完成式典と旅への高揚
その日。
ザパド領の領都ザパドでは、大陸横断鉄道完成を祝う式典が行われていた。
実を言えば、ここ数日で同様の式典が連邦首都ラージタニーと倭国の都キョウでも行われている。
直接参加はしてないけど、私もスピーチはしたからね。
世界初の音声による中継放送。
鉄道の路線を利用した通信設備に拡声と集音の魔道具を組み合わせて、各々の国で行われた完成式典を世界中に配信してみた。
音声のみのラジオ放送みたいな感じだけど、式典の最中に遠い他国にいるはずの人間からスピーチをもらったり、逆に目の前にいない群衆に向けてスピーチしてみたり…
鉄道自体は既に魔法王国では一般的になってるし、倭国〜ラージタニー間でも一年前から使われてるから、割と知っている人も多い。
それに対して、通信設備の方は秘密ってわけでもないけど、態々その存在を宣伝したりもしていなかった。
利用できるのも王家とセーバの関係者のみだったしね…
でも、これからは商業ギルドを通して一般の利用も増えてくるわけで…
丁度いいから、この機会にどんなものか派手に宣伝しちゃおうって話になったんだよね。
いや、実はこの歴史に残る大陸横断鉄道の完成式典をどこでやるかって、結構問題になったんだよ…
政治的経済的思惑とか、世間に与える印象とか…
あと、他国で行われるとしたら、誰を参加させればいいか、とかね。
同じ国内での移動ですら、魔獣や盗賊の脅威に晒されながら、かなりの時間をかけて移動するのが当たり前の世界。
前世みたいに国家元首がホイホイと他国を外遊するような事なんて、そうそうないわけで…
例えば、完成式典のために議長様や倭国の帝にセーバの街まで来てもらう?
それこそ大騒ぎだ。
場合によっては大陸横断鉄道計画の取りまとめ以上に難航するって、お父様が言っていた。
国王や王族の立場はそれだけ重いんだって…
実際、お父様も国王陛下も、一度も外国へは行ったことがないしね。
サラ様やタキリさんが例外で、あれを普通と思ってはいけないって、しっかりと釘を刺されました。
まぁ、そんな訳で、だったらって提案したのが通信設備のお披露目も兼ねた今回の形式での完成式典。
そのインパクトは大変なものだったようで、既に式典の終わった倭国、連邦では、一体あれは何だと商業ギルドに問い合わせが殺到しているみたい。
議長様、頑張れ!
銀行業については、鉄道建設の資金繰りの段階で主だった富裕層には事前に説明されているから、それほどの混乱はないみたいだけど。
通信設備、銀行機能を備えた商業ギルド支部は、既に各地の駅建物内で営業を開始している。
基本、駅、鉄道関連施設内はアメリア商会の管理下になるわけだけど、駅舎内に商業ギルドの支部を設置することは事前の話し合いで決めていたからね。
余裕を持って広めに作られた駅舎内には、商業ギルドの専用スペースもしっかり用意されている。
それ以外にも色々とね…
私の旅先での出張所を兼ねたアメリア商会、宿屋、酒場、食堂、カフェ、雑貨屋、etc.
イメージは駅ビル、というか、むしろ空港に近いかも…
タックスフリーなのも一緒だしね。
そう、駅施設内は治外法権。
その土地の領主も税はかけられない!
鉄道利用者は基本富裕層が多くなるだろうから、全体としてはちょっと高級で高めの価格設定なんだけど…
それでも、商品やサービスの質を考えると、かなりのお買い得価格になっている。
で、これに大慌てしたのが、駅が建てられた街の領主や商人達。
彼らは、期待していたんだよねぇ…
駅ができ、人が多く集まれば客は増える。
列車の利用客は金持ちが多いだろうから、多少値段が高くても必要なら金を出すだろうって…
まぁ、経済発展していて利便性もある地域なら、物価が上がっちゃうのは当然なんだけど…
いくら勝手に人が集まるからって、質を伴わないぼったくり観光地価格みたいなのは止めて欲しいよね。
アメリア商会プロデュースの駅舎内ショッピングモールは、実は鉄道効果による不当な価格上昇にストップをかけていたりする。
駅舎内の店で売られている商品は、普段街で買う商品より高めとはいえ、質は遥かに良いのだ。
今よりも値段が上がるようなら、駅舎内の店を利用した方がいい。
別に鉄道は利用しなくても、駅舎内の店は利用できるからね。
そんなこんなで駅舎内ショッピングモールが抑止力となり、駅が作られた街の不当な物価上昇はだいぶ抑えられている。
いや、各街の駅舎内にショッピングモールを作る計画があるって初めて知った議長様や領主の皆さんは愕然としていたけどね…
実際、うちも儲かるし、ちょっと騙し討ちであることは否定しない。
でも、長期的な街の発展を考えたら、それなりのメリットもあると思うんだよ。
この世界って、長期的な発展とか考えずに、すぐに目先の利益に走ったりしちゃうからね。
今後起こりうる不当な物価上昇。
それによる治安の悪化。
街の人口の流出や駅利用客の減少…
そんな可能性について説明した上で、健全な競争はお互いの発展のためには必要ですよって話をしたら、皆さん納得してくれていた。
流石は商人の国って感心したね。
『流石はアメリア様です。うまく丸め込みましたね』
『お姉さま、素敵です!』
『健全な競争って… うちは他所で商売しても税は払わないってことだよな』
そんな声が、レジーナ、サラ様、レオ君から聞こえてきたけど…
お互いにメリットがあるんだから問題無し!
まだ現地募集スタッフの社員教育が終わってなかったりで一部営業できていないところもあるけど、私が視察に行くまでには何とか間に合わせるって、みんな頑張ってくれているみたい。
そう! 視察ですよ、し、さ、つ。
お仕事です。
晴れて3年間の義務教育(学院長職)を終え自由の身、もとい、一人前の魔法王国貴族となった私には、今後の健全な領地運営、鉄道運営のために、世界中を見て回る必要があるのです!
魔法王国唯一の貿易港と、3カ国を走る国際列車の管理をする立場ですからね。
広く世界で見聞を広めることは非常に大切です!
そんな訳で、数日後には旅に出ることは、既に決まっている。
スタート地点セーバの街で、ゴールは倭国の都キョウ。
旅の日程?
そんなの、決まってないよ。
旅先では、何が起こるか分からないからね。
旅のメンバーはいつもと同じ。
レジーナとレオ君、それにサラ様…
『…視察です、し、さ、つ! お仕事です!
魔法王国を支える王族として、今後の健全な国家運営のために、世界中を見て回る必要があるのです!
貿易港としてのセーバの街の発展と国際列車の完成による他国との貿易量の増加。
これらに王家としてきっちり対応するためにも、広く世界で見聞を広めることは非常に大切です!』
国王陛下としては、サラ様も晴れて学院を卒業した事だし、次はさっさと婚約者を決めて遅れている淑女教育をって考えていたみたいだけど…
『良いのではありませんか?
実際、今後は他国との交易も増えるでしょうし、我が国もいつまでも魔力量任せで引きこもってもいられなくなるでしょう。
国際的な視点を持った人材は必要ですし、サラが外交方面を担ってくれれば王家としても助かります。
流石に、王太子であるライアンを他国に出すわけにはいきませんけど…
サラについては、今更ですしね』
娘のわがままを妻に後押しされては、父親としてはどうすることもできないよね…
なにかと自由な妹を羨ましそうに見ているお兄ちゃんがいたけど、そこは放置だ。
そんな訳で、旅はまたいつものメンバーで…
視察、護衛、侍女兼秘書と、一応の大義名分はあるわけだけど…
差し迫った目的のない自由な旅は初めてだから、やっぱりわくわくするよね!
前世ではぼっち旅専門だったけど、今世では気の合った旅仲間もできた。
旅の資金も潤沢だし、帰国後の社会復帰の心配もいらない。
そもそも、ニートじゃないからね!
毎日、気ままに移動し、見たいものを見て、食べたいものを食べる。
そんな生活の始まりだ。
この15年間、そのための準備はきっちりしてきた。
もう誰も、私の旅心は止められないよ!
ここまでお付き合い下さり、ありがとうございます。
一応ここまでで、学院編?ザパド領編?は終わりになります。
次回からは遂に最終章。帝国編がスタートです。
なんか一年で完結予定がもうすぐ2年になるのですが…
スタートとゴールだけ決めてあとはでたとこ任せが私の旅のスタイルだったりするのですが、流石に…
ちょっとは途中のことも考えようよ、と反省に見せかけた言い訳をしつつ…
大変恐縮ですが、次回の更新は来週か、もしかしたら再来週くらいになります。
ちょっと構成整理してからスタートする予定です。
楽しみにしていただいている読者様には、ご迷惑をおかけしますが、ラストまでお付き合いいただけると嬉しいです。
m(._.)m




