防衛戦 〜アディ自警団団長視点〜
(アディ自警団団長視点)
どぉおおおおおん!
どぉおおおおおん!
どぉおおおおおん!
(なにか、哀れね…)
辺り一帯は轟音に包まれ、敵陣からは歓声が聞こえてくる。
あれは戦場の、というよりは、むしろ祭りの高揚感に近い。
初めて見る兵器を前にして、自分達の勝利を信じて疑わないって感じね。
誰もいないとも知らず、得意になって砲弾を撃ち込んでいる敵陣を遠くに眺めながら、同時にこちらの部隊が配置につくのを待つ。
『アディ団長、全員所定の位置に移動完了。いつでも攻撃に入れます』
携帯から聞こえてくる部隊長の声に、全く動揺は感じられない。
『了解しました。
一応確認ですが、兵の中に動揺しているものは見られませんか?
このような大規模戦闘は初めてでしょうし、兵数では圧倒的に敵軍が有利です。
それにこの轟音ですから、兵の中には動揺する者がでても不思議はないでしょう?』
セーバの街が初めて体験する、戦争と言ってよいほどの規模の対人戦闘。
轟音を轟かせ、魔法の届かない距離からの攻撃を可能とする未知の兵器。
その雰囲気に呑まれてしまう兵が出ても、おかしくはないのだけれど…
『…団長? それ、なんかの冗談ですか?
うちの自警団に、そんなのいると思います?』
そんな苦笑混じりの返答が返ってくる。
『…まぁ、いないわね』
そう、いるはずがない!
だって、普段の訓練がアレだから…
…
………
……………
『うぎゃああああ!!!』
『チョッ! ま、、待って!!』
『死ぬ〜〜〜!!!』
『“大砲”みたいな質量兵器を魔法で再現すると、大体こんな感じですね。
あっ、でも、爆弾? 炸裂弾? みたいのだともうちょっと範囲が広いから、多分こんな感じで…』
『『『『ぅぎゃぎゃあああああ!!!!!』』』』
ザパド領に潜入した諜報員からの報告を聞いて、そこで見た巨大な鉄の筒を“大砲”だろうと当たりをつけたアメリア様は…
『ちょっと、対策しておきましょうか…』
そう言って、疑似大砲による攻撃を、早速訓練に取り入れた。
それが、目の前の惨状…
勿論、訓練はそれだけではない。
ピュンッ!
『ヒャア!!』
ピュンッ!
『ゥアア!!!!』
『攻撃を見てから回避しても間に合いませんよ!
魔力の流れや相手の動きから軌道を予測しなさい!』
『そんなの無r』
ピュピュンッ!!
『『『ゥギャギャアアアア!!!』』』
学院の休みを利用して戻ってくるレジーナちゃんによる特別訓練。
バアアアアアアアンンン!!!
ドゴオオオオオオオオンンンン!!!!
キィンーッ^%#$*%@$%〜〜〜〜〜!!
『水素爆発の魔法はだいぶマシになりましたけど、音響爆弾の魔法は制御が難しいです…
威力の制御もですが、音に指向性を持たせるのが…』
『『『『『…………………』』』』』
同じく、王都の訓練場では(危なくて)練習できないからと、大森林での自警団の強化訓練に混じって新魔法の練習をされるサラ王女殿下…
……………
………
…
『“大砲”の概要は既にアメリア様から聞かされてますしね。
ちょっと見ましたが、ただ砲弾が飛んでくるだけで爆発するわけでもありません。
この音だって、サラ王女殿下の魔法に比べれば大人しいものですよ。
別に、聞いたからって立っていられなくなるわけでも、昏倒するわけでもないですからね。
敵兵器のあまりのちゃちさに、油断するなって気を引き締めさせる方が大変なくらいです』
平常運転で何の気負いも感じさせない兵からの報告を受け、全部隊に攻撃開始の指示を出す。
遠方から魔法攻撃を仕掛ける者。
その隙に乗じて敵軍に切り込む者。
反撃されるなんて思っていなかった敵軍は大慌てね。
さて、このまま終わるか、それとも…
と、突然敵陣の中心付近に大きな煙が吹き上がり、辺りが青白い霧に包まれる。
(やっぱりね…)
まぁ、使うかなとは思っていたし…
想定よりも毒煙の範囲は広いけど、特に問題は無いだろう。
ただ、少し想定外だったのは…
先程まで聞こえていた怒声や戦闘音が収まり、急に静かになった敵陣内。
偶にわずかな戦闘音は聞こえてくるものの、戦場の喧騒はもう見られない。
代わりに目に、耳につくのは、地面に蹲り、碌に身動きもできず、うめき声を上げる敵兵士たち…
いや、なかには身形の良い貴族らしき者もいるか…
こちらの調査では、今ここにいる連中は皆、自らの意思で積極的にザパド侯爵を裏切り、ダルーガ伯爵と結託してセーバの街を狙っている者たちだと聞いている。
つまり、セーバの街を狙う盗賊と同じ。
助ける義理も無いし、その指示も受けていない。
私は、各部隊長と携帯で連絡を取りながら、煙に紛れて逃走しようとする敵を逃さないよう包囲を狭めていく。
煙で視界の悪い中で的確な連携を取る我が軍に、今も動き回っている敵は、為す術もなく捕縛されていく。
この毒煙の中で未だ動ける連中は、重要な情報を持っている可能性が高い。
故に、可能な限り捕らえる。
相手にとっては自陣に招き入れた敵を皆殺しにする秘策だったんでしょうけど、そう何度も同じ手が通用するほどセーバの街は甘くない。
「なぜだ!? なぜお前たちは立っている!? なぜ毒が効かん!?」
私の前に連れて来られた男に目を向ける。
「久しぶりね。会うのはこれで3度目だけど、やっと話ができそうで嬉しいわ」
怪訝な顔をする縛られた敵指揮官の前で、私は自分の仮面に手を伸ばす。
「!? アディ!」
「あら、私はあなたの名前も分からなかったのに、あなたは私の名を知ってくれていたのね。
バンダルガでの討伐作戦、前回の列車襲撃と、あなたには2度もしてやられてきたけど、これでやっと借りが返せそうで何よりよ」
苦々しい顔でこちらを睨む様子に、やっと溜飲が下がる。
「あぁ、毒のことならもうあなたも予想がついていると思うけど、この仮面よ」
「……今回使った毒は、都市攻略用に新しく開発されたものだ。
前回使ったものとは違う!
なぜ初見の毒に対応できる! 布や革をあてたくらいで防げる毒ではない。
使われた毒が分からなければ、解毒の魔法も効かないはずだ!」
そう、それが常識。間違ってはいない。
でも…
「この仮面の魔道具はね、大気中の毒を抜き出すものではないのよ。
アメリア様曰く、仮面の中で呼吸に必要な“さんそ”を、新しく生み出す魔道具だそうよ。
毒を含んだ外の大気は完全に遮断するから、どんな毒でも関係無いわ」
愕然とした顔の男が部下に連れられていくのを、黙って見送る。
あの男には、ダルーガ伯爵について知っていることを全て吐いてもらう。
前回の列車襲撃の時はともかく、バンダルガでは作戦に参加した仲間の冒険者たちが何人も死んでいるのだ。
楽に死なせるつもりはないわよ。




