こちらにおわす御方を…
「アメリア公爵様、移動の準備が整いました」
商業ギルドの宿泊所を出た私、レジーナ、レオ君、それにサラ様が、ギルド長が手配してくれた馬車に乗り込んでいく。
これから向かうことになっているのは、バンダルガの郊外にあるという迎賓館。
いつまでも高位貴族である私をギルドの宿泊所などに泊める訳にはいかないので、ということらしい。
まぁ、移動理由としては自然だよね。
そして、馬車が走り出してしばらくした頃。
繁華街の雑踏を抜けて、人通りもだいぶ途切れてきたかなって頃に、それは起こった。
プシュ〜〜〜〜〜
御者が馬車の小窓から投げ入れた物から、空気の漏れる音が聞こえる。
その後しばらくして、馬車の中が静かになったのを確認した御者は、馬車の行き先をダルーガ伯爵の屋敷へと変更するのだった。
そして…
ゴォオオオーーー
「ぅぎゃぎゃあ!」
ピュピュンッ!!
「「「ぅぎゃぎゃあああああ!!!」」」
キィンーッ^%#$*%@$%〜〜〜〜〜!!
「「「「「ぅぎゃぎゃあああああ!!!!!」」」」」
ダルーガ伯爵の屋敷と研究所は、地獄と化した…
「な、なぜ、これほど早く目覚めるのだ!」
私の目の前に立つのはダルーガ伯爵…だと思う。
別に自己紹介とかされてないしね。
迎賓館へ移動中の馬車の車内に催眠スプレーみたいのを投げ入れられ、眠ったところをここまで連れて来られたって訳。
あっ、本当には寝てないよ。
みんなで寝た振りしてただけで…
恐らく催眠ガスが使われるだろうってことは、分かっていたからね。
サラ様の風魔法で全員の周囲に薄く風の結界を張ってもらって、その隙に鑑定魔法で成分分析して…
万が一吸い込んでしまっても、お互いに解毒できる万全の態勢での狸寝入り。
そうして連れて来られたお屋敷で、私は今ダルーガ伯爵と対面しているって訳。
だから、
「いや、初めから寝てませんでしたから…
ダルーガ伯爵が催眠の魔道具を使って、私達の乗る馬車を襲うことは予想してましたので、対処は簡単でした」
「むぅ、私が馬車を襲うと、読んでいたのか!?」
「いえ、読んでいたというか… むしろ、そう仕向けたというか…
そもそも、初めから罠だったんですよ」
「…罠、だと…?」
「ええ、私がバンダルガに来たのも、ギルド長さんがあなたに話したことも、全部罠です」
ラージタニーでの鉄道開通式典と連邦議会、そしてラージタニーからバンダルガまでの移動日数…
それらを大まかに計算した上で、ダルーガ伯爵がバンダルガに戻って来るのに合わせて私達はセーバを発った。
バンダルガの商業ギルド長宛の、ルドラさんからの紹介状を持って…
ルドラさん曰く、バンダルガの商業ギルド長は“長いものには巻かれろ”っていうタイプ。
事なかれ主義だが決して馬鹿というわけではなく、冷静な状況判断はできるし、必要であれば平気で嘘もつけると…
で、一芝居打っていただきました。
「セーバの街は元々襲撃などされていませんよ。
あなたの軍はきっちり壊滅させましたし、指揮官も捕らえました。
あなたは、もう終わりです」
今こうしている間にも、屋敷を守る私兵は次々に倒され、研究員達も捕縛されている。
ダルーガ伯爵の研究資料や実験施設には被害が出ないようにしているが、それ以外は塵も残さない勢いだ。
「早くあの者達を止めろ!!
…こ、こんな事が許されるか!
わ、わたしは罪人ではない! ただ商売しただけだ!
私の屋敷を、研究所を破壊し、私の研究成果を奪うなど…
そんな横暴が許されるか!!」
盗人猛々しいを地で行ってるね、このおっさん…
まぁ、でも、確かにその通りだ。
実際にやったことは兎も角、連邦の法的にはここまでの強硬手段は取れない。
薬や武器を売っただけならね…
「いや、これただの正当防衛。妥当な報復措置ですから。
私達は睡眠薬を使われ、拉致されてきたのですから、自分達の安全を守るためにもこれくらいは当然では?」
「ぐっ…」
私の言い分に対して一瞬言葉を詰まらせたダルーガ伯爵だけど…
「いや、それは誤解だ。別に拉致など考えておらん。
多少強引な招待にはなったが、私としてはアメリア公爵に危害を加える気など毛頭なかったのだ。
私はただ、貴殿と研究について話がしたかっただけで、それ以上の意図はなかったのだ。
その証拠に、私は別に貴殿を拘束したり怪我させたりなどしておらん。
今もこうして、ただ話をしているだけではないか。
それなのに、貴殿の護衛が突然暴れだし、あまつさえ略奪紛いのことまでしている!
これはむしろ、私の方が被害者という情況。
いくら魔法王国の高位貴族とはいえ、これ程一方的な振る舞いが許されるはずがなかろう」
盗人にも三分の理?
「…確かに私に対する扱いは多少丁寧でしたけど…
あなた、私の護衛たちには手を出していましたよね?」
「いや、あれは…
身分も弁えず主同士の話し合いに護衛ごときが割って入ろうとしたからで…
多少扱いが雑になったのは認めるが、別に大したことでは…」
「で、せっかく私の護衛に付いて来てくれたサラ様を突き飛ばして、有無を言わさず隔離したと?」
「…それが何だというのだ!?
たったそれだけのことで、今も貴殿の護衛は私の屋敷を破壊して回っているのだぞ!」
「と、いうことです。
サラ王女殿下に対する部下の振る舞いについては、主であるダルーガ伯爵も承知のようです」
『はい、こちらでもダルーガ伯爵との会話は確認できております。
ビャバール商業連邦議会としては、我が国の友好国であるモーシェブニ魔法王国の王女殿下に意図して危害を加えたダルーガ伯爵をこの場で重罪認定致します』
懐に忍ばせておいた携帯からの声と同時、恐らく屋敷の外で待機していたのであろう連邦の傭兵部隊がなだれ込んで来る。
勿論、この部屋にも。
「なッ、こ、こ、これは一体??」
何が起こっているのか全く理解できていない様子のダルーガ伯爵に、止めの一撃を…
「あなたが危害を加えた護衛の格好をした女性は、モーシェブニ魔法王国第一王女、サラ王女殿下です。
隣国の王族に意図して危害を加えたのです。
知らなかったでは済まされませんよ」




