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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第5章 アメリア、世界を巡る

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ゴムゴーン調査

「オォ〜 すげえ! かっけぇ!」


「バカっ、そんなに見ちゃダメよ」


「……………」


 ゴムゴーンがいるという森の入り口で、案内を頼んだ孤児院の子供たちが騒ぎ出す。

 案内についてきてくれた子供は全部で4人。

 うち一人は少し年長で、私たちよりちょっと下くらいの女の子。

 馬車の操縦ができるという彼女ともう一人の男の子には、私たちが森に入っている間、乗ってきた馬車の番をお願いすることになっている。


「…で、お姉ちゃん。それなんだ?」


 先ほどから子供たちの注目を集めているのは全身鎧。

 街の資材屋で買ってきた金属で、金魔法を使って即席で作り上げたものだ。

 レオ君とサラ様を包む全身鎧に男の子たちが目を輝かせ、女の子は微妙に視線を逸らしている。

 頭部を包む鎧から顔を出すレオ君は若干嬉しそうで…

 サラ様はさっきから頭部のシールドを下げたままだ。

 私はなんとも思わないけど、元々この世界にはこういう全身鎧って無いからね。

 単騎で広範囲の攻撃魔法を撃てるこの世界では、ファランクスのような密集陣形は全滅の恐れがあるし、熱を通しやすい金属鎧は火魔法を使われた場合かえって危険だ。

 そんな理由から、この世界の防具は基本機動力重視で、動きを阻害する鎧は好まれない。

 だから、前世にあったような全身鎧を見るのは、ここにいる全員が初めてだと思う。

 これをカッコいいと感じるか恥ずかしいと感じるかは、意見の分かれるところだけど…

 どうも女性陣のウケは悪いらしい。

 大仰(おおぎょう)な見た目でガシャガシャギクシャクと動く姿は、確かにちょっと不格好に見えるかも…

 特に前世の女騎士のイメージとかがないと、女性にとっては着ぐるみでも着せられている感覚になるのかもしれない。


「嫌なら馬車で待っていても構わないけど」


「いえ、私はお姉さまの護衛ですから」


 そこは引けないと同行を申し出るサラ様。

 まぁ、来てくれた方が助かるけど…


「では、行きましょうか」


 案内役の二人の男の子たちに付いて私たちも森に入る。

 子供たちの話は本当のようで、森を進む二人の足取りに迷いはない。

 森の中を歩くのにも慣れている様子だし、場所もしっかりと把握しているみたいだ。

 私達は森の中をさくさくと進んでいく。

 重たい鎧に身を包んだレオ君とサラ様も問題無くついて来ている。

 体内を流れる魔力を上手く操作することで身体能力を強化する魔術は、元々は倭国のお家芸だったんだけど…

 サマンサの技術に私の太極拳が加わったセーバの街の身体強化魔術は、今や本家倭国の技術をも凌駕している。

 私の感覚だと、この世界の魔力を使った身体強化って中国拳法の内功、“気”を使った武術みたいなものだからね。

 日本でも合気道なんかはそれに近いのかもしれないけど、やっぱり“気”の武術といえば代表格は太極拳だから。

 そんな訳で、サマンサと私からその最先端技術を学んだレオ君やサラ様の身体強化魔術は、この世界でもトップクラス。

 数十キロはあると思われる全身鎧の重さも全く苦になっていないみたい。

 私達は順調に森の奥深くまで進んでいった。

 そして、


「止まって! 多分もうちょっと進むとゴムゴーンの縄張りに入ると思う。

 オレたちはまだ安全だけど、鎧の兄ちゃんと姉ちゃんはそろそろヤバい」


 案内役のジャン君の言葉に私達は歩みを止める。


「では、ここからは手筈通りに。まずは私とレオさんで先行しますね」


「くれぐれも気をつけてね」


「大丈夫です、任せて下さい… とはいえ、救出の方はよろしくお願いします」


 私とのそんなやり取りの後、サラ様は少しレオ君とお互いの位置を離した状態で、ゆっくりとゴムゴーンがいるという方向に向かっていった。


「念の為レジーナはここで待機で。後の二人は私と一緒に来て下さい」


「お気をつけて」


「大丈夫よ。…私の魔力で反応するようなら、間違いなくこの子達も全員襲われてるから」


 レジーナにそんな自虐的な返しをしつつ、少し距離をおいた状態でサラ様の後を追う私たち。

 これから行うのはゴムゴーンの討伐、ではない。

 ちょっとした実験? というか、確認のようなもの。


「うわぁ!」、「ひっ!」


 一応周囲を警戒しつつ暫く進むと、少し先を歩くレオ君とサラ様からほぼ同時に悲鳴が上がる。

 離れていてよく分からないけど、二人の着る鎧に何かぬめぬめしたものがべったりかかっているのが見える。


「あれがゴムゴーンの体液だよ」


「魔力量に差があっても、攻撃は同時にくるのね…」


 私達は警戒しつつ前の二人の方に近づくけど、こちらの方にゴムゴーンからの攻撃が飛んでくる気配はない。

 攻撃を受けているのはサラ様とレオ君の二人だけだ。


「あれ、本当に大丈夫だよなぁ?」


 体液まみれの二人を見て、ジャン君が心配そうに聞いてくるけど…


「多分ね…」


 そうとしか言えない。

 こうしている間もゴムゴーンの攻撃はずっと続いていて、全く逃げる様子もなく攻撃を喰らい続けているレオ君とサラ様は、既に不透明なゼリー状の山に埋もれている。

 もう脱出は不可能で、間違いなく呼吸もできなくなっているはず…

 それから少しして、ゴムゴーンからの攻撃が完全に止んだのを確認した私は、恐る恐る二人に近づき安否を確認する、けど…


「…反応、ないね」


「いや、これ死んでるだろ」


 確かに話しかけても反応は返ってこないけど…

 大丈夫だよね…?

 体液の固まった山は強く押すと若干凹むものの、力を緩めればすぐに元に戻る。

 色とか質感とかは私の知るものと若干違うけど、この感じは間違いなく“ゴム”だ!

 私は二人が埋もれるゴムの山に軽量魔法をかけ、男の子たち2人と協力してレジーナの待つ安全圏までゴム山ごとサラ様とレオ君を運び出した。


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