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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第4章 アメリア、ダルーガ伯爵の野望を打砕く

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クボースト奪還 〜ソフィア視点〜

(ソフィア視点)


「第一軍は城壁の大砲を止めに向かいます! それ以外の兵は民の避難を最優先に!

 工兵は倒壊する建物の安全を確保! 必要なら壊しても構いません! とにかく人命を優先なさい!!」



 クボーストの街を囲み、一月(ひとつき)ほどが経った頃。

 静かに街の街門は開かれ、我が軍は碌に戦うことなく街への入場を果たしました。

 (もっと)も、このような情況は初めてではなくて…

 実のところ、今までに制圧してきた多くの街でも、同じような展開はよくありました。

 包囲と情報操作。

 飴と鞭。

 民に物資の届かない情況をこちらが作りつつも、その原因は街の指導者にあると思わせ、私達は民を救いに来た味方であると認識させる。

 民の不安と不満を煽り、内圧によって開門を迫る。

 苦しい情況にこちらが追い込みつつも、その情況から救ってやることで相手の信頼を得るという…

 セーバリア学園で学んだ戦略論は、一見平和的なようで、その実なかなかに悪辣です。

 それでも、卑怯だろうが悪辣だろうが、それで民の血を流さずに済むのなら、それが一番でしょう。

 開かれた街門を通り、軍を進めていきます。

 街の通りには我が軍の到着を喜ぶ民の声が溢れ、その様子はさながらお祭りのパレードのよう。

 今回の乱を引き起こした貴族たちは、今頃気が気ではないのでしょうけど…

 私はいつものように沿道に並ぶ民に手を振りながら、殊更に街の開放をアピールします。

 後はこのまま城に乗り込み、キルケさんの身柄を押さえればこの一件は終わる…

 クボーストに潜入していた密偵の報告では、既にクボーストの貴族たちに逆らう意思は無く、混乱に乗じて逃げ出そうか、何とか自分達の関与を誤魔化せないかと、ただ右往左往している状態らしいですし…

 キルケさんの周囲はダルーガ伯爵が派遣した傭兵達が固めているらしく、今の彼女の情況ははっきりしないみたいですけど…

 いずれにしても、今のクボーストの貴族や兵にまとまりは全く無く、組織だった抵抗は既に不可能とのこと…

 このまま城に乗り込んでも、特に問題は無いはず…


 そう安易に考えていた時に、それは起こりました。

 突然の轟音と、続く人々の悲鳴。

 崩れ落ちる建物の瓦礫と、逃げ惑う群衆。

 我が軍にもかなりの被害が出ています…

 街の中心に位置する古城。それを取り囲む城壁に設置された大砲からの砲撃。

 街門だけでなく、城の城壁の方にもダルーガ伯爵より購入した大砲が設置されているという報告は、勿論既に潜入済の密偵から受けていました。

 無理に侵攻すれば、最悪平民たちの住む下街をも巻き込んだ大規模戦闘になる…

 だからこそ、事ここに至っても無理な侵攻はせず、自ら街門を開かせる包囲作戦を取ったというのに…

 まさか、歓迎に集まる民ごと砲撃してくるなんて…


『…相手に降伏したと見せかけて街門を開き、敵軍を街中に引き込んだところで一網打尽にするという作戦もあります。街そのものを囮に使う捨て身の作戦ですね。

 街の住民を事前に避難させる必要がありますが、それを如何に相手に気取られずに上手くやるかが作戦成功の鍵になります。

 (もっと)も、この作戦を逆手に取って、(わざ)と無防備に街門を開くことで、敵に罠を警戒させて侵入を防ぐ空城の計なんてのもありますから、指揮官には適切な情況判断が求められるわけで…』


 セーバの学園での講義が思い出されます。

 指揮官として私は、この攻撃を予想しておくべきだった…

 街の中央にも大砲が設置されている以上、市街地への攻撃も十分にあり得たのだから…

 ここまでの多くの街での成功体験が、街門が開かれれば軍としての大規模戦闘は無いという思い込みを招いた?

 街を守る領主が、自らの街や民に攻撃を仕掛けるようなことをするわけがない?

 ここまで本当に順調で、後はキルケさんを捕らえれば終わりというところで…

 敵に援軍の可能性もなく、事実上こちらの負けはないという今の情況に、油断した。

 勝敗は動かずとも、被害は出るというのに…

 あのキルケさんの性格なら、無関係な民がどれだけいようと、攻撃を躊躇うわけがないと、簡単に予想できたのに…


「第一軍は城壁の大砲を止めに向かいます! それ以外の兵は民の避難を最優先に!

 工兵は倒壊する建物の安全を確保! 必要なら壊しても構いません! とにかく人命を優先なさい!!」


 私は、押し寄せる後悔に蓋をして混乱する兵に指示を出します。

 まずは民の安全確保が最優先。

 幸いなことに、あの大砲という兵器の情報と対処法は、十分に兵たちの間で共有されています。

 あの兵器は、射程の長い石弾の魔法のようなもの。

 火魔法などと違って直接の攻撃範囲は狭いですが、火魔法や水魔法では防ぎ難いことと、市街地で使われた場合には倒壊する建物による二次被害が厄介です。

 大砲の射程はかなりありますので、街の住民を街の外に避難させる時間はありません。

 工兵たちが金魔法で塹壕を掘り、住民達のための簡易的な避難場所を作り上げていきます。

 そこに続々と人々が逃げ込んできますが、今のところ敵軍の攻撃はありません。

 大砲による攻撃は今も続いていますが、この隙をついて攻撃を仕掛けてくる敵兵はいません。

 私は群衆の混乱がある程度収まるのを確認して、城壁に向けて軍を進めます。

 城壁の上の大砲に攻撃魔法を集中させ、同時に城門の攻略を試みますが…

 城門を守る兵にさしたる抵抗はありません。

 指揮系統が混乱しているのか、指揮官と思われる兵や身形の良い貴族までが、判断に迷ってオロオロしているのが見られます。


 (この攻撃は、クボースト軍としての行動ではない?)


「私はザパド侯爵領次期領主ソフィアです! 反逆の意思がないのなら、直ちに街への砲撃を停止、若しくは阻止に協力なさい!

 その上で、素直に投降するのなら、今回の件について罪一等を減じましょう」


 私の声に、恐る恐るこちらに投降してくる貴族や兵が出始めます。

 一部の兵や貴族たちは、我が軍に協力して大砲への攻撃に参加します。

 やがて、一部の城壁は崩れ、また一部の城壁は内側から制圧され…

 鳴り響く大砲の音も、徐々にその数を減らしていきました。


(なんとか、終わりましたか…?)


 市街地へ向けて砲弾を撃ち込んでいた最後の大砲が沈黙するのを見て、安堵の息を漏らした瞬間…


 ゴ、ゴゴ、ゴゴゴ〜〜〜〜〜〜!!!


 城壁が囲む建物群のほぼ中心付近に建つひときわ高い塔が、土煙を上げて崩れ落ちました。

 それは、まるでこの戦いの終焉を象徴するようで…

 皆がしばし動きを止め、崩れ去る塔を眺めていました…


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