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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第5章 アメリア、世界を巡る

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ゴルゴーン?

「なんか、寂れた街ですね…」


 サラ様の口から漏れた言葉は、私達全員が感じていること。

 街の規模は中堅都市程度でそれなりなのに、道行く人達には全く活気が見られない。

 内陸を横断する主要街道沿いに位置するこの街ジャオジンは、昔から内陸部の交易都市としてそれなりに栄えてきた。

 そんな繁栄に陰りが出始めたのが5年ほど前辺りから…

 私と前ザパド侯爵との関係悪化でクボーストの国境を利用する商人が減り、同時期に開発された新型船の影響で南の海洋ルートが注目を集め始めた頃。

 ただ、大陸でも東側に位置するこの街が、西の国境(クボースト)の影響を大きく受けるようなことはなかった。

 この街の衰退が誰の目にも明らかになったのは、実はここ1年ほどのことだ。

 その理由も今となっては明らかで、この街の領主が鉄道の駅舎建設を断ったから…

 いや、元領主か…

 この街の領主は、半年ほど前から別の者に替わっている。

 分かりやすく、この事態の責任を取らされてって感じ。

 ついでに、同じく駅舎建設に反対した幾つかの有力商会も、店をたたんでこの街から撤退している。

 それまでは、地元の名士、顔役って感じでそれなりの発言力もあったらしいけど…

 自分たちの利益のために街が発展する機会を奪い今の現状を作り出したことで、地域住民からの膨大なヘイトを集め撤退を余儀なくされたらしい。

 鉄道敷設や駅舎建設には、用地の提供や工事費の負担といった領主に対する要求もかなりあったからね。

 それでも十分にお釣りがくるだけの経済効果はあったわけだけど、それはあくまでも結果論。

 計画段階では、鉄道が引かれることで何がどう変わるのか、正確に予想できていた者ばかりではなかったんだよね。

 それでも、十分な根回しの済んでいた議長様派閥の議員や、ダルーガ伯爵の薬被害から救われた人達なんかは快く協力してくれた。

 でも、そのどちらでもない所謂(いわゆる)無所属層はそうもいかない。

 なかには鉄道の持つ可能性に気付く人もいたけど、勿論そうではない人もいた。

 特に、私が駅舎内にショッピングモールを作ろうとしていることが噂になってからはね…

 長い目で見れば街全体の集客力は上がるわけで、決して地域の発展にマイナスになるものではないはず。

 でも、駅舎建設で立ち退きを迫られる商会や、ショッピングモール内にできる店と業種の被る店を営む商会は…

 移転してもらう店には十分な立ち退き料を用意する。客数自体が増えるから、新しい店ができても今いる客の奪い合いにはならないって、説明はしたんだけどね…

 それでも、幾つかの街は駅舎建設を断ってきた。

 この街も、そんな中の一つってわけ。

 結局、鉄道の駅舎は、ここから馬車で半日ほど行った場所にある別の街に作られることになった。

 今その街は、すごい勢いで発展している。

 まだ小さな街でしがらみも無いせいか、新しいものを受け入れようって姿勢が街中に溢れていた。

 アメリア商会の支店長さんも、この街は伸びますよって太鼓判を押してたっけ…

 まぁ、そんな街から来たばかりだからね…

 余計に寂れた感じがしちゃうんだろうね。

 それも自業自得だから仕方がない。

 よくある話だしね。

 前世でも、新幹線の駅を作るとか巨大ショッピングセンターを作るとかに地元住民が反対して、数年後には便利になった隣町に人口が流出して街が廃れてしまうとか、よく聞いた話だし…

 だから、今回の一件で仮にこの街がなくなってしまったとしても、そのことに私が責任を感じるようなことは全く無い。

 そもそも、最初に拒否したのそっちだし…

 では、何故わざわざこの街までやって来たのか?

 それは、先日別の街で会った冒険者パーティーから気になる話を聞いたから…



『ゴムゴーンですか? ゴルゴーンではなく?』


『うん、一説ではゴルゴーンの伝承の元になったって言われている魔物なんだけどね』


『ゴルゴーン? …確か、髪の毛が蛇の醜い女の姿で、見たものを石に変える魔物ですよね?』


『そう、それだ。もっとも、正確なのは“醜い”ってとこだけだけどよ』


『そうねぇ… あれはどう見てもイソギンチャクよ。

 内陸の人間は海の生物なんて知らないから、髪の長い女が頭だけ出して埋まっているのを想像したのかもしれないけど…』


『『『『???』』』』


 今ひとつ実物を想像できない私達に、冒険者のおじさんが絵を描いて説明してくれた。


(あっ? 絵、上手いなぁ…)


『大体、こんな感じだな』


 ゴムゴーン。それは、正にイソギンチャクだった。

 地面に横たわる半球状の胴体からは、無数の触手が伸びている。

 触手は私の知るイソギンチャクよりもかなり長いみたいで…

 絵を見ただけなら、ちょっとモンブランにも見える…

 これで本物がグロかったら美味しくモンブランを食べられなくなりそうだから、その連想は頭の中から追い出すことにする…


『大きさは馬車くらいだな。

 半分植物に近いような魔物で、本体はほとんど動かない。性質も大人しくて、近くに寄ってきた小動物を触手で捕獲して食べるだけの魔物なんだが…』


『近くに一定以上の魔力を持った生き物が近づくと、触手から体液を吐き出してくるのよ』


 紅一点の冒険者のお姉さんが、自分の肩を抱いて身震いする。

 うわぁ〜 服とか溶かされちゃう系ですか?

 いや、別にそういう設定なくても、純粋に気持ち悪いから嫌だけど…


『つまり、毒攻撃ってことか?』


 私の護衛担当のレオ君が確認すると…


『いや、ゴムゴーンの体液自体に毒性はない。仮に触れても、それで即死ぬようなことはない』


『なら、気持ち悪いだけ?』


『まぁ、それもあるんだが…』


『固まるんですよ。元々粘着質の体液なんですが、それが大気に触れると急激に固まります。

 恐らく、これが“石化”の由来だとは思うのですが、石とはちょっと違うんですよね』


『そうだなぁ… 石なら普通砕けるが、あれは砕けねぇ…

 分厚く固められちまうと流石に身動きできないが、ちょっとなら力を込めれば動かせるしな』


『んっ? 固まってて、砕けないんですよねぇ?』


『あぁ、説明が難しいなぁ! つまり… 例えばこう、よくしなる枝を腕に縛りつけるよな? そうしたら、それでも腕を曲げることはできるが、枝を曲げる分だけ力がいるし力を抜くとすぐに真っ直ぐに戻っちまう。

 そんな感じで拘束される感じなんだよな…』



 そんな要領を得ない説明に、私以外の3人は首を傾げていたけど…

 私には一つ心当たりがある!

 これって、“ゴム”じゃないかなぁ?

 時折この辺りの森で発生して、有害な魔物として駆除されちゃってるみたいだけど…

 もしその魔物からゴムを採取できるなら…

 この街とは改めて良い関係を築きたいよね。


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