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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第5章 アメリア、世界を巡る

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長い物には巻かれろ

 ゴム素材の採集から数日。

 私達はまだジャオジンの街に滞在している。

 そして今いるのは、この街を治める領主の館。

 目の前には、この街の領主本人が座っている。


魔物(ゴム)素材の採集を魔力の少ない平民に、ですか…」


 この街の特産品(予定)のゴム素材を定期購入するにあたり、私は魔物素材を扱う冒険者ギルドではなく、直接この街の領主に話を通すことにした。

 一つには領主にゴムゴーンの定期討伐の依頼を止めてもらわないといけないし、ゴムゴーンの素材が有用だと広まった後には、森の管理もお願いしないといけない。

 ちょっと不定期に森で魔物素材の採集をするくらいなら管理の必要もないけど、私が考えているのはゴム園のような扱い。

 狩場ではなく農園だ。

 今後、ここ以外にもゴムゴーンの棲息地が発見されるかもしれないし、ゴムゴーンの移植? 移し替えも可能になるかもしれない。

 それでも、今後のゴム需要を考えれば、供給量が需要に全く追いつかない状況は十分に予想できる。

 領主が街ぐるみできっちり管理するくらいでなければ、とてもではないが追いつかない。

 それに、現状ではここ以外にゴムの採れる場所がないのだから、万が一のことがあっては取り返しがつかない。

 目先の利益に目の眩んだ馬鹿がゴムゴーンを乱獲しようとしたり、逆にゴム素材の普及をおもしろくないと感じる者が森に火を放ったり…

 そんな事が起きないようしっかりと管理してもらうためにも、領主を巻き込んでおくのは大切だ。

 そして、もう一つ。

 このゴム園の管理には、ぜひ魔力量の少ない底辺層の人たちを使ってもらいたいってこと。

 連邦は魔法王国ほど国民の魔力量の平均も高くないし、魔力量に対する偏見も酷くはない。

 それでも、現実的に魔力量の多い者ほどできる仕事が多いのは確かだし、特に今のこの街ではその傾向が強い。

 数日この街を歩いて分かったこと。

 魔力の少ない庶民層の失業率が酷い。

 孤児のジャン君の話だと、以前はそんなことはなかったらしい。

 以前のこの街は街道の交易都市として賑わっていて、そのため宿屋や飲食店、屋台などの所謂(いわゆる)サービス業が多かったみたい。

 接客や物の販売に魔力は必要ない。

 だから、魔力の少ない庶民層にもそれなりに仕事はあった。

 でも、今のジャオジンからは人の流れは途絶え、他所の土地からこの街を訪れる者は殆どいない。

 今あるこの街での仕事は、農業、製造業、狩りと採集、それに生産した物を別の街に届ける運送業…

 いずれも、魔力を多く持つ者ほど有利に働ける仕事ばかり。

 そんな訳で、仕事が無くて困っているのはジャン君たち孤児の子供だけではなくて、大人も含めてかなりの失業者が街に溢れてる状況なんだよね…

 そして、この状況には私の作った鉄道が大きく関わっている。

 というか、ほぼ私のせいだよね。

 鉄道の駅舎建設を直接拒否したのは前領主とはいえ、その考えを受け入れたのはこの街だ。

 ある意味自業自得とも言えるんだけど…

 お偉いさんの失策で割を食っているのが何の決定権も持っていない庶民層だからねぇ…

 罪悪感にかられたりしないこともない。

 それに、魔力量の有る無しだけが唯一の人間の能力基準になるのは、私としてもちょっとね…

 というわけで、物は使いよう、適材適所、有用無用なんて状況次第。

 せっかくなので、魔力量が少なくないとできない仕事を用意することにした。


「ええ、先程も説明した通り、ゴムゴーンの体液を安全に回収するのに魔力量の多い者は不向きです。

 また、管理するのも魔力量の少ない者の方がいいでしょう。

 魔力量の多い者では、そもそも自由に森の中を歩けませんから」


 勿論魔力量の少ない者でも、ゴムゴーンを直接はっきりと目視できる距離まで近づけば危険だ。

 でも、逆に近づきさえしなければ、彼らが襲われることはない。

 ゴム素材を回収するのに、態々大きな盾を構えて飛んでくる体液を警戒しながら作業する必要もない。


「確かに、それはこちらとしても助かります。正直魔力の少ない住民の職については私も憂慮していました。

 街に失業者が増えれば雰囲気も悪くなる。

 ただでさえ街にやって来る旅人が減っているというのに、これ以上悪い噂がたっては目も当てられない」


 魔法王国ほどではなくとも、貴族の中には魔力の低い平民を見下す者も多い。

 敢えて魔力の低い平民を雇ってもらいたいという話には難色を示すかとも思ったけど、この領主にそういったところは見られない。

 思いの外好意的な反応に、少し意外そうな顔をしていると…


「はは、魔法王国の方には私の反応は意外でしたか?

 いや、勿論魔法王国ほどではないにしても、私たち連邦貴族にも魔力の低い者を見下すところはありますよ… いや、失礼。

 決してアメリア様に対してそのような気持ちがあるわけではなく…」


「別に気にしてませんから、お気になさらず。

 …では、ゴムゴーンの森の管理は領主主導で街ぐるみで行ってもらえる。

 素材採取には街の魔力の少ない平民を積極的に雇用してもらえる。

 取れたゴム素材は優先してアメリア商会に売っていただける。

 そういうことでよろしいでしょか?」


「ええ、それで構いませんが…」


「なにか?」


「いや、その… 正直なところ“ゴム素材”というものが一体どのように役に立つのか、私には想像がつかないところもあるのですが…

 当面、そのゴム素材を購入するのはアメリア商会のみになるわけですよね?」


「そうですねぇ…」


「そして、アメリア様の予想では、現状この街で採れるゴム素材を全てアメリア商会で買い取っても足りないほどの需要が見込まれると…」


「恐らくは…」


「でしたら、いっそ森の管理や素材の回収から全て、アメリア商会の方でやってもらった方が効率がよいのでは?

 こちらとしては、規定の税と土地の賃貸料さえ払っていただければ、あとは全てアメリア様の好きになさっていただいて構わないのですが…

 勿論街の住民から苦情が出るような乱開発をされては困りますが、そうでなければ税や賃貸料を後から上げるようなこともいたしません」


「えっ?」


 正直、この提案には驚いた。

 だって、せっかくの儲け話だよ。

 確かに全てうち(アメリア商会)でやった方が、街の発展という意味では効率がいいと思う。

 私は何としてもゴム素材が欲しいけど、それで儲けを出そうとか買い叩こうとかは考えていないからね。

 

「実を言えば私はこの地を治める一族の中では分家筋の末端貴族でして…

 この街は元々古くからいる商人たちの発言力が強い街で、領主とはいっても街のことを何でも自由に決められるほどの権力はありませんでした。

 で、前の領主は今は出ていった街の有力商人たちと結託して自分の利益ばかりに目を向ける強欲爺で…

 前領主と一部の商人達が出した鉄道反対の決定を危惧する声は当時からありました。

 言い訳に聞こえるかもしれませんが、この街の住人皆が鉄道建設に反対していたわけではないのです。

 ただ、当時の状況では彼らに正面から異を唱えられる者もいなくて…

 結局、街がこのような状況になり、住民全体の怒りが爆発して前領主や鉄道に反対した商人たちは街を追われました。

 その後は… 私の一族は完全に住民からの信用を失い、目に見えて廃れていく街の立て直しという難事を一族から押し付けられる形で、私がこの街の領主となったわけです。

 私は一族の中でも末端で、どちらかと言えばむしろ平民側に近い立ち位置でしたので、矢面に立たせるのに丁度良かったのでしょう」


 なんか、まだ若そうなのに疲れた感じがするなぁとは思ってたんだけどね。

 どうも、本気で大変っぽい…


「そんな訳ですので、アメリア様主導で街の事業を行っていただけるのは、鉄道の件で後悔している街の住民たちからすれば願ったり叶ったりでしょう。

 むしろ下手に領主(わたし)が口を出すと、また前回のようなことになるのではと反発されるだけかと…

 私としては、今のような住民からの突き上げがなくなり平和な日々が過ごせるようになれば、それだけで十分です」


 悟ったような目でそう語る現領主に、連邦商人のような気概は感じられない。

 街を統治する領主様というより、上司のやらかしに関して部下に責められている中間管理職のような…

 でも、それなら…


「領主様の事情は分かりましたけど、それでしたら領主様の一族からの横槍が入る可能性があるのでは?

 この街の事業が軌道に乗った後、その利益に目が眩んだ一族の方々が領主様に私を追い出すよう圧力をかけてくるということは考えられませんか?」


 話を聞く限りだと、どうやらこの領主様に大した権力はないみたいだからね。

 今は面倒ごとを押し付けられるかたちで街の領主をやらされているみたいだけど…

 もしこの街が金のなる木だと分かれば、その時はあっさり取り上げられて、後には別の領主がやってくる可能性は高い。

 そんな懸念を口にすると…


「アメリア様が行う事業でしたら大丈夫だと思います。

 我が国に鉄道が引かれる前のあの頃ならともかく、今の連邦でアメリア様に楯突く者はまずいません。

 アメリア様が私がこの街の領主に相応しくないと言い出せば別ですが、そうでない限りアメリア様を無視して勝手にこの街にちょっかいをかけてくる者は一族にはいませんよ」


 そう言って笑うジャオジンの街の若き領主様。

 いくら公爵とは言っても所詮は他国の貴族でずっと年下の小娘に過ぎない私に対して、初めから低姿勢で妙に協力的なのが気になっていたけど…

 どうやら野心や欲が無いただの善人というわけではないらしい。

 要するに、私に従うから一族や周囲の圧力から守ってもらいたいと…まぁ、そういうこと。

 私の話を聞いて、今後予想される事業規模は自分の手に余ると早々に判断したみたい。

 一見善良そうに見えるけど、さすが商人の国の領主様は(したた)かだね。


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