダルーガ伯爵が罪を犯したのは事実ですし…

 それに、このような素晴らしい研究をされている方に悪人はいませんから!

 この魔道具は本当に素晴らしいです!! 問題解決を魔力量のみに頼るのではなく!、自然法則を応用することで魔法による不自然な事象改変を最小限に抑え…云々』


(お〜い、“錬金術”研究してたダルーガ伯爵は悪人だったぞ〜)


 つまりは、直接ダルーガ伯爵の犯罪に関与していないアレな人たちをうち(セーバ)が引き取った訳で…

 無駄に知識は豊富なくせに、(アメ)くれる人はいい人ってひょこひょこついていっちゃいそうな人たちを野放しにはできないよね。

 一応保護観察付執行猶予ってことになるのかなぁ?

 ダルーガ伯爵のやったことは確かに問題だけど、その研究自体が悪とは言い切れない。

 魔物を引き寄せる薬は人里から魔物を遠ざけるのにも使えるし、例の意識を曖昧にする薬だってうまく使えば精神安定剤や麻酔薬として活用できる。

 要は使い方次第だ。

 それらの研究成果を、たんに犯罪に利用されたというだけで全て破棄してしまうのはあまりに勿体ない。

 そういう善悪云々を抜きに考えても、あの大砲に使われていた火薬などは分かりやすくお金になりそうだしね。

 そんな貴重な商材を、商人の国たる連邦が安い正義感なんかで放棄するはずもなく…

 ここは何としても連邦の新たな商材、技術として活用したいと考えたらしい。

 と、ここで問題が…

 彼らの研究内容、言っていることがさっぱり理解できない!

 彼らの行っていた研究は錬金術、というか科学だ。

 様々な物質や自然現象について調べ、その性質や法則性について研究する。

 魔力に依存しないこれらの研究は、この世界では非常に画期的なものなんだけど…

 前世の知識や常識を残す私にとっては割と普通のアプローチだったりする。

 そんな転生者の私にとっては当たり前で、でもこの世界の人にとっては非常識な知識を遥か昔に持ち込んだ人物。

 それがカリオストロ伯爵。

 ダルーガ伯爵の多分先祖?にあたる人らしい。

 ダルーガ伯爵が言うには、セーバの街を発展させた私の知識も、元を辿ればカリオストロ伯爵に行き着くのだとか…

 だから私の持つ知識の正当な後継者はカリオストロ伯爵の子孫であるべきで、自分がそれを取り返そうとしたことは正当な権利だとかなんとか…

 いや、私の知識は日本の学校教育の賜物で、あなた(ダルーガ伯爵)の先祖とか関係無いから!

 …まぁ、多少は関係あるかもしれないけど。

 ダルーガ伯爵から押収したという資料を見せてもらった。

 私を拉致してまで解読したがっていたというもの。

 見たこともない言葉で書かれた記述で、ダルーガ伯爵家に継承されてきた資料の中で、その部分だけが全くの謎だったとか…

 この謎を解明することこそがダルーガ伯爵家の悲願だとか…

 って、これ、ただの日記だと思うよ。

 多分だけど…

 恐らくはこれ、ラテン語とかじゃないかなぁ…?

 スペイン語とかの私の知るヨーロッパ系言語で、何となく似たような単語を拾うことができた。

 そこから推測するに、これは研究内容云々ってものではないと思うんだよね。

 国とか街とか人とかの名前に、私の前世知識に該当するものも結構あるし…

 つまり、カリオストロ伯爵って私と同じ転生者ってことなんだと思う。

 で、時代とか“錬金術”とかいうのを踏まえると、彼の正体は時計の針に挟まれてお亡くなりになった伯爵様ではなく、医師とか詐欺師とか錬金術師とか呼ばれた方の人、、かもしれない。

 一応、中世の科学者?

 私の知る科学知識が西洋文化圏由来のものである以上、もしかしたら私の前世知識の一部はカリオストロ伯爵によるものかもしれないけどね。

 ともあれ、その彼の手記というのは私にも意味不明で、新しい知識という意味では全く役には立たなかった。

 この世界には無いアルファベットで書かれていることから、ダルーガ伯爵の先祖が転生者か転移者であることだけは間違いないと思うけど、分かったのはそのくらいで…

 でも、それ以外の資料は超有用!

 特に収穫だったのが、実はダルーガ伯爵の研究所で使われていた各種実験器具。

 例えば蒸留器一つとっても、今までセーバの街で使われていたものよりもずっと使い勝手がいいんだよね。

 セーバの街で使われていた器具って殆どが私の考案したもので、それは私のうろ覚えの前世知識によるものだったりする。

 再現できないでしょう? 双眼立体顕微鏡とか電子はかりとか…

 使用目的とか原理とか博物館なんかで見たものとか、そういった知識を総動員して、この世界の文明レベルで再現できるものを作り上げてみたけど…

 やっぱり色々と不備は出てくるわけで…

 その点ダルーガ伯爵のところで使われていた実験器具や道具は洗練されていた。

 恐らく、これらを考案したカリオストロ伯爵が前世で実際に使っていたものを、そのままこの世界で再現したんだと思う。

「そう、博物館で見たの、こんなのだった」って道具がたくさんあったからね。

 私がこの世界に持ち込んだ科学技術は、この世界の技術水準では再現不可能で、そのギャップを魔法で埋めていくことで形にしてきた。

 それに対して、カリオストロ伯爵が伝えた科学知識はそのままこの世界の技術水準で使えるもので、そのまま使うのであればむしろ私が持ち込んだものよりも優れている。

 正直、とても参考になりました。

 ただ、わたし(セーバ)的には素朴故に逆に参考になったダルーガ伯爵の科学知識も、この世界基準では大変高度な未知の知識なわけで…

 その道の研究者でもない只の商人には全く理解できない。

 その知識を利用したいのはやまやまだが、何をしているのかも分からない研究をそのまま好き勝手にさせておく訳にもいかない。

 前科あるしね…

 で、結局連邦議長様は、全てを私に押し付けることにしたらしい。

 ダルーガ伯爵の研究成果と研究員をセーバの街に提供する代わりに、それらを適切に管理してもらい、そこから生まれる利益は連邦とセーバの街で折半する。

 そんな感じに話がまとまった。


「…弾力の偏りも殆どなくなりましたが、薄くするとかなり強度が落ちます。そうなると…」


 一旦セーバの街で引き取って、色々な意味での再教育を行った元ダルーガ伯爵の研究員の皆さんも、今ではすっかりセーバの街の一員となっている。

 今回のゴム素材開発研究では、薬品関係に強い彼らの知識は非常に役立っているしね。

 ゴム素材実用化の目処もついてきたし、安全なゴム採取の体制も作った。

 現地の従業員教育も順調だ。


(もう、任せても平気そう…?)


 セーバの街から出向中の研究者のみんなの話を聞きながら、そろそろここ(ゴム工場)彼ら(研究員)も大丈夫そうかと、旅の続きに思いを馳せるのだった。


気がつけば、もうすぐ連載開始から早2年。

おかしい… 予定では1年で完結する予定だったのに…

ともあれ、ここまでお付き合いいただき大感謝です。

今年もありがとうございました。

年末年始は更新をお休みさせていただき、次回更新は1月6日木曜日を予定しています。

皆様、良いお年をお迎え下さい。

m(_ _)m


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