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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第5章 アメリア、世界を巡る

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酒場にて

 その噂を聞いたのは、ある街の冒険者ギルド近くにある酒場でのこと。

 当たり前のことだけど、ここのお客の大半は冒険者だ。

 行商人を兼ねた商人風の人もいれば、護衛や討伐といったいかにも荒事専門ですって風体の人もいる。

 客層は、やっぱり男性客が多いかな…

 一応この世界では一人前扱いされる年齢とはいえ、私達みたいな若い女の子のグループ(レオ君を除く)というのは、やっぱり少々悪目立ちする。

 組み合わせもちょっと変だしね…

 かなり抑えているとはいえ、明らかに高い魔力量を感じさせるサラ様は、見た目的には全然護衛に見えない。体つきは華奢だし、肌にも傷一つ無いしね。

 一方レジーナの方はというと、逆に冒険者をするには明らかに魔力不足…

 特に体格がいいいわけでもないし帯剣もしていない。

 実は、そこかしこに恐ろしい暗器が隠されているんだけど、見た目は大人しい侍女風だしね…

 で、その言動を観察する限りでは、こいつがグループのリーダーなのだろうと思われる私はというと…

 一番下っ端に見えるんだよ。

 見た目的に、つまり魔力量的にね…

 昔と違って魔法王国でも魔力至上主義はだいぶ緩和されているし、元々ここ連邦ではそれほど魔力量に対する偏見は強くない。

 そうは言っても、それは個人の能力や人格を魔力量のみでは判断しないっていうだけで、実際上流階級の人間ほど魔力量の多い者が多いのは事実だし…

 冒険者や兵士といった戦闘職にとっては、魔力量が多いというのはそれだけで大きなアドバンテージになる。

 見た目小柄で非力そうな女子。

 しかも、魔力量は連邦基準でも底辺…

 酒場の給仕としてならともかく、とかく荒くれ者の多い冒険者御用達の酒場の客としては、場違い感がハンパないらしい。

 それはもう、頭の悪い男たちに妙な勘違いをさせてしまうほどに…


「おう、嬢ちゃんたち、旅人か? ここらじゃ見ないもんな。こんなヤローばっか集まる店にわざわざ来たってことは… あれだ、旅の路銀稼ぎだろ?

 大方、ちょっと旅の資金に困ったお嬢様と侍女って感じの設定だろ?

 嬢ちゃんたち、戦闘じゃ役に立ちそうにないしな!

 外での戦いはそっちの2人の担当で、街での()()は嬢ちゃんたちがってわけだ」


「はぁ… なにを言って…?」


「まぁ、悪くはないが、俺らのような一流の冒険者には無理があるな。

 見れば分かるんだよ、そいつの持つ魔力量(強さ)ってのが一流の冒険者にはな。

 こんなこと言うのもかわいそうだが…

 特に嬢ちゃん(アメリア)がお嬢様担当ってのは無理がありすぎだ。

 いいとこの生まれの令嬢にそんな低い魔力のやつはいないし、当然冒険者も務まらない。

 一見お嬢様風の見た目で自分を高く売り込むって発想は悪くないが、相手が悪かったな!」


「……………」


 なんだろう…

 一流冒険者?

 正体見破ったり、みたいな?

 どこぞのヘボ探偵のような推理(妄想)を展開する酔っぱらいを醒めた目で眺める。


「だが、いいぜ! そういうのも有りだ! 俺様が協力してやるよ。なんなら3人同時でも…」


「いえ、そういうのは結構です」


 はい、ただのすけべオヤジ決定。


「バカ! おまえ、なに勝手に独り占めしようとしてんの? こっちも3人、相手も3人。報酬は公平に分けるのがパーティーを長続きさせるコツっしょ?」


「そうだぜ、リーダー!って、なに? その護衛っぽい子も相手してくれんの? ならオレ、そっちの護衛の子がいいなぁ… なんか気が強くて潔癖な感じの子をってのが燃えるよね、へへへ…」


 対象を“すけべオヤジ”から“すけべオヤジ()”に変更。

 私だけならともかく、レジーナやサラ様にまでそういう目を向けたことで、私の中で情状酌量の余地は消滅した。

 ちなみに、レジーナやサラ様にそんなものは初めから無い。


「グェ!!」

「ギャッ!!」

「ヒィッ!!!」


 私のピンポイントの魔力による“威圧”が一人目の喉元の急所に…

 同じくレジーナの“威圧”が二人目の眼球!?に…

 (確かに物理的な外傷にはならないけど、、痛そう…)

 そして、最後の一人には魔力自慢の魔法王国王族の全力による“威圧”が…

 手加減された私担当の一人目は、突然の衝撃に吃驚して飛び上がる程度で済んだけど…

 レジーナの魔力に眼球を貫かれた男は目を押さえて(うずくま)ってるし…

 サラ様にやられた男にいたっては、腰を抜かして震えながら水たまりを作っちゃってる…

 (あぁ… 席、替えてもらおう…)


「ばか…」


 我関せずと空気になっていたレオ君が、ぼそっと呟いた…



 一時は何が起こったのか分からず騒然とした店内だけど、今は表面上平静を取り戻している。

 もっとも、分かる人には分かるみたいだけどね…


「いや、お嬢ちゃんたち、やるなぁ!」


「俺たちも冒険者長いが、あれほどの“威圧”を見たのは初めてだよ」


「僕も魔術師としてはそこそこだと思っていましたけど、あれほど緻密な魔力操作を見ると自信失くしますね」


「あいつら、あまり評判よくなかったしね。あまりしつこく絡むようなら助けに入ろうと思ってたんだけど…

 結局、必要なかったわね。

 あなた達が最初にお店に入って来た時には、この子達なに考えてるの?って思ったけど…

 リーダーの目に狂いはなかったってわけね」


「まぁな。年齢や見かけに惑わされるが、その子たちからは纏う魔力の不安定な揺らぎが全く感じられない。

 体幹にぶれもないし、ちょっと注意してみれば相当の実力者だってのは分かったからな」


「言われてみれば確かに… 全く纏う魔力に偏りが感じられませんね。なるほど、これほどの魔力操作が可能ならあの“威圧”にも納得ですね」



 あれから、こちらの希望通りお店の人に席を替えてもらって、今はあの後ふつうに話しかけてきたベテラン冒険者の皆様と歓談中。

 彼らも旅をしながらの冒険者とのことで、話はさっき私達が使った“威圧”の話から、徐々に各々が見聞きした旅の話に移っていく。


「へぇ、北部の方って、今そんなに景気がいいんですか?」


「あぁ、何年か前までは新型船とか羅針盤とかの影響で海のある南の方が景気が良かったんだがな。

 最近は北だな。

 食料に鉱物、あと魔石もか… 何でも高値でよく売れる。

 南で買った物を北に行って売るだけで十分儲けがでるからな。行商メインの冒険者の間ではそこそこ評判になってるよ」


「あと、最近では南からの持ち込みだけじゃなくて、鉄道を使って魔法王国から買い付けてくる商人も結構いるみたいよ。

 私も一度乗ってみたいけど… まだまだ運賃も高いしね」


「高いのは鉄道だけじゃないだろ!

 鉄道ができて仕事の依頼も増えたし依頼料も上がってるけどよぉ… その分、物の値段も上がってるからなぁ…」


「その分働けってことですよ。仕事もあって依頼料も上がっているんですから特に問題はありません」


「確かになぁ… でも、さすがに北部の値の上がり方は異常だと思うぞ」


「それは私も感じたけど… でも、街の人たちは普通に買い物してるのよねぇ…」


「なんでも大口の取引が幾つもうまくいっているみたいで、皆さん随分と金払いがいいみたいですよ」


 ほうほうと相槌を入れつつ考える。

 やっぱり、インフレは避けられないか…

 船に鉄道、魔道具。

 実際に連邦を旅していると、私が連邦(この国)にもたらした影響は決して小さくはないとよく理解できる。

 特に鉄道に関しては、連邦の流通や商売のやり方に大きな影響を与えたってだけではない。

 鉄道を作ったこと、鉄道ができたことによる莫大な経済効果も発生している。

 それらは停滞した地域経済を活性化させる一方で、深刻なインフレも起こしているんだよね。

 うち(アメリア商会)が扱う商品は、品質的にも技術的にもほぼ独占に近い状態だから、他所の商品が高かろうが安かろうが大して影響は受けない。

 うちと同じ品質の物を買おうとすれば他所なら相当に高くなるし、そもそもうち以外では製造できない魔道具も多い。

 だから、あまり物価の変動に影響を受けることもないんだけど…

 一般の商品のここ最近の値上がり率は確かにひどいよねぇ…

 幸いなことに、今の私は超お金持ちだからあまり気にしてないけど…

 旅がつまらなくなるから無闇と贅沢はしないけど、欲しい物を値段が高いからと諦めることもない。

 ありがたいことだ。

 その後も有益な情報交換は進み、旅の一夜は()けていった。


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